タネ屋に生まれ、旅するタネに魅了されていると話す西川芳昭さん

2019年1月27日(日)、コープ自然派兵庫(「ビジョン食と農」主催)は、有機農業の日記念イベントとして、ドキュメンタリーDVD「種子― みんなのもの?それとも企業の所有物?」の上映会と西川芳昭さん(龍谷大学経済学部教授)を講師に学習会を行いました。

タネとヒトの関係を研究

 ドキュメンタリーDVDでは、ブラジル、アルゼンチン、メキシコなどラテンアメリカ8ヵ国で広がったアグロエコロジー(多国籍企業から種子を守り、次世代に受け渡す活動)に取り組む農民や先住民族、市民の姿が描かれています。

 続いて、奈良の「タネ屋」で育ったという西川芳昭さんのお話。西川さんの生家ではタマネギと緑肥用のレンゲを専門に販売だけでなく採種も行い、西川さんはタネの魅力に包まれて育ちました。大学では遺伝学や種子生理学を学び、専門は農業・農村開発、資源経済学。「奪われる種子・守られる種子」「種子が消えれば、あなたも消える 共有か独占か」など多数の著書があります。

タネは誰のもの?

 2018年4月、「主要農作物種子法(種子法)」が廃止されました。「種子法」は、主要農作物である稲・麦・大豆に関して各都道府県が(1)奨励品種の決定に関わる試験の実施(2)奨励品種の原種・原々種の生産(3)種子生産圃場の指定、圃場審査、生産物審査、および種子生産に対する指導・助言、を行うことを定めていました。「種子法」廃止は国の食料安全保障責任と食料主権行使からの撤退だと言えます。しかし、廃止に伴う議論には不正確な部分があるのではないかと西川さんは問題提起します。

 「種子法」廃止によって、グローバル企業に種を売り渡すことになり、遺伝子組み換えイネの研究が進むのではないかと懸念されています。しかし、「種子法」廃止をそのような議論に繋げると「タネは誰のもの?」という本質が見えてこないと西川さん。種をつなぎ守っていくのは農家です。地域特有の風土で育てられたタネは地域特有の農業・食材・食文化を生み出し、そこに暮らす農家の人の協働の力で多様なタネになってきました。「種子法」によってタネの供給が保証されてきた半面、奨励品種制度や種子更新の徹底によって、農家の品種選びや自家採種の権利を奪ってきたという一面もあります。さらに、「種子法」廃止以上に、種子生産農家の高齢化で種子の作り手がいないことが深刻な問題だと言われています。

 私たちが口にするもののほとんどは海外を原産としており、日本原産はフキ、ミョウガ、ミツバ、ウド、ワサビなどごくわずか。新潟県などで作られているコシヒカリBLと言われる稲品種のイモチ病耐性遺伝子はフィリピンやアメリカなどから来ています。「そう考えると、日本のタネを守るという議論は、作物と人間の世界的な相互依存関係からかけ離れています。公的な供給、民間企業によるもの、農家の自家採種など多様なタネの供給システムがあることで持続可能な農業と食が保たれるのです」と西川さんは話します。

地域でタネをつなぐ

 「種子法」は食料自給や地域に適した品種の振興に必要な世界有数の種籾供給システムを支えてきましたが、廃止を受けて各自治体は、予算の確保を担保する条例を制定するところと、要綱要領のみの対応のところ、実質的に撤退するところと動きに差が出ています。

 一方で、日本各地でタネを継ぐ取り組みがあります。広島県農業ジーンバンクでは、かつてつくられていて今はつくられなくなったタネを保管し、農家や市民が使ってみたい場合に貸し出すシステムがあります。長野県では伝統野菜品種のタネをハイブリッド技術利用で守り、伝統的なカブやダイコンを作っています。宮城県鳴子温泉郷では県の試験場と農家、温泉組合が協力して「ゆきむすび」という品種の米を作り、耕作放棄地をよみがえらせました。京都の桂高校では、京都伝統野菜14種の種子を更新・貯蔵して次世代につなげるとともに、農家との交流も図っています。また、大分の焼酎「いいちこ」はオーストラリア産原料であることから国の試験場が開発した大麦を使って、同じメーカーが純大分産麦100%の地域ブランド「西の星」を製造しています。

持続可能であるために

 何をつくりどう食べるか、私たち一人ひとりが決める権利を食料主権と言います。今後の農と食の営みが持続可能であるためには何ができるのか、タネとどう向き合っていくべきか。食べる人ができることは、毎日の食を考え変えていくことだと西川さんは話します。

 「自分は今、何からできたものを食べているのだろう?農産物の価値を理解し、農家の生活を支えるためにも対価を支払う。コープ自然派のように生産者とつながる流通システムのもと、若い農家を支援していくことが大切ではないでしょうか」と西川さんは結びました。

* 参考文献「みんなに知ってほしい種の話」(西川芳昭監修)、「種は誰のものか 地域と運動の現場から考える種子法のこれから」(大野和興)

Table Vol.392(2019年5月)