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くらしと社会

これからの男の子たちへ

2022年11月23日(水・祝)、コープ自然派兵庫(ジェンダーチーム主催)は「これからの男の子たちへ:『男らしさ』から自由になるためのレッスン」著者で弁護士の太田啓子さんを講師に学習会を開催、社会から性差別をなくすために子ども時代からの教育の大切さについて聴きました。

弁護士・太田啓子さんは2人の男の子を育てるシングルマザー、神奈川県弁護士会に所属し離婚事案や家事事件、セクシャルハラスメント被害等を多く扱っています。

性差別構造が強い日本

 離婚訴訟事件でみられるDV・モラハラ夫の問題行動のパターンがよく似ていると、太田さんは言います。DVは家庭内暴力、モラハラとはモラルハラスメントの略称で相手を傷つけ貶めるような暴言や態度が日常的に行われることです。妻を罵倒し非難しつつ離婚を拒否し、「対等」な関係が嫌で、自分が上にいたい、支配したい、相手が自分の思う通りに動いてくれないことを被害と感じる特徴があります。

 離婚訴訟事件は、社会全体の性差別構造が個々のカップル単位で噴出するものです。男女の賃金格差により、女性は男性に経済的に依存しなければ生活できない状況に構造的に置かれています。社会全般に女性は男性に扶養される存在という思い込みがあり、女性の雇用を軽く考え、女性が解雇されやすい状況です。世界経済フォーラムが発表しているジェンダーギャップ指数(性差別の度合い)で日本は146ヵ国中116位と、特に政治と経済分野での格差が広がっています。働く女性は増えていますが、正社員の男女賃金格差は女性が男性の7割程度、また、専門性や責任がある仕事をしていても非正規雇用が多数。フルタイムで働く妻は1985年から増えず、パートタイマーで働く妻の世帯はどんどん増えています。「性差別構造が強い社会はビジネスが発展しません。日本が少子化問題など機能不全に陥っているのは、性差別構造によって日本社会全体が健全に動かず弱体化しているからです。パートタイマー労働が悪いわけではありませんが、高い収入を得たくても女性が仕事・家事・育児・介護を担わされている状況でパートタイマーを選ばされているというのが現実です。夫婦の家事育児関連時間を国際比較したところ、他国と比べて圧倒的に日本の女性の家事育児労働時間が長く夫は短くなっています。これは男性の長時間労働という問題もありますが、働き方と意識を大きく変えないと解決できません」と太田さんは話します。

「男らしさ」の呪いから

 性差別構造が強い日本で育てられた子どもは男女に関わらず、固定的性別分業意識や性差別的価値観が無自覚に植え付けられます。大人たちは自ら性差別意識を削ぎ落とす努力をし、子どもたちにはそのような価値観を植え付けないようしなければなりません。

 「Toxic Masculinity」(自他を害する過剰な男らしさへの執着)は1980年代にアメリカの心理学者が提唱した言葉です。「男らしさ」の特性に、暴力や性差別的な言動や自分自身を大切にできなくなる有害さが埋め込まれていると指摘しています。暴力を選ばない男性たちの団体「ホワイトリボンキャンペーン・ジャパン」では、他者だけでなく自分にも向けられる男という呪縛によってストレスを抱え込むことが問題だと指摘。「男らしさ」という言葉には、逞しい、強い、困難を乗り越える、リーダーシップをとるなどのイメージがあります。しかし、「男なんだから強くありなさい」「男なんだからリーダーシップをとりなさい」などの言葉の裏には、女はそうでなくてもよいという、女性蔑視のメッセージが隠されています。一方、男性は自分の悩みを相談したり、弱音を吐いたりしづらいなどの問題があり、統計的に自殺者やアルコール依存症が男性に多いということです。

 「ホモソーシャル」とは、同性同士の性的関係をもたない結びつき、女性と同性愛者を除外した男だけの絆という意味の言葉です。常に自分が男であると自己証明することに縛られ、競い合います。その手段には「達成」と「逸脱」があり、「達成」は社会的に成功するなど競争に勝つこと、「逸脱」は”価値観に縛られない俺は男らしい“といった理屈からわざとルールを破るなど、名門大学の男子学生が集団で性犯罪を起こす事件は「逸脱」の現れです。

子育てで感じる三大問題

 男の子を育てるときの三大問題として「男子ってバカだよね」「カンチョー放置」「意地悪は好意の裏返し」を太田さんは挙げます。ママ友同士の間で「男子ってバカだよね」という会話が度々あり、男の子同士の暴力的なケンカに「やり返してこい」や「男の子はそういうものだから放っておけばいい」と反応する大人が多く、一方、女の子の同様の行動は見すごされることがありません。「カンチョー」は小学生男子がふざけてとる行動ですが、明らかな性暴力です。性暴力をヤンチャな文脈に位置づけることは、性暴力に対する認識を誤らせることになり、スカートめくりも同様の問題で放置することは性暴力の矮小化になります。また、「男子は好きな女子に意地悪しちゃうもの」という言説があり、被害を受けた女の子に対して「嫌だったね。でもあの子はあなたのことが好きなのよ」と慰めることがよくあります。暴力的な行為であるにも関わらず、加害者側からの一方的な好意によって暴力性が弱まり、加害が減るような勘違いをさせかねません。このような考え方のまま大人になると、職場などでセクハラを見聞きした時、理解し対処できるか疑問です。

マジョリティ側の特権

 マジョリティ(多数派)とマイノリティ(少数派)は単純に数の多さで分けるのではなく、より大きなパワーや権力をもっている側がマジョリティ、そうでない側がマイノリティになります。上智大学教授・出口真紀子さんはマジョリティの特権を自動ドアに例え、社会ではマジョリティに対してドアが開きやすい仕組みになっていて、あまりにも自然に自動ドアが開いてくれるのでその存在すら見えなくなってしまう、自分に特権があると気づかず、このような状況が「当たり前」「ふつう」だと思って生きていると説明しています。性別、民族、学歴、性的指向、所得、身体・精神などのアイデンティティの中でさまざまな属性があらゆる差別問題につながり、自分がマジョリティ側であるときほど、その問題が見えづらいとのこと。差別には直接的なものだけでなく、制度や法律などシステマティックな差別、属性によって美しさやふるまい方の基準を決められる文化的差別があり、自分自身が差別をしているかどうかだけが問題ではありません。構造的な特権や差別に無頓着であったことを指摘されると居心地が悪いものですが、冷静に聴くという訓練がマジョリティ側に必要です。「自分の属性によって見えづらいものがあり、それは仕方がないことですが、自分が気づかずに暮らせていると知ることが第一歩だと思います。性差別構造がある社会で男性はマジョリティとしての特権をもっていることを自覚し、積極的に抗ってほしいと願っています」と太田さんは話しました。

Vol.481(2023年2月)より
一部修正

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