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食と農と環境

漁業・水産業の再生へ

2022年度、コープ自然派事業連合商品委員会は「水産」をテーマに産地訪問や学習会を実施。
2022年11月28日(月)には、一般社団法人生態系総合研究所・小松正之代表理事による学習会「沿岸と海洋生態系の自然力活用で漁業・水産業の再生へ」を開催しました。

一般社団法人生態系総合研究所・小松正之代表理事(中央)とコープ自然派事業連合・前田商品部統括マネージャー(左)、正橋委員長。水産庁出身の小松さんは、国際機関等の主要ポストを歴任し、現在、森川海の健全性を基盤とした農林水産業の必要性を日本各地で訴えています。

世界の漁業養殖業の現状

 日本は1974年から1991年まで漁業・養殖業の生産量は世界一でしたが、現在は世界10位にまで下がっています。「日本の水産業の凋落は農業同様、鉱工業を中心に輸出で外貨を稼ぎ農林水産物を輸入するという国策の破綻・失敗によるものです。建設業などを中心とした環境に負荷をかけ破壊する産業振興の傾向は今後も続くことが予想され、将来は食べるものがなくなるかもしれないという未来にわれわれは向き合わなければならなくなるでしょう」と小松さんは言います。

 1982年、国際海洋条約が採択、排他的経済水域が設定され、日本の遠洋漁業の漁獲域が大幅に減少。そのため、沖合漁業によるイワシ・サバ・アジが乱獲されました。日本の沖合・沿岸・養殖業の漁獲高はピーク時から約670万トン減少し、スルメイカとサケ、サンマの不漁は外国漁船の乱獲が主因ではなく、日本の200海里区域内の漁獲と資源の管理が適切に行われていないことが問題です。

 現在、国内の肉類の消費は魚介類の1.5倍、畜産物は輸入飼料に頼り、排せつ物による土壌や河川の環境汚染問題もあります。一方、天然魚はエサが不要で、排せつ物も循環されて処理の必要がありません。円安や世界の消費増から日本の水産物輸入量はピーク時の約380万トン(2001年)から約220万トン(2021年)まで減少。「今後、さらに水産物の輸入量は減少することが予想されます。しかし、輸入に頼るのではなく国内生産を強化し、与えられた自国の200海里排他的経済水域の中で環境と生物多様性を活用し、温暖化に対応した生産の法制度を構築していかなければなりません」と小松さんは話します。

日本の漁業の法制度

 日本では水産資源が国民の共有財産という位置づけがなく、所有者のない魚は先にとった者の所有物になる「無主物先占」という考え方のもと水産資源の管理制度で行われていることが問題です。

 江戸時代に漁業権(特定の漁場において特定の漁業を独占的に営むことのできる権利)と入漁権(他人の漁場で漁業を営む権利)の慣習が始まりました。漁村の地先で行われる漁業はその部落全体の所有となり(実際はその地の庄屋・津元・網元などが所有)、沖合は共同で利用されました。1875年、明治政府は再度、申請者に許可を与える制度を導入、しかし、既存の漁業者から反対があり翌年には撤回しました。その後、各部落に漁業組合(網元の組合)が設置され、旧「明治漁業法」(1901年成立)により現在の漁業権のベースがつくられました。それは、政府が漁業組合に免許を与え、漁業組合は魚漁者一人ひとりに漁場の利用の行使の権利を再配分するというもので、漁業組合の権力が強化されました。1910年、「明治漁業法」が成立、漁業権を土地と同じ法的な権利を有する物件とみなすことで担保価値が発生し、経済価値が与えられ、後の漁業協同組合と組合員の経済事業の根拠となります。当時、貴族院から「公共の財産を漁業組合の経済的私有物とするものだ」と反対する声がありました。

海の温暖化と環境保護

 日本近海の過去100年間の海面水温は大阪湾周辺で1.24℃上昇、水深が浅い瀬戸内海はすでに2℃上昇していると予想されます。海水温1℃の上昇は気温の10℃に相当するため、魚や環境への影響は甚大です。

 2021年、小松さんが四万十川流域の科学調査を実施したところ、護岸工事や工場・都市下水排水、ダム建設などの影響で水流・水質が悪化していることがわかりました。四万十川周辺に広がる生姜畑では、農薬クロロピクリン(スポイト1滴で人が死ぬ劇薬)を1軒の農家で10リットル缶100個使用し、畑の側溝から川に流れています。海には小魚・プランクトン・バクテリアなど多様な生物が大量に生し、川から流れた栄養や汚染物質を分解し、浄化作用が行われます。しかし、化学物質と塩素系薬剤が含まれる医薬品や化粧品、下水、工場排水や農薬などで汚染された水が川から海に流れるため、これらのバクテリアや微生物は減少・壊滅状態。このような海に分解・浄化作用はなく、富栄養分のヘドロ化と水質の劣化がすすむだけです。

 湿地帯は二酸化炭素やメタンガスを吸収しますが、戦後、全国の干潟の40%が失われました。堤防やダム開発は水の量や流れ、水質を変え、生物多様性に影響します。スミソニアン環境研究所のデータによると、河口の開発が20〜25%進むと水辺の動植物の多様性が100%変化し、環境が悪化するということです。

 そこで、小松さんは自然工法による水辺の再生をすすめています。堰やダムを廃止しその跡に生物・生態系に適合した小石や砂利と枯れた木材を入れ、周辺は植草・植樹して川の流れを緩やかにします。堤防を撤去し段差をつくることで水が少しずつ自然な形で流れ、生物が定着するようになります。

Vol.480(2023年1月)より
一部修正

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