Table(タブル)はコープ自然派の情報メディアです。

くらしと社会

今、原発はどうなっているの?そしてこれからは?

※イメージ

2021年3月10日、コープ自然派しこく・こうちセンター(自然派クラブ「はちきん脱原発」主催)は、「原発事故から10年、今また原発の本を読んでみませんか?‒今後原発はどうなるの?」を開催。福島への想いが伝わる絵本の朗読と阪上武さん(福島老朽原発を考える会代表)のお話を聴きました。

※写真はイメージです

今年2月の余震の影響

 阪上さんは、福島原発事故から10年目の現状について話します。福島原発事故後、さまざまなことが起きています。最近では2月13日、福島県沖を震源とするマグニチュード7.3、最大震度6強の地震が発生。3.11の余震だということで、福島第一原発のサイトでも地震の影響が出ています。特に心配されたのが汚染水貯留タンクで最大で20㎝程度ズレたことが報道されています。また、格納容器の水位が低下。3.11で損傷していたのが今回の地震で損傷が少し大きくなり、水位が下がったのではないかと言われています。これについては水位測定器が設置されているのに10年経つからと2月1日から電源が切られていたとのこと。また、昨年3月、東電は原子炉建屋の状況把握のために比較的線量が低かった3号機に無線型の簡易地震計2台を設置しました。しかし、そのうち1台は昨年7月の大雨で水没して故障、もう1台は昨年10月ごろ計測値にノイズが入るようになり、原因がわからないまま2月13日には作動していなかったということです。

放射能汚染水の海洋放出

 経産省の資料では廃炉に向けた作業は着実に進捗していると報告しています。しかし、問題山積で使用済み核燃料を少し取り出せたものの、炉心溶融した燃料の塊が随所にあり、まだ炉内調査の段階。そして、高線量のため人が入れずカメラをつけたロボットを入れていますが、あまりの高線量ですぐに壊れてしまい状況把握ができない状態です。

 原発は冷却することで核分裂反応は止まりますが、火種が消えない状態が続くため、水をかけて冷やし続けなければなりません。そのため放射能汚染水が発生し続けます。2014年には540㎡/日発生したのが、2019年には180㎡/日に減少したということですが、小学校のプールを満たす程度の汚染水が毎日出続け、炉心が壊れているので漏れて建屋の床に溜まっています。

 原子力規制委員会も政府も放射能汚染水はALPS(放射能除去装置)を通してタンクに溜めているのだから海洋放出すべきだと主張していますが、地元漁業関係者や住民は強く反対しています。反対理由としては、ALPSでは取り切れないトリチウムが大量に含まれているからで、これ以上、福島県沖が放射能汚染されることに危惧を感じています。政府や東電が海洋放出にこだわる理由は、通常の原発の運転においてもトリチウムを海に放出していて、これを許さなければ原発も再処理工場も運転できないからです。

 福島原発事故前は54基の原発が稼働していましたが、福島原発事故後24基の廃炉が決定、現在、再稼働したのが9基、昨年末時点で実際に稼働しているのは3基のみです。

避難している人たちの現状

 避難した人たちはどのような生活をしているのでしょうか。新潟県は柏崎刈羽原発再稼働に際して福島原発事故の実態調査を行っています。その調査では、避難指示区域から約10万人が避難、うち県内避難約7万人、県外避難約3万人です。避難生活の実態として典型的な例は父親が福島に留まり、母子避難というケース。避難に関する考え方の違いからそのまま離婚するケースや避難先で非正規雇用にしか就けないというケースが多く、収入の減少分については預貯金を切り崩したり、避難指示区域の場合は賠償金で賄っています。避難指示区域外だと賠償金は入らず、多くの人たちが応急仮設住宅に入居しています。しかし今、支援が打ち切られ、留まる場合は家賃を倍額にされたり、訴訟するという脅しがかけられています。さらにコロナ禍が加わりました。また、避難先での偏見や誤解、避難指示区域外からの避難に対する無理解など人間関係での苦悩もあります。

 避難指示が解除されても帰れない人が多いのは、事故直後より線量は下がったとはいえ、年間20ミリシーベルトという事故前の20倍という基準値が適用されていること、また、高齢者ばかりが帰還して事故前のコミュニティが失われている現状があります。

これからの原発は?

 避難計画について、原発事故が起きた場合は10㎞圏内程度の避難を想定していましたが、福島原発事故によって30㎞圏内の避難が必要だとわかりました。しかし、日本は人口密度が高く、避難計画の実効性が各地で問題になっています。さらに、新たに課題となっているのは感染症対策です。避難バスは2人掛けのところを1人に、避難所では感染者と濃厚接触者、感染疑いがある人とそうでない人などを分けなければならず、さらに密にならないようにするには収容人数が激減し避難所の確保が難しくなります。屋内退避や避難バスでも窓の開閉は真逆の対応が求められます。

 さらに、福島原発事故を起こした東電が原発を設置運転する適格性があるのかという問題も改めて問い直されなければなりません。

 エネルギー基本計画をめぐる異様な動きもあります。経産省によるエネルギー基本計画改定では原発と火力発電を3割程度としています。そして、原発については再稼働が決定しているものはすべて動かし、40年を超えた原発を60年まで延長することを計画し、さらに新規の原発も高速増殖炉も再処理もどんどん進めるべきだという声が強くなっているという危険な状況です。火力発電所についても再生可能エネルギーの電力を使って水素やアンモニアをつくり、石炭と混ぜて火力発電所で発電しようという動きがあり、火力発電所が新設されています。

 「国民の世論調査では常に6割以上が脱原発で、原発推進は常に1割か2割程度です。そして、原発が3基しか稼働していないという現実は、福島原発事故後の国民の選択が数字に表れているのではないでしょうか。政府は原発推進を前提にしているので、トリチウムの海洋放出や避難者を切り捨てることで福島原発事故をなかったことにしようとしています。私たちは10年を経て、本当の意味での福島の再生と脱原発への意志を改めて確認するべきだと思います」と阪上さんは話します。

※ 4月13日、政府は福島原発の放射能汚染水の海洋放出を正式に決定。4月28日、福井県知事は関西電力の40年を超える原発3基を全国で初めて再稼働することに合意しました。

阪上武さんは「原子力規制を監視する市民の会」や「避難の協同センター」などでも活動。当日は東海第二原発の避難計画についても話しましたが、3月18日、水戸地裁は東海第二原発の再稼働を認めない判決を出しました。

Table Vol.440(2021年5月)より
一部修正・加筆

アクセスランキング

DAILY
WEEKLY
MONTHLY
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  1. 1
  2. 2
  3. 3

アーカイブ

関連記事

PAGE TOP