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くらしと社会

東ティモールの暮らしとコーヒー

2021年6月3日(木)、コープ自然派奈良(東ティモール応援チーム主催)は東ティモール在住・松村優依子さんのお話会をオンライン開催、東ティモールの歴史や生活、文化、コーヒー栽培などについて聴きました。

※イメージ

他国に翻弄された歴史

 東ティモール民主共和国はインドネシアの端にあるティモール島東側に位置する小さな国です。長年、ポルトガルによる植民地化が続き、第二次世界大戦中は日本、1976年にはインドネシアが占領。1999年の独立に関する住民投票後、多数の死者が出る動乱が続き、2002年5月20日に主権回復します。領土は岩手県ほどの大きさで、人口約134万人、平均年齢20.8歳、ポルトガルの影響から国民の98.3%がカトリック信徒です。公用語はテトゥン語とポルトガル語ですが、歴史的に複雑かつ多数の言語があり現地語などおよそ15の言語が使われています。

 昨年3月28日から新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言が続き、累計感染者数7161人、死亡者数16人(6月1日現在)を出しています。東ティモールでは家族や親戚がインドネシアとの陸上国境を挟んで暮らしているため日常的に不法越境が行われ、感染者数が増加しました。また、4月3日に発生したサイクロンによる豪雨災害(3万3835世帯が被災、死者44人)の影響からさらに感染拡大が加速しています。

オーガニックコーヒー

 東ティモールの主な産業は石油と米・トウモロコシ・コーヒーなどの農業で、中でも東ティモールコーヒーは住民たちの重要な収入源です。1815年、ポルトガル植民地時代にコーヒーの苗が持ち込まれて栽培が始まり、白檀に次ぐ輸出産品になります。1890年代にはサビ病の流行でコーヒーの木が壊滅状態になりました。コーヒーはアラビカ種(病気に弱いが風味が良い)とロブスタ種(病気に強いが風味が劣る)に大きく分類され、これらの品種は交配できません。しかし、アラビカ種とロブスタ種が自然交配によって誕生した異種間交配種が東ティモールで発見されました。病気に強くて美味しい新品種の「ハイブリット・デ・ティモール」の誕生です。

 その後、農園の整備拡大が行われますが、インドネシア支配下では産業として重要視されなかったため、現在も農薬や化学肥料が使われずに育てられ、やわらかな酸味とさわやかな甘みのバランスが絶妙のおいしさのオーガニックコーヒーが生産されています。約27万人(4万5000世帯)がコーヒ産業に従事し、収穫時期(5月下旬から9月)には家族総出で収穫を行います。コーヒーチェリーを地面に広げて乾燥させ、手で果肉を取り除いて豆(種子)を取り出し、乾燥して販売します。機械を使う生産者も増えましたが、現在も伝統的な作業方法でコーヒー豆の製造が行われています。NGO団体などの支援で味・技術・収量が大幅に向上しましたが、木の手入れが行われていないため、収穫量が減少するなど木の高齢化が問題になり、新しい苗を育てることが今後の課題です。

土着信仰・伝統的文化

 東ティモールではカトリックを信仰しながら先祖代々受け継がれた土着信仰(精霊信仰・アニミズム)も大切にしています。各地域・一族には精霊と話すための特別な言葉を受け継ぐ人たちがいて、建設工事や行事の前に精霊たちに許可を得る儀式を行います。また、「トーテム信仰」という一族と深い関わりをもつ動植物を先祖とし、殺すことや食べることをタブーとする信仰があります。

 東南アジアで広くし親しまれる「檳榔(びんろう)噛み」という伝統文化があり、客人へのもてなしや伝統儀式ではかかせません。檳榔はヤシの木の一種で、檳榔の実と石灰の粉、キンマという胡椒科の植物の葉や実を口に含んで噛むと真っ赤になり、お酒に酔ったような高揚感が得られ、虫歯予防になると言われています。また、檳榔の噛み汁は魔除けのまじないにもなり、松村さんは旅行中に出会った老婆から檳榔の噛み汁(赤く染まった唾液)で眉間に十字を書かれ、「神様と一緒に行きなさい」と見送られた経験があるとのこと。病気になっても病院に行かない人が多く、松村さんの知人には骨折をマッサージ治療や薬草などで治した人もいるということです。

 首都ではショッピングモールやカフェなどの商業施設も増えていますが、主食のトウモロコシ粥やバナナの花房炒め、バナナの葉で魚を包んで焼いたサボコ、雑炊セドックなどの郷土料理が食べられ、伝統的文化が根付いています。

(左)兵庫県西宮市出身、東ティモールの首都ディリ県に夫の姉家族と9人で暮らす講師の松村優依子さん(テトゥン語通訳者)。(右)主催のコープ自然派奈良「東ティモール応援チーム」・北田さん。フェスタや学習会などで東ティモールについて広く伝える活動を行っています。

Table Vol.446(2021年8月)より
一部修正

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