2018年4月28日(土)、NPO国産材住宅推進協会主催の現場見学会が行われました。「大坂の食い倒れ、京の着倒れ」に並び「建て倒れ」と称された町・堺を散策。建築士事務所民家が建てた住宅を訪問した後、堺市立町家歴史館「山口家住宅」・「清学院」を見学し、江戸時代の風情を体感しました。
新建材を一切使わない家
見学会の参加者20名が集合したのは南海本線「浜寺公園駅」。旧駅舎は東京駅などを手がけた建築家、辰野金吾の事務所が設計した築100年超の国の登録有形文化財で、赤と白のレトロな洋風の木造建築です。昨年1月に仮駅舎に役割を譲り、曳家(ひきや)工法で 30メートル移動させて現在は図書コーナーやギャラリー、カフェも併設し地域の交流拠点として再出発しています。高架化が完了する10年後に再び移動させ、新駅舎の一部になるということです。
東側には戦前から建っていると思われる屋敷が残る高級住宅街があり、見学会の目的地「N邸」はその一角にあります。このエリアは大阪で初めて開発された別荘地帯で、第一種低層住居専用地域に指定され、用途制限があるため低層住宅がゆったりと立ち並んでいます。「今から16 ~17年前に、身体の弱かったおつれあいのために計画されたお家です。『新建材を一切使わない家づくりを』との依頼を受けて基礎や外壁を仕上げ、屋根の断熱材に至るまで土と木を中心とした自然素材にこだわりました。今では伝統的な技術をもつ大工さんはひと握りにすぎません」とNPO国産材住宅推進協会・北山康子代表。残念ながら着工前におつれあいは亡くなりましたが、2階のギャラリースペースには遺作の絵画が展示され、この家を見守るかのようです。
見えない所に贅を凝らす
「趣味の山歩きでログハウスに1泊し、やはり木の家は気持ちがいいと実感したことがありました。それが家づくりの出発点で、息子も東京から駆けつけ 何度も打ち合せを重ねました。今でも天井の木組みを見上げると、ログハウスに泊まった時の感動がよみがえります。つくづく建てて良かったと思います」とNさんは振り返ります。休日に息子さん一家が帰り、9人になってもゆったり過ごせるということで、屋根裏部屋やウッドデッキは孫たちのお気に入りの遊び場だと笑います。
50坪の敷地に建つ家は、置き屋根工法に腰屋根を施して明るさと通風を良くしています。また、大きな開口で庭の景観を取り込み、引き戸でスペースを有効活用するなどの工夫が凝らされ、上下階とも床面積 20坪とは思えないほどの豊かな空間が広がっています。
屋根瓦は淡路産いぶし瓦を使用。基礎パッキンの代わりに120㎜角・ 25㎜厚の御影石を敷き、床下を縦横無尽に通気できる設計です。外壁の土壁は厚い ところでは21㎝もあり、厚みに対応できる粘り気ある土を名古屋から取り寄せ、お城などの施工を手がけた左官職人が来阪し施工に当たったという徹底ぶり。ダイニングと浴室には低温床暖房を採用。炭化コルクを敷いて銅管を通し、上に銅板を敷き詰めています。また、内壁は石膏ボードではなく木小舞を下地に張り、塗り壁仕上げとして います。
設計のポイントは枚挙にいとまがないのですが、施主の情熱とその思いに応えるプロの技に感動し、あちこちで感嘆の声が上りました。
町家にタイムスリップ
居心地のいいN邸を後にし、 路面電車で向かったのは堺市立町家歴史館である「山口家住宅」(国の重要文化財)と「清学院」(国の登録有形文化財)。山口家住宅は国内でも数少ない江戸初期の町家の1つで、近世初期の町屋を知る上で貴重な建物だということです。引き戸をくぐると、自然光だけの薄暗い空間が広がり、一足飛びに時代をタイムスリップした感覚に襲われます。カマドが存在感をもつ大きな土間、日常の生活の場である板間、そしてもてなしに使われる座敷、茶室など多様な役割を担う空間が広がり、往時を偲びました。
Table Vol.370(2018年7月)