コープ自然派など全国のこだわり10生協が加盟する生協ネットワーク21は、ネオニコチノイド系農薬の学習会を3回連続開催。2022年2月23日(水・祝)には、東京女子医科大学・平久美子さんを講師に、子どもたちへの影響について聴きました。
生態系と人体への悪影響
ネオニコチノイド系殺虫剤(以下、ネオニコ)は昆虫の神経伝達を阻害することで効果を発揮し、ミツバチの失踪や大量死の主犯とされる農薬です。1990年代前半から国内で使用が始まり、現在はアセタミプリド、イミダクロプリド、チアクロプリドなどの一般名で10種類(類似物質を含む)が登録されています。米国ではネオニコのミツバチへの影響を危惧して2015年以降、新規のネオニコは登録できなくなったため、ネオニコには分類されていませんが、同じ特徴と作用をもつフルピラジフロン、スルホキサフロル、トリフルメゾピリム、フルピリミンが使用されています。
ネオニコは昆虫のニコチン受容体に結合して作用し、環境中で分解が遅く、水と油に溶けるため、飲食物や空気から体内に吸収されます。そして、脳、精巣、胎児など全身に拡散し、人を含む哺乳類のニコチン受容体に結合し作用します。分解が遅いものは組織に蓄積し、分解されて毒性が強くなるものもあります。
世界各地のネオニコ汚染
1993年5月、島根県宍道湖のワカサギ、シラウオ、ウナギの漁獲量が激減しました。1993年はネオニコの使用開始時期と重なり、ワカサギのエサになる動物プランクトンが同時期に激減しています。この年の島根県のネオニコ出荷量は120kgのみですが(2018年は1169㎏まで増加)、ネオニコに対する水生動物の感受性に種差があり、毒性が時間とともに加速するため、急性半数致死濃度(化学物質の急性毒性の強さを示す指標)よりはるかに低い濃度でも数日で死ぬ水生動物が複数あるということです。
2004年、群馬県で松枯れ防除のためのネオニコが大量散布され、散布の半日から数日後にかけて胸痛、動悸、胸苦しさを訴える患者が急増。翌年も多数の人が同様の症状を訴えました。2006年、散布を中止しますが、国産果物や茶飲料を摂取した人たちに同様の症状が発生。患者の尿からはネオニコとネオニコの分解産物が高濃度・高頻度で検出されました。当時、日本では食品のネオニコ残留量がかなり多く、食品や水、大気など複数経路からの暴露によりネオニコの体内濃度が上昇していたと考えられます。
中国の北京周辺の都市部で水道水からネオニコはほとんど検出されませんが、東部・中央部・南部では大量に検出されます。非常に毒性の強いデスニトロイミダクロプリドも人の尿から頻繁に検出され、世界中の研究者が驚愕しました。また、精液中のネオニコ濃度が高いと精子の運動性が低下すること、血液中のネオニコ濃度が高い人に肝臓がんや血中脂質の異常、歯周病が多いことが報告されています。
米国では尿中ネオニコ濃度と血中インスリン濃度や空腹時血糖値に関連がみられることがわかり、ネオニコが糖代謝に影響することが疑われています。
フィリピンの3つの島で土と住民の毛髪のネオニコ濃度を調べたところ、バナナ栽培が盛んな島では両者の濃度が高いことがわかりました。
スリランカの北部および中央部の乾燥地帯では、ネオニコの使用を開始した時期に原因不明の腎臓病が急増。患者数が人口の10%を超える地区もあり社会問題化しています。この腎臓病は尿細管機能低下が特徴で、尿中のネオニコ濃度が高いということです。
胎盤を通過して脳に影響
2009年1月から2010年12月に獨協医大病院でICUに入院した新生児57名の出生直後の尿を分析したところ、15名からネオニコが検出されました。新生児ICUでは出生後48時間は母乳を与えないため、ネオニコが胎盤を通過し胎児に移行したと推定されます。また、妊娠中のマウスに低用量(0.5mg/kg/日)のネオニコを投与する実験をしたところ、胎仔(たいし)に移行し肝臓と脳に蓄積して神経発達に影響を与えたことが判明。生まれた仔マウスの脳のニコチン受容体が増加し、活動亢進、社会的支配指向性、うつ様行動の減少、社会的攻撃性の減少など行動に影響がありました。
日本で生まれる子どもの数は減り続け、2004年から2014年の間に10%、2010年から2020年で21.5%減少。それに反して、不登校児童や軽度の障がいがある児童生徒、特別支援学級・学校の在籍者数が倍増し、ネオニコが尿中から検出される種類と量の増加時期と一致しています。
大量のネオニコを使い続けることは、環境や生態系にさまざまな悪影響を与え、住民の高濃度暴露を引き起こし、健康障害(発達障害、不妊、肝臓病、腎臓病、糖尿病、脂質異常症、歯周病など)をもたらす可能性があります。
「生産者や生産地の周辺住民、生態系に負担を強いる食料確保の仕方に疑問を感じます。ネオニコを体内に溜め込まないためには、摂取し続けないことが大切。子どもたちのために農薬の使用を減らす決断が世界中で始まっています。有機農業は世界のトレンドです」と平さんは締めくくりました。
Table Vol.463(2022年5月)より
一部修正・加筆
生協ネットワーク21連携開催ネオニコフリー連続オンライン学習会
・第2回学習会(2022年3月22日)
・第3回学習会(2022年4月22日)