Table(タブル)はコープ自然派の情報メディアです。

食と農と環境

奈良からはじまる食と農

2022年7月10日(日)、コープ自然派奈良は奈良県文化会館で創立20周年記念式典を開催。講演会、歴代理事長によるトークセッション、販売会などを行いました。講演会ではプロジェクト粟代表・三浦雅之さんを迎え、奈良の食と農、文化などをテーマにコープ自然派奈良と地域の未来について考えました。

プロジェクト粟代表・三浦雅之さん、レストラン「清澄の里 粟」「粟 ならまち店」はミシュランガイド奈良2022でミシュラングリーンスターを獲得。

伝統野菜で地域を活性化

 三浦さんが代表を務める「プロジェクト粟」は、「NPO法人 清澄の村」「五ヶ谷営農協議会」「株式会社 粟」の3つの組織を連携運営し、コミュニティ機能の再構築と地域創造への貢献を目的に設立。「NPO法人 清澄の村」は、奈良盆地の東端に位置する奈良市高樋町(旧五ヶ谷村)で、1998年から在来種の調査・研究・栽培・保存などを行ってきました。「五ヶ谷営農協議会」は奈良の伝統野菜の栽培、景観の維持や生物多様性の保全、地域産業の創出、農村文化の継承などを行う営農組織です。「株式会社 粟」は2つの組織で栽培した野菜を使用し「清澄の里 粟」「粟 ならまち店」でのレストラン経営、加工商品開発、コミュニティづくりなどを行い、農村の活性化を実現しています。「粟 ならまち店」は、高樋町から車で15分の場所にあり、デリバリーとフードロスなどの問題を解消できる立地として2009年に奈良町に出店しました。

 粟(あわ)は米・麦・きび・豆とともに古事記や日本書紀に登場し、稲と同様に日本で最も大切にされてきた穀物です。大和言葉で粟は、「あ」…すべてのはじまり、「わ」…すべての調和という意味があります。また、粟は1粒の種籾から7000〜1万粒に増える穀物の中で最も豊穣な作物で、「一粒万倍日」という言葉の語源でもあり、美味しく機能性に優れているということです。

継承される大和伝統野菜

 かつては日本全国で多くの伝統野菜が栽培されていましたが、1961年の農業基本法制定で農業が工業化することで農薬の使用が増加し、野菜が単一化されていきました。1998年、三浦さんが調査を始めた頃は、9種類の大和伝統野菜しか把握されていませんでしたが、現在、プロジェクト粟で栽培している農産物140種類のうち53種類が大和伝統野菜です。生産者は野菜をつくり続けてきた理由について、「つくりやすいから」「家族が好きだから」と話します。在来種は土地の気候風土に適しているため栽培しやすく、美味しいのですが、流通させるにはサイズや形状など手間がかかることから、家族を対象としてつくられてきたのです。

 伝統野菜が減り始めた頃、中小家畜も同様に減少し、1955年に50万頭いた在来ヤギは2万頭まで減りました。三浦さんは在来ヤギを復活させる取り組みを始め、20年間で83頭が誕生、79頭の子ヤギを里子に出すなど、ヤギのネットワークを広げています。ヤギは畑の雑草を食べて育ち、肉や乳を提供する優れた家畜で、犬に負けない知性をもち地域のパートナーとして大切にされているということです。

はじまり、未来を紡ぐ

 奈良は日本の食文化の発祥の地、伝統野菜とともに歴史文化資源も豊富です。5年前から三浦さんは奈良発祥の事象について専門家に話を聴き、歴史文化をアーカイブ化する活動を開始。奈良に伝来したものは、饅頭、茶、漢方、仏教、律令制、胡椒があります。奈良で発祥したものは、完全甘柿、苺の促成栽培、清酒、奈良漬け、柿の葉寿司、そうめん、氷室、大和スイカ、吉野葛、蘇(乳を煮詰めた保存食品)、万葉集、奈良晒、奈良筆、奈良墨、木簡、能楽、相撲、神話、貨幣、神宮、福祉、吉野林業、樽、公開図書館、田畑輪換農法、割り箸。都だった奈良は大陸から最新の文化が入り「伝来」した地であり、生み出し「発祥」した地でもあります。

 これらの歴史文化資源を再活用するための視点として、三浦さんは「七つの風」をあげます。1つ目の風が気候風土の「風土」、2つ目は食べることを表す「風味」、3つ目が「風景」、4つ目は自然の中で豊かに生きる知恵の「風習」、5つ目の「風物」は生活工芸、6つ目「風儀」は生活文化。これら6つの風の中で培われるものが「風情」で、価値観や心持ち、県民性などが子どもたちの心をつくります。また、「紡ぐ」をキーワードに「繊維に縒り(より)をかけて糸をつくること」「言葉をつなげて文章にする」、物語・思い・幸せ・人生・命などの貴重なもの形がないものを「1つにつなげる」生き方が未来をつくるうえで大切になると三浦さんは提案しています。

「生協は誰かを孤独にしないためにつながり、対話で解決する訓練をし、助け合ってきました。コープ自然派奈良が20周年を迎えられたのは、関わっていただいたみなさまのおかげだと深く感謝しています」とコープ自然派奈良・上市理事長(左)。奈良市地区くらぶ・ゆったりさんで活動中のコープ自然派奈良・山田さん(右)が司会・進行を務めました。

Vol.472(2022年9月)より
一部修正・加筆

アクセスランキング

DAILY
WEEKLY
MONTHLY
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  1. 1
  2. 2
  3. 3

アーカイブ

関連記事

PAGE TOP