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くらしと社会

危険!!放射能汚染水の海洋放出

2021年7月19日(月)、コープ自然派兵庫は「はんげんぱつ新聞」編集委員・末田一秀さんを講師に学習会を開催、福島第一原発の放射能汚染水を海洋に放出する危険性について考えました。

講師の末田一秀さん、京大原子炉増設反対から始めた反原発運動に40年以上関わり、「はんげんぱつ新聞」編集委員、「核のごみキャンペーン関西」メンバー、「関電原発マネー不正還流を告発する会」(共同)代表世話人などで活動しています。

2023年の海洋放出

 2011年3月11日、東日本大震災により運転中の東京電力福島第一原発の原子炉が自動停止。非常用のディーゼル発電機は作動しますが、津波に襲われたタービン建屋が浸水して非常用電源を喪失。原子炉が冷却できなくなり、メルトダウン(炉心溶融)、1・3・4号機が水素爆発し大量の放射性物質を放出しました。「なぜ、タービン建屋の扉を防水仕様にしなかったのか、非常用発電機を高台など浸水しにくい場所に設置しなかったのか疑問です」と末田さんは話します。

 事故前から福島第一原発1~4号機では1日約1000トンの地下水が流入していたため、建屋内に入らないようサブドレンを動かして地下水を汲み上げていました。税金で建設した凍土壁で遮水対策をしたはずの現在も1日約140トンの汚染水が発生し続けています。東京電力は汚染水を保管するタンク貯蔵容量が2022年夏に満杯になるとして(その後、2023年に変更)、海洋放出することを決定しました。

取り除けないトリチウム

 汚染水は水処理装置ALPSで2次処理し放射性物質を基準値以下(検出限界値以上)にするから安全だと東電は主張しています。しかし、セシウム・ストロンチウム・ヨウ素が除去できたと仮定しても放射性物質トリチウムは取り除けません。トリチウムは三重水素と呼ばれる水素の仲間で、水と似た構造のため水と分離が難しく、体内に取り込まれると5~6%がタンパク質などと結合して半減に40日~1年間を要する場合もあります。また、DNAは二重螺旋構造を水素がつないでいるため、トリチウムが取り込まれるとDNAが切断されてガン発生の原因となる可能性があると北海道がんセンター名誉院長・西尾正道さんは主張しています。

 国と東電はトリチウム濃度を規制基準の40分の1(WHO飲料水基準の約7分の1)まで海水で希釈することで規制基準を大幅に下回ると主張。一方、工場排水には濃度規制がありますが、希釈して規制値をパスするなどさまざまな抜け道を使って排水する企業があるため、総量規制を設けるなどの対策が行われています。工場排水規制をしている国が原発の汚染水に関しては希釈処理を推奨しているのです。

 トリチウムは半減期12.3年で、100年間保管すれば1000分の1のレベルまで減少します。「原子力市民委員会」などの市民団体からは、陸上にタンクを増設して長期的に貯めておく「大型タンク貯留案」、コンクリート容器の中に処理水をセメントと砂で固める「モルタル固化案」(米国の核施設で実施済み)が提案されています。福島第一原発敷地内には、廃棄物貯蔵施設の予定地、敷地周辺には除染した土を持ち込んでいる国有地などの保管場所があり、タンクの増設等は可能です。

国内外からの反対を無視

 事故後に低濃度に放射能汚染された地下水は、廃炉作業をすすめるためにサブドレンで汲み上げて海洋放出されています。それは、福島県漁連にとって苦渋の決断でした。その際、汚染水に関して「関係者の理解なしにいかなる処分も行わない」と東電は福島県漁連に文書で約束しています。しかし、福島県漁連をはじめ全国の漁連が絶対反対表明しているにも関わらず、菅首相は海洋放出することを決定しました。全漁連は総会で「国民の理解なき海洋放出に改めて断固反対」とする特別決議を採択し、福島県内の36議会が懸念を示し、韓国国会は反対する決議案を可決、国連は容認できる解決策ではないと勧告しています。

 「運転中の原子力施設や再処理工場からもトリチウムが排出されているため、同じことだと海洋放出推進者は主張します。しかし、運転に伴い漏れ出るものと、事故によって溜めたものを意図的に流すことを一緒にすることはできません」と末田さん。国際的にも海上からの放射性廃棄物の海洋投棄は「ロンドン条約及び原子炉等規制法」により禁止されています。しかし、福島第一原発からパイプを通して汚染水を流すことは海洋投棄に含まれないと政府は詭弁を弄しています。通常運転時にトリチウムの放出量が多いカナダ・ピッカリング原発の周辺で新生児のダウン症発症率が、六ヶ所再処理工場では白血病の発症者数が高いなど被害報告が多数あるということです。

 現在、3年に一度のエネルギー基本計画策定議論中で、末田さんが委員を務める「原水禁エネルギー・プロジェクト」は、2030年に原子力・石炭火力を使用せず必要な電力量が賄え、さらに2050年はLNG(液化天然ガス)をゼロとする試算を出しています(緑風出版刊「脱原発・脱炭素社会の構想」)。「2023年の汚染水の海洋放出開始までに、再考を求めていきましょう」と末田さんは締めくくりました。

Table Vol.449(2021年9月)より
一部修正・加筆

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