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連載

子育てのまわりで~掌を添えて~

 AIの進化は目覚ましい。高齢化や一人暮らしの増加、時短社会の中では強い味方だが、よけいなお世話のものも数々、日常の機器の中で無意識にお世話になっている。片手でできるボタンひとつ指先ひとつで遠隔操作だってできる。けがや体調不良、忙しい時にはホントにありがたいと思う。  

 忙しい時は字の如く己を亡くす。時間も気持ちも余裕も亡くす。過程ではなく結果に頼る。料理も手間いらずで栄養バランスがとれて見ため豪華、という結果を追う。  

 生命誌研究者の中村桂子さん曰く「生の充実とは思い通りにならないものを、手塩にかけて育む。時間を飛ばすのではなく、紡ぐこと。自分も生きものの1つという原点を見据えるためにも農業を学べ」と。  

 小さい頃から母によく言われた。「ものには最後まで手を添えて」と。ものを置く時、戸を閉める時、お皿を並べる時…。はき掃除をする時、箒の先をはねあげない、掃除機を角にぶつけない、確かに。忙しく立ち回っている時は最後に手放す。

 今、指だけで操作できる日常の風景の中で、子どもたちは育っている。それは今後さらに拍車がかかるのは明らか。  

 両手を添えて両手を使って両手を合わせて、そんなしぐさや行為をおとなが意識的にする時代なのかもしれない。

 我が家の3軒隣に「NPO法人ののはなのおうち」ができた。「おひさまのおへや」 という未就園の親子クラスと、「糸がたりの小部屋」という手仕事の場として、そして、さまざまなおとなの学びの場として。 小さな人にも大きな人にも、畏敬をもって温かく迎える小さなおうちが歩み始めている。

 「糸がたりの小部屋」に座り、糸がどこから来てどんなふうにこの手を使ってどう変容していくのか、静かな語りを聴きながら、2つの手の中でゆっくり感触と質感を味わう。ものに生命をもたらす手仕事のひとときは、わたしのいのちに問いかける時間ともなる。  

 掌=たなごころは「手の心」の読み方が転じたもので、手の中心や大事なところ。 明珠在掌(みょうじゅたなごころにあり) とは、真に大切なものはどこか遠くに探すものではなく、自分の手の中にあるという。 合掌。 (ohisama)

ohisama プロフィール
「NPO法人みのおシュタイナーこども園友愛会」が今年5月より「NPO法人ののはなのおうち」と改め、代表理事を務める。コープ自然派おおさか組合員。

Table Vol.370(2018年7月)

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