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生産者訪問・商品学習会

野菜も人も畑で育つ

2021年5月13日(木)、コープ自然派の野菜部門を担当するコープ有機は、佐久穂共同出荷グループ「のらくら農場」代表・萩原紀行さんのオンライン講演会を開催。萩原さんは美味しく栄養価の高い野菜がつくられる農場の運営方法などを話しました。

無休で厳しい農業経営

1998年、萩原さん夫妻は長野県北八ヶ岳で新規就農します。最初に暮らした家は室内温度がマイナス6℃まで下がる古民家で、栽培、営業、販売、経理、資材の調達、集落の役割などをすべて夫妻でこなし、時給換算1人350円という生活が6年間続きました。

日本の農家の68%は1年間の売り上げが300万円、わずか6.2%が300万円〜500万円です。売り上げからさらに経費が引かれるため、2人が生活するには最低1000万円以上の売り上げが必要です。しかし、ほとんどの新規就農者は生活が成り立たず、萩原さんの周囲でも多くの人たちが農業をあきらめました。また、日本の農業者の時給平均は、水田881円(うち補助金等613円)、露地野菜877円(うち補助金等99円)、果樹848円(うち補助金等51円)と、最低賃金以下(全国加重平均902円)。水田においては補助金がないと時給300円にも満たず、補助金には水路や農地の整備などの目的で地域に交付される種類のものも含まれます。農産物の価格は30年以上変わらないのに資材が高騰しているため、農業経営は苦しくなる一方です。

現在、のらくら農場は標高1000mの高原地帯に8haの畑をもち、年間約50種類の農産物を栽培する多品目中量生産、有機JAS認証に準じた栽培方法と有機JAS認証資材を使用しています。有機JAS認証取得にはマークのシール貼りやパッケージなどそれに伴う細かい作業が無数にあり、農作業に時間をかけたいのらくら農場ではあえて取得していません。繁忙期は約20名、冬季は9名のメンバーで作業を行い、メンバーのほとんどが異業種からの転身で、平均年齢は33歳(全国の平均年齢66.8歳)。「オーガニック・エコフェスタ」栄養価コンテストでは、2019年に3部門で最優秀賞と総合グランプリを受賞、これまでに6部門で最優秀賞を獲得しています。

のらくら農場の文化圏

のらくら農場の流行語「ちょうどいい」は、台風被害で出荷作物が全滅したけど「ちょうどいい!本を書こう」、ミスしたけど「ちょうどいい!失敗しないように工夫しよう」と使います。のらくら農場では「怒る」ことを禁止しているため、怒る前に「ちょうどいい」と声に出して解決策を考えなければなりません。のらくら農場は女性メンバーの割合が多く、ある女性メンバーは農場の求人募集要項の「怒鳴る・キレる禁止」を応募の理由にあげています。萩原さんは男女の性差がない職場にしようと、男性にしかできない作業を減らすことを課題とし、男女比率が同じ職場はバランスが良く働きやすいとのこと。また、メンバー間での上下関係をつくらないよう、萩原さんを含めて互いをニックネームで呼び合います。「横に立つコミュニケーション」をキーワードに先輩は後輩に寄り添って作業を進め、仕事の優劣をつくらず、雑用などもみんなで行うということです。

北海道出身メンバーのユキルさんは美大の染色科卒。ユキルさんが食または染色の仕事を希望してのらくら農場を選んだことに萩原さんは衝撃を受けました。メンバーたちは「農業」という職種ではなく、「怒らない」「オーガニック」「多品目栽培」などの文化カテゴリーに属するのらくら農場で働きたいと希望して集まっているのです。服屋、映像制作、アニメーター、薬剤師、ヨガインストラクターなどさまざまな分野から来たスタッフが多数働き、のらくら農場の文化圏を発信することで似た考え方の人や取引先がますます集まっています。

自分たちで仕事をつくる

人を雇用する際、雪国は冬に農作業がないことが問題になります。繁忙期のみ雇用する農家が大半ですが、「それではチームが強くならないんですよね」と萩原さん。のらくら農場では農閑期をどう乗り越えるかスタッフみんなで考え、収穫野菜を使った商品開発など新しい仕事をつくってきました。野菜嫌いの次男がよろこんで食べた「バーニャカウダー」は開発に2年間を要し、「4種類の野菜の漬物」は皮の色素を染み込ませ芯まで赤くした赤かぶ漬けと無農薬・無添加が売りです。ジャガイモ・人参・かぼちゃの3種の「玄米スープ」は土づくりの段階から野菜のうま味成分が増える施肥設計を行い、市販品よりもかなり量を増やした野菜と玄米、天日塩、乳製品のみでつくっています。

中山間地は農地に隣接する水路や農道との間にある傾斜面が大きく草刈りが負担になり、農地面積を増やせません。オフィスビルではビルメンテナンス業と室内での業務が分離されています。そこで、中山間地の農地も同様に畦(田畑の境)と農地の管理を分離することで問題解決につながると萩原さんは考えます。元植木職人のフカさんというメンバーに畦の管理会社設立をすすめ、のらくら農場が契約第1号になりました。畦の面積はドローンとソフトで解析し、将来的にはラジコン草刈り機を使い、省力で多面積の草刈りを実現できるよう技術の向上をはかります。これらの構想には、腕力はなくてもITやゲームなどに詳しいさまざまな分野の人材の有効活用が可能になるということです。

非効率な仕事で成長する

資材や労力に多大なコストがかかる「有機栽培」、農地面積が小さく森や山で畑が日陰になる「中山間地」、50種類もの農産物を育てる「多品目栽培」は、のらくら農場の非効率三大要因です。その対策として、畑の1枚1枚に世界各国の名前を付け、植える場所、土の状態、出没する害獣、太陽の軌道、水はけ、風向きなど畑の性格付けを行い、作物の配置図をつくり、考えを共有化しチームプレイで乗り切ります。土の成分を抽出してミネラル分を検査する土壌分析、作物の形や色、硬さなどを観察して行う生育診断。作業予定を緻密に組み立て、天候や作物の状態を見て柔軟に組み換えていきます。萩原紀行さんの著書「野菜も人も畑で育つ」のタイトル案は「非効率な仕事で僕たちは成長する」でした。「非効率な仕事で何百何千ものアイデアを出し合えば、世の中の役に立つとの思いで続けています」と萩原さんは話します。

農業で自立するのは難しいと言われるなか、のらくら農場からは8名のメンバーが独立しています。のらくら農場と独立したメンバーたちで技術交流や出荷、販売システムを共有化した中庭のようなものをつくり、それを利用して各自がやりたいことを行うグループをつくりました。そして、小さい農家が全国に散らばっていても、それぞれがもつ物流・集荷・決済機能をつなげてコープ自然派に商品を提供できるシステムをつくっています。

「多品目有機栽培は無理だとさんざん言われてきました。でも『困難を分割せよ』というデカルトの言葉があります。巨大な壁も分割して1つずつ崩していけば、ある時、困難の壁は決壊するという意味です。これからも困難の壁を1つずつ乗り越えていきます」と萩原さんは締めくくりました。

(左)佐久穂共同出荷グループ「のらくら農場」代表・萩原紀行さん、フルーツのようなカブ、高栄養で苦くないケール、甘みとうま味たっぷりの葉ネギなど感動的に美味しい野菜を栽培。(右)「農業や生協の周りに新しい仕事をつくり、オーガニック農家を応援する組織づくりをしていきたいです」と挨拶するコープ有機代表取締役社長・佐伯さん。

Table Vol.443(2021年7月)より
一部修正

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