2021年1月13日(水)、「自然の住まい協議会」は、梼原の森オンラインツアーを開催、高知県梼原町の森づくりについて「森林の文化創造推進課」・立道斉さんに聴きました。
「自然の住まい協議会」は、コープ自然派、NPO国産材住宅推進協会、NPO里山の風景をつくる会で組織され、源流域の森を守るために国産材を使った住まいづくりに取り組んでいます。
町産材を積極的に利用
梼原町は高知県中西部に位置し、四国カルスト台地に囲まれた四万十川源流域の町。人口は約3400人、町の面積の9割を森林が占め、標高の高さから「雲の上の町」とも称されます。
2000年9月、「梼原町森林づくり基本条例」が制定されました。森林を木材生産の場だけでなく森林と生きてきた文化を継承し、持続可能な梼原町をつくっていこうという取り組みです。2000年代には環境先進企業との「協働の森づくり」や森林セラピーの普及、木質バイオマス事業などを進めます。2010年代には、梼原橋、六根の橋、御幸橋、雲の上のプール、梼原学園、越知面体育館、町営住宅など多くの公共施設が町産材を使って建設されました。近年注目されているのは建築家・隈研吾(くまけんご)さんの「和」をイメージした施設。隈研吾さんとの出会いは、1948年に公民館として建築された木造芝居小屋「ゆすはら座」を取り壊すかどうかが議論されたとき、「小さな木材を使って大空間をつくった繊細な建築だ」と「ゆすはら座」の建築を隈研吾さんが絶賛したことから移築復元されました。この縁を機に、雲の上のホテル、雲の上のギャラリー、梼原町総合庁舎、まちの駅、複合福祉施設「YURURIゆすはら」、雲の上の図書館の6施設が隈研吾さんのデザインによって建設されています。
持続可能な森林づくりへ
梼原町では、風(風力発電)、水(小水力発電)、光(太陽光発電)、森(木質ペレット)の自然エネルギーを利用した持続可能な町づくりにも取り組んでいます。このような取り組みが評価され、2009年に「環境モデル都市」に認定されました。2050年には再生可能エネルギーの自給率100%を目ざし、現在、約30%を自給。木質ペレットはこれまで利用されていなかった木や製材した残りの木材を集めて製造し、冷暖房機器やボイラーのエネルギーに利用しています。四国カルストに設置された2機の風力発電から得られる電力は四国電力に売電し、その収益を基金として、「梼原町水源地域森林整備交付金事業」(森林の間伐を行った森林所有者に1ha当たり10万円を交付)を実施。現在までに7000haを超える森林が間伐を完了しています。森林資源を育てる取り組みとしてFSC認証による持続可能な森林づくりも推進し、現在1万3000haを超える面積(民有林全体の約7割)がFSC認証を取得、FSC認証はドイツに本部を置く国際的な制度です。
今後の森林づくりで目ざすのは針葉樹と広葉樹の混林化。針葉樹は成長までに50年、広葉樹は100年を要し、経済性は針葉樹、環境資源は広葉樹という相互のメリットを生かした森林づくりを計画しています。また、森林づくりのモデルとして明治神宮の杜をイメージ。明治神宮の杜は100年前に全国から勤労奉仕として集まった10万人を超える青年たちが植林し、植林の合間には研修や交流をはかり、地域に帰ってその成果を生かしました。梼原町ではこの取り組みを継承しようと、昨年、明治神宮の杜の苗木50本を分けてもらって植樹祭を開催、子どもたちも参加し、あいにくの雨の中で懸命に植樹する姿は大人たちを感動させました。
森林づくりは人づくり
経済優先・効率優先の社会では森林の価値が見失われています。「昔は数字は言わんかった」という町の林業者の言葉がそれを物語っています。梼原町が目ざすのは木材の生産の場だけでなく、生態系、防災、環境、保健(セラピー)などの面から森林の価値を再定義しようという取り組みです。
一方で、林業を生業としている人は町内で40数名、そのうち20数名が60歳以上で20代はゼロ、思いを実現するには林業の担い手確保が喫緊の課題です。この課題を解決するために林業や製材業、建設業を営む事業体23社が加盟して「梼原令和の森づくり協議会(REMORI)」を設立、「地域おこし協力隊」制度を活用して3年間の研修後に梼原町に定住してもらう取り組みが始まっています。「REMORI」とは、「Re(再生)」「守り・森林(もり)」を組み合わせた造語です。また、「COMORI(林業の若手組織)」による千年杉の診断や危険木の伐採など地域貢献活動も行われています。
「このような風景を見るときまさに『森林づくりは人づくり』、現場に答えがあり、現場が人を動かすことを実感します」と立道さん。「ゆすはら座」に木のおもちゃを持ち込んで子どもたちに遊んでもらうイベントは子育て世代から大好評でした。「梼原の森林づくり大学」を開設して伐採・造林・育成技術、特殊伐採、ツリークライミング、森林セラピーなど森林に関するすべてのことを学べるしくみづくりも構想中。「協働の森づくり」に参画する6社の企業とは10年を超える交流の歴史があり、森林ボランティアや子どもたちのサマーキャンプ、間伐体験、植林活動などを通して交流が深められています。コロナ禍は都会でなくてもリモートワークできることを多くの人たちが体験しました。梼原町で仕事や生活をするという新しいライフスタイルの提案も可能です。「森林づくりは人づくり」をキーワードとした梼原町の挑戦がますます期待されます。
Table Vol.436(2021年3月)より
一部修正・加筆