「種苗法」改定が秋の臨時国会で審議される予定です。2020年9月3・4日、コープ自然派奈良、コープ自然派京都は印鑰智哉さん(「日本の種子を守る会」アドバイザー)を講師に「種苗法」改定の問題点と私たちが何をすべきかなどについて学習会を開催しました。紙面では印鑰さんのお話の一部を掲載します。

ウイルスと生物の関係や微生物と人間の共生、土壌の危機など印鑰智哉さんのお話は衝撃的な内容から始まり、これから私たちが何をすべきかが明らかにされました。

コープ自然派京都での司会を務める近藤常任理事。

「種子法」廃止の背景

 2018年4月、「主要農作物種子法」(以下、「種子法」)が廃止されました。「種子法」とは主要農作物である米、大豆、麦類が安定的に生産できるよう種子を国が管理し、都道府県は原種・原原種の維持、優良品種の選定および奨励を行うことを義務づけた法律。「種子法」廃止の目的として「民間企業が参入しやすくする」ことが挙げられ、「種子法」廃止と同時期に「農業競争力強化支援法」が成立、この中で、地方自治体が持っている種苗生産のノウハウを民間企業に渡すよう定めています。さらに、「都道府県は民間企業が種子生産への参入が進むまでの間、種子の増殖に必要な栽培技術などに係る知見を民間企業に提供する」ようにという農水省事務次官通知が出されました。

 「種子法」廃止によって種子生産が民間に移れば、種子の生産や管理は企業の儲けになるかどうかで決まり、農家はライセンス契約で縛られます。そして、農業のあり方や食のあり方が変わり、消費者・生産者の食の決定権が失われることが予想されます。

「種苗法」改定の目的

 「種子法」廃止に続いて、「種苗法」改定が今年度の通常国会で審議される予定でしたが、新型コロナウイルス感染拡大と反対意見が国会に多数届けられたこと、また、柴咲コウさんのTwitter発信が大きな話題となり、審議は秋の臨時国会に持ち越されました。

 「種苗法」とはすべての農作物の登録品種を保護するための法律で、新品種を育成した人の知的所有権を守ることが定められています。そして、改定案では、国に登録された品種を農家が自家増殖する際には開発者の許諾が義務付けられます。

 「種苗法」改定の目的として、「日本の優良な品種が海外に流出することを防ぐため」と農水省は説明。日本で開発されたブドウやイチゴなどの優良品種が海外に流出し、第三国に輸出・産地化された事例があるため、登録品種の自家増殖を禁止するとしています。「しかし、国内で自家増殖を禁止することで流出を防げるでしょうか。これまで海外に種を持ち出したのは日本の流通業者だったと考えられます。新品種の育成者権を持つ農研機構が海外で品種登録していれば手を打てたのではないでしょうか」と印鑰さん。現に農水省は2017年11月、「海外流出を防ぐには海外において品種登録を行うことが唯一の対策である」と断言していました。

 また、「改定の対象となるのはほんの少数の登録品種のみ。在来種など一般品種は対象ではない」と農水省は説明。しかし、「道府県が決定している稲の産地品種銘柄でも登録品種の方がむしろ多く、県が力を入れている作物では登録品種の割合が多くて改定の対象となるのは5294品種に及びます」と印鑰さん。さらに、改定の目的として「農家が種苗を自家増殖すると民間企業が新品種をつくる意欲を失う」ことが挙げられていますが、「自家増殖している農家でも定期的に種子を買っています。最大の問題は種苗を買う農家が減少していることで、買い手を増やす施策が欠けている」と印鑰さんは批判します。

 また、農水省は「許諾料は安いし、団体でまとめて許諾を行うことも可能で手間もかからない」と説明していますが、種子が都道府県から民間企業に移行した後は安いままであるはずはなく、許諾しないケースも多くなると予想されます。そして、農協などに加盟していない農家は手続きも負担になります。

 登録品種の許諾制はグローバルスタンダードだと農水省は説明しますが、ヨーロッパやアメリカでは穀類など主要作物は自家増殖を可能とする例外を設定していて、それはUPOV条約(穀物の新品種の保護に関する国際条約)でも認められています。

「種苗法」改定に対して

 「種苗法」改定に対して私たちができることとして、印鑰さんは以下を提案します。

  • 地方議会で「種苗法」改定反対、あるいは審議の慎重審議を求める意見書を出す。
  • 国会議員事務所に電話をして、反対の声を伝える。
  • 周囲の人、農家の人に問題を伝える(「日本の種子を守る会」のパンフレットを広げる。サイトを印刷して伝える)。
  • 「種子法」廃止時と同様に地方議会で条例を制定し、改定による影響を緩和することも可能(「種子法」廃止後、23の条例が制定されています)。
  • 種子の基本法を制定する。

種子の多様性の危機

 アメリカでは80年間で93%の種子、世界では100年間で75%の種子が農業生産から消失しています。たとえばスイートコーンは1903年に307種あったのが1983年には12種に。2050年には100万種の生物が絶滅する可能性が指摘され、農業生物多様性をいかに保つかが重要な課題です。在来種は農家が守ってきましたが、後継者がいなくなれば絶滅します。種子を守るには個々の農家では限界があり、在来種保全・活用のための支援政策が必要です。アメリカでは昨年、先住民が守ってきた在来種を守る法案が提出されました。ブラジルでは「クリオーロ種子条例」を2003年に制定。韓国では「ローカルフード育成条例」を33の自治体が制定しました。

 そして、国連も路線を転換しています。かつてFAO(国際連合食糧農業機関)は農業の大規模化・企業化をすすめてきましたが、2007年~2008年の世界食糧危機を経て、2014年を「国連家族農業年」、2019年から2028年を「国連家族農業の10年」と定めています。また、2018年には「小農と農村で働く人々の権利宣言」「種子の権利」を発しました。

食のシステムを変える

 健康や環境問題、気候変動などの背景には「食の問題」があると世界が認識するようになりました。アグロエコロジー(生態系を守る農業)に転換することで病気も減少し、環境も気候変動も変えられます。そして、食・農業を変えるには農薬や化学肥料を使っていない種子が必要です。ジェーン・グドールさん(動物行動学者・霊長類研究者)は「新型コロナウイルスは自然の過剰な搾取が原因」、山本太郎さん(感染症研究者・長崎熱帯医学研究所)は「パンデミックは社会変革の先駆けとなる」と発言しています。

 グローバルな食からローカルシステムへ。これは食料自給率が低い日本にとっては急務です。必要なのは地域で種取りするしくみをつくること、そして、キーワードは学校給食です。ヨーロッパで有機農業が広がったのは学校給食に提供したこと、韓国ではすべての学校給食に有機米が使われています。日本でも千葉県いすみ市では市内の小中学校すべての給食のお米を有機米に、石川県羽咋市では給食のお米を自然栽培のお米に変えました。世田谷区では学校給食の無償化・有機化に向けた運動が始まっています。

地域の食の政策づくりを

 有機農業は労力を要し、収穫量も少ないと敬遠されがちですが、生態系を生かせば手間を減らして収穫を上げることも可能になります。民間稲作研究所・稲葉光圀さんは雑草の特性を知り尽くした深水管理による抑草技術とSRI農法によって低投入・高収穫を実現、経営が成り立つ規模に圃場を増やすことが可能になりました。

 世界で注目されている産直・提携は日本が発祥、ローカルフードを掘り起こす先駆的な活動です。そして今、求められるのは農村自治体と都市自治体の新たな提携のもと学校給食や病院、子ども食堂など地域の食の政策づくりを市民参加で行うことです。

Table Vol.425(2020年10月)より
一部修正・加筆