「日本独特の文化として新元号を楽しむのはいいことですが、政権の支持率につながり、憲法改正の道具になるのは問題です」と話す広島県在住の詩人・アーサー・ビナードさん。

2019年5月19日(日)、コープ自然派兵庫はアーサー・ビナードさん講演会を開催。「知らなかったぼくらの日本」と題して、戦争や憲法改正など日本の現状を鋭く、ユーモアたっぷりに語っていただきました。

司会・進行を務めたコープ自然派兵庫・石井理事。

戦争に悪用された紙芝居

5月20日発売の紙芝居「ちっちゃいこえ」(童心社)を上演するアーサーさん。

 講演会はアーサーさんによる紙芝居「ちっちゃいこえ」(童心社)の上演から始まりました。「ちっちゃいこえ」は、原爆投下直後に広島市に入った丸木俊・位里夫妻が描いた連作「原爆の図」をもとに、アーサーさんが物語をつくり紙芝居にした作品です。作品は原爆投下で生きものたちの体に何が起きたか、放射能による影響を細胞の小さい声として表現し、福島第一原発事故がもたらした被害についても気づかせてくれます。

 約100年前、サイレント映画で活躍していた活動弁士はトーキー映画の普及に伴い、廃業に追い込まれました。そこで、多くの活動弁士たちは街頭紙芝居の世界に転身し、紙芝居が全国に普及します。サイレント映画における活動弁士と紙芝居は、日本独自の文化として、形を変えて発展していきました。

 日本全国に広がった紙芝居は、やがて国民を操作する道具として大日本帝国のPRに利用されるようになります。「軍神の母」や「金太郎の落下傘部隊」など、1930年代半ばから戦意発揚のための「国策紙芝居」が登場。ナチス・ドイツが美術や映画を利用したように、日本では紙芝居が戦争に悪用されました。「現在、紙芝居は終わったメディアとして扱われていますが、誰もが発信できるメッセージ性の強いメディアとして紙芝居に大きな可能性を感じます」とアーサーさんは話します。

疑い、自分の頭で考える

 「何を信じればいいですか?」「正しい情報はどこで得られますか?」という質問をよく受けるというアーサーさん。米国のCIAは情報を得るために諜報活動に膨大な予算をつけ、世界の国々でも情報を得るために大金が使われています。この日、約100名が集まった会場で携帯電話をもっていないのはアーサーさんを含めわずか3名。私たちの思想や情報を密かに集め利用される恐れがあるとアーサーさんは警告します。「情報には金・銀・プラチナ以上の価値があります。私たちにタダで教えてくれるわけがありません。マスコミが流す情報を信じてはダメ!自分の頭で考え、疑い、分析し、見抜く国民になるのです。そして、今日の集まりのような横のつながりをもち、気づいたことを共有しましょう。信じる消費者という受け身の立場を脱して主権者になること、決定権は私たちにあるのです」とアーサーさんは語ります。

日本国憲法は世界の叡智

 自民党の憲法改正ビラには「国民の幅広い理解を得て、憲法改正を目ざします」と書かれ、主要8ヵ国の憲法改正回数(第二次世界大戦以降)をアメリカ6回、フランス27回、ドイツ62回、イタリア15回、インド103回、中国10回、韓国9回、日本0回とグラフ化しています。しかし、日本以外の7ヵ国で戦後に憲法を改正した国はなく、ファクトチェックが必要とのこと。アメリカは憲法がつくられてから240年以上、憲法を改正したことはなく、奴隷制廃止や参政権、禁酒法などを解釈改憲という形で憲法に修正条項を加えてきました。「修正条項は国家の記録であり、自民党の目ざす憲法改正とは異なるものです。憲法改正は国を変えることであり、国を滅ぼしかねないものなので、慎重に行わなければなりません」とアーサーさん。また、日本国憲法は新憲法ではなく、大日本帝国憲法を戦後に改正したものだということです。

 イギリスのマグナカルタ(1215年、王権の制限と諸侯の権利を確認した文書)を出発点に、憲法は権力を言葉で縛り、歯止めをかけるものとして、脈々と受け継がれてきました。アメリカはマグナカルタを参考に合衆国憲法を作成し、フランスは合衆国憲法を参考に、憲法はつくった歴史があります。「世界中の憲法はすべてマグナカルタの憲章を出発点につくられた借りものです。日本国憲法は押し付けられたのではなく、世界の叡智を共有してつくられたものなのです」とアーサーさんは話しました。

Table Vol.395(2019年7月)