天笠啓祐さん(遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン代表)による基調講演は、「いま、遺伝子操作食品の世界で何がおきているか?」と題して、ゲノム編集食品をめぐる世界および日本の現状と危険性が指摘されました。
規制対象外のゲノム編集
遺伝子組み換え(以下、GM)作物の商業栽培が開始されてから24年、近年は栽培国も開発作物も増加せず、多国籍バイオ企業・モンサント社(2018年にバイエル社が買収)の除草剤をめぐる訴訟や不買運動が続いてGM技術は行き詰まっています。そこで、目的とする遺伝子の働きを壊すゲノム編集技術が登場。日本国内では規制対象外・届け出任意のため、環境影響評価と食品安全審査が行われることなく、食品表示がないまま流通が可能になりました。
ゲノム編集技術はすべての遺伝子を自由自在に編集するもので、まさに遺伝子組み換え技術そのものです。DNAを切断して目的の遺伝子を壊す際、それ以外のDNAを切断する「オフターゲット作用」が起こり、大切な遺伝子の機能を失う恐れがあります。また、ゲノム編集されている細胞とされていない細胞が入り乱れる「モザイク」という現象は、どのような影響をもたらすか、世界中の大学・研究機関が危険性を指摘。生命体だけでなく環境や食の安全への悪影響も懸念される問題です。
日本ではゲノム編集技術を用いて開発された高GABA(ギャバ)トマト「シシリアンルージュ・ハイギャバ」の苗が5月から家庭菜園用への無償配布が開始されました。高GABAトマトは血圧の上昇を抑えるGABAを多く含み、恒常的にGABAを高い状態にするものです。GABAとはアミノ酸の一種で人の脳や植物に存在して重要な役割を果たしますが、遺伝子操作した際の脳への影響などリスク調査・研究が行われていません。
また、日本ではシンク能改変稲(光合成の容量を増やして収量を増加する稲)、アルカロイド(ソラニンなど芽にある有害物質)を含まないジャガイモも開発されています。米国ではカリクスト社がゲノム編集技術による高オレイン酸大豆を開発し、飼料用やファストフードの食用油として販売。高食物繊維小麦、うどんこ病抵抗性小麦、高収量小麦など小麦の開発も進んでいます。
ゲノム編集動物の実用化
現在、2倍のスピードで成長するGM鮭とアレルギーを引き起こす物質ができないGM豚が米国で承認されています。GM鮭はキングサーモンの成長ホルモンをつくる遺伝子と1年を通して成長ホルモンが分泌するゲンゲの遺伝子を導入。GM鮭が逃げ出した場合、野生の鮭や自然界にどのような影響を与えるかが懸念されます(現在、GM鮭の流通はカナダのみ)。アレルギーを引き起こす物質ができないGM豚「ガルセーフ」は、アレルギーをもつ人や臓器移植への応用に期待されているということです。
以前、成長ホルモン遺伝子を導入したGM牛とGM豚が開発されましたが、体重増加に骨の成長が追いつかず、立ち上がれない牛や豚となり失敗に終わりました。しかし、ゲノム編集技術による家畜や魚など動物での開発が盛んに行われ、ミオスタチンという筋肉の成長を抑制する遺伝子を壊されたマッチョ豚が誕生。一方、成長ホルモン受容体を壊された小さいマイクロ豚が中国でペット用に開発されました。
日本でもマダイやトラフグなど成長の早い魚の開発が進み、筋肉質で肉厚なマダイの実用化に向け厚労省が審議を開始しています。さらに、呼吸器障害症候群ウイルス耐性豚、卵アレルギーを引き起こさない鶏、角のない乳牛(抗生物質耐性遺伝子が3種類見つかり計画中止)、夢を見ないネズミ(レム睡眠の遺伝子を壊した)、成長が早いコオロギなど世界中で開発。一方、大きくなりすぎた舌をもつウサギや椎骨が多い豚など、さまざまな問題も起きています。また、エピジェネティック(遺伝子発現を抑制・伝達するシステム)な異常をもたらし、10世代後まで影響を残すことが確認されています。
食料を支配する巨大企業
世界のアグリビジネスは、1位バイエル(独国)、2位シンジェンタ(中国)、3位コルテバ・アグリサイエンス(米国)、4位BASF(独国)と4社が世界の売り上げの約8割を占めています。日本の種苗メーカー3社(サカタのタネ、カネコ種苗、タキイ種苗)とは市場規模が大きく異なり、これらの巨大企業による日本の種苗メーカーの買収や支配が懸念されます。また、これらの企業によるRNA干渉法を応用した遺伝子操作によるバイオ農薬(虫が突然死する仕組み)の開発が進んでいます。RNA干渉法は容易に遺伝子の働きを止める技術で、人にどのような影響があらわれるか予測不能だということです。
種子や苗には遺伝子組み換えもゲノム編集の表示もありません。そのため、農家は種子を選ぶことができません。現在、「遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン」「日本消費者連盟」「食と農から生物多様性を考える市民ネットワーク」が呼びかけ団体となり、「種苗への遺伝子操作の表示を求める署名」に取り組んでいます。
「世界的にゲノム編集技術の開発が盛んに行われ、ゲノム編集作物が栽培されようとしている今、遺伝子操作されていないものを選択できる権利をともに求めていきましょう」と天笠さんは呼びかけました。
Table Vol.442(2021年6月)より
一部修正・加筆