Table(タブル)はコープ自然派の情報メディアです。

くらしと社会

コープ自然派生産者クラブ学習会~ピーター・フランクルさんが語るこれからの日本~

コープ自然派生産者クラブは、コープ自然派事業連合に関わりのある生産者・メーカーで構成された団体です。2021年5月14日(金)、コープ自然派生産者クラブはオンライン学習会を開催、第1部ではピーター・フランクルさんの講演「これからどうなる日本」が行われました。

大きく名前を書いたバッグを持ってピーター・フランクルさん登場。大学の講義程度なら12ヵ国語を使えるとのことで、巧みな日本語でこれからの日本について話してくれました。

世界を見たくて亡命

 数学者・大道芸人・タレントとして知られるピーター・フランクルさんは1953年にハンガリーで生まれました。国際数学オリンピックで金メダルを獲得し、オトボス大学で数学の博士号を取得。1979年にフランスに亡命し、1980年から1988年にはイギリス、西ドイツ、インド、アメリカ、スウェーデンに招かれて講演や共同研究を行うと同時に各国の路上で大道芸を披露、1988年から日本で暮らしています。

 ハンガリーは日本の面積の4分の1、人口は東京より少なく約960万人。少子高齢化がすすみ人口は減少傾向で、経済的な理由で国を出る人も多いということです。1949年にハンガリー人民共和国が成立し、ピーターさんの青年期には東欧諸国以外は自由に国外に出られず、ピーターさんは世界を見たいと一人でフランスに亡命、フランス国籍を取得してハンガリーに帰国できたのは8年後でした。

 1986年に初めて来日。その後、両親とともに1ヵ月間、日本を旅しました。2年半後、日本に住むことになりますが、ドイツの国際会議で講演した時、出席していた東大の伊理正夫教授の誘いがきっかけでした。日本で初めて大道芸を披露したのは神戸オリエンタルホテル(当時)の屋外スペースで1989年の正月3日間。その後、阪神淡路大震災後には避難所で大道芸を披露しました。ピーターさんの自慢は日本全国47都道府県をそれぞれ10回以上訪ねたこと。一番少ない秋田県は13回、北海道は100回、沖縄県は35回訪ねています。

けんかしない日本人

 「日本に来たのはたまたまでしたが、長く住んでいるのは日本がすばらしい国で、日本人はけんかしないからです」とピーターさん。聖徳太子の時代から和を重んじ、対立をうまく避けることが日本文化ではないかと話します。江戸時代には「喧嘩(けんか)両成敗(りょうせいばい)」という制度もありました。

 世界では宗教対立が原因となった戦争が度々起きています。第二次大戦時、ピーターさんの父親の両親も母親の両親もユダヤ人ということでナチスの強制収容所で殺されました。母親の家族は全員ガス室で命を奪われましたが、彼女だけドイツの奥地に送られ手榴弾工場で1年間強制労働させられた後、解放されました。

 こういう経験もあって、ピーターさんの両親は無神論者、ピーターさん自身も宗教は国家間の対立を生むと信じていました。しかし、日本に来る飛行機内でガイドブックを読んでいると日本人の9割は神道、8割は仏教を信仰していると書かれていました。そんなわけはないと思いましたが、しばらく日本に滞在して事実だとわかりました。「神さまがいるかいないかは信じるだけ。言ってみれば困ったときの神頼み。日本人は元日に神社に初詣でし、仏教で葬儀し、クリスチャンの学校もたくさんあり、キリスト教式の結婚式もします。宗教が違っても同じ人間、それぞれ良いところを取り入れるのが幸せではないか」とピーターさんは話します。

 旧ソ連が解体され世界はアメリカ中心となり、アメリカは世界最大の軍事大国です。世界のトップ10の国々の軍事費のうちアメリカだけで他の9ヵ国を合わせたより多く、全世界の軍事費の3割5分を占めています。そして、武器や戦闘機を使うためには敵が必要です。旧ソ連は仮想敵国で冷戦だったのですが、近年、中国が台頭し、アメリカは中国を敵視しています。米中対立はトランプ政権からバイデン政権に交代しても変わりません。

 「日本は世界に敵をつくらず、アメリカが敵対したイランなどとも経済的に良い関係を保ってきました。アメリカがどこかの国とけんかするときは、日本はできる限りけんかに加わらないよう努力すべきです」とピーターさんは話します。

人生の主役は自分自身

 「人生をどう楽しむか。まず、自分の人生の主役は自分であることを強く意識してほしい」とピーターさん。そして、自分にとって大切な家族、仕事仲間、遊び仲間、日々顔を合わせる人たち、困ったときに助け合うことができる人、うれしいことがあれば一緒に喜び、悲しいことがあれば一緒に悲しんでくれる人、ともに子育てする人たち…、かつてはどこにもあったような人間関係を大切にすべきだとピーターさんは話します。

 また、「テレビのリモコンをつける前に30秒間だけ待ってほしい。なぜならリモコンのボタンを押した瞬間に自分の人生の主役の座を他の人に譲ってしまうから」と。テレビをつける前に自分にとってもっと大切なことはないのか、やるべきことはないのかを考えてほしいと話します。

人生で大切なものとは

 「人生で大切なのは数学とコミュニケーション。数学は物事を論理的に検証するために必要で世界共通。国際会議で発表し、論文を発表すれば実力だけで仕事ができ、デジタル技術の基礎は数学からできています」とピーターさん。医師であったピーターさんの父親はユダヤ人だということで迫害を受け、全財産を没収されたことから、「人間の財産は頭と心の中にあるもの」だといつも話していました。

 コミュニケーションについてはうまく話題を提供して相手の話を聴き、折り合いをつけることが大切だと。信用する人にしか話さないことをうまく聞き出す技術、それが本当のコミュニケーション技術で、そういう聴き上手になると友だちが増え、仕事でも大切にされるとピーターさんは話します。

 さらに、人生では過程、つまり日々どれだけ生きることを満喫しているかが大切、それは茶道のようにプロセスを楽しむ日本文化に通じるのではないかと。そして、GDPがどれだけ増えたかより、どれだけ幸せであるかを大切にし、幸せを手にするには映画や演劇、文学、音楽など知的消費を楽しもうと。最後に、ピーターさんは「吾唯足知」(われただたるをしる)という言葉を示し、地球を守ろうとすれば何が本当に必要かを知り、必要以上に消費しないことも大切だと話しました。

Table Vol.443(2021年7月)より
一部修正

アクセスランキング

DAILY
WEEKLY
MONTHLY
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  1. 1
  2. 2
  3. 3

アーカイブ

関連記事

PAGE TOP