アニマルウェルフェアとは、家畜に不要な痛みや苦しみを与えない飼育を目ざす在り方です。コープ自然派おおさか・奈良・兵庫では、一般社団法人アニマルウェルフェア畜産協会代表理事・瀬尾哲也さん(帯広畜産大学准教授)と山根百合奈さん(帯広畜産大学大学院生)を迎え、アニマルウェルフェアについて学びました。

家畜の快適性を考える

 家畜も人と同じように感情を持つ生きものとして、誕生から死まで快適で健康的に過ごせる飼育方法が世界的に広がっています。日本では「どうせ食べるのに、そんな考え方は矛盾しているのではないか」などとアニマルウェルフェアに対して否定的な意見も多いのですが、「家畜も人も必ず死にます。人間はより良く生きようと日々努力しますが、家畜も同じではないでしょうか」と瀬尾さんは話します。

 日本の養鶏はケージ飼いが主流で、1羽当たりの平均面積はB5サイズと鶏にとっては過酷な環境です。アニマルウェルフェア発祥地のEUでは、鶏の飼育方法としてバタリーケージ飼い(ワイヤーでできたケージを数段連ねて飼育する方法)が禁止になりました。また、販売される卵には、オーガニック、放し飼い、平飼い、ケージといった飼育方法および国・農家番号を表示することが義務付けられています。アメリカやカナダのオーガニックスーパーではアニマルウェルフェアのランキングが明記された商品を販売、ファストフード店でも将来的にケージ飼い廃止を宣言しています。

乳牛の一生と牧場の現状

 日本の酪農は畜舎での飼育が大半で、放牧は北海道でもわずかです。2018年時点での飼育頭数は1農家当たり平均84.6頭(北海道128.8頭、都府県56・3頭)と1965年の平均3.4頭から大幅に増加しています。牛舎の種類は、つなぎ飼い(牛舎内で首をつながれている)、放し飼い(牛舎内で放し飼い・フリーストール)、放牧(周年・季節放牧)に分けられ、70%がつなぎ飼いです。つなぎ飼いでは人が牛のもとへ行きミルカーで搾乳するのに対して、放し飼いでは牛が搾乳室に集まり搾乳するので効率が良く、北海道では牛の頭数が増えるにつれて増加、最近ではロボット搾乳(機械による自動搾乳)も増えています。糞尿は堆肥にして牧草やトウモロコシ栽培に利用されますが、近年は飼育頭数の増加による糞尿量の多さが環境問題の原因になっているということです。

 乳牛は産まれてすぐ母親から離されます。生後2ヵ月間の哺乳期間には5日間から1週間は初乳を飲ませ、その後は粉ミルクを与えます。14~16ヵ月の育成期間を経て人工授精後、約10カ月で出産、約1年間の泌乳(搾乳)期間を終え、再び妊娠、出産、泌乳を平均3~4回繰り返します。

日本で初めての認証制度

よつ葉放牧生産者指定ノンホモ牛乳

 アニマルウェルフェアの普及によって幸せな家畜と人を増やしたいと、帯広畜産大学研究室では日本で初めてアニマルウェルフェア基準を作成。十勝忠類の5農家の生乳のみを原料とした「よつ葉放牧生産者指定ノンホモ牛乳」はこの基準をクリアしたプレミアムな牛乳として2014年4月に発売を開始しました。

 帯広畜産大学研究室の乳牛のアニマルウェルフェア基準は、「動物ベース」「管理ベース」「屋外エリア」(放牧に関する評価)に分けられ、基準をクリアするには「動物ベース」13項目、「管理ベース」23項目の各80%以上と「屋外エリア」の項目を満たす必要があります。「動物ベース」では、牛のボディコンディション(痩せ具合)、体の清潔さ、飛節(関節)の状態、尾が折れていないか、歩き方、蹄の状態、異常行動がないか、外傷や皮膚病がないかなど、「管理ベース」では飼槽・水槽の清潔さ、初乳の給与、哺乳方法、子牛の飼育環境、哺乳道具の洗浄・管理方法などが審査項目です。「屋外エリア」については、夏も冬も毎日4時間以上、外(夏は放牧地、冬はパドック)に牛を放し、放牧地・パドックでも常に飲食・飲水が可能で、全頭が入れるようなシェルターや物陰があること、通路が過度にぬかるんでいないことなどが審査されます。

 アニマルウェルフェアについてさらに多くの人に知ってもらおうと、瀬尾さんたちは一般社団法人アニマルウェルフェア畜産協会を設立、2017年度から乳牛のアニマウェルフェア認証制度を開始し、現在、12牧場、4事業所(食品製造所)が認証を取得。「今後、肉牛や豚の認証も開始する予定です。自分の飼育環境を見直す機会にしていただきたいです」と瀬尾さんは話します。

肉牛の飼育と評価基準

 肉牛の種類は、肉用種(和牛と外国種)、乳用種(酪農家で産まれた牛)、交雑種(肉用種と乳用種を掛け合わせたもの)があります。肉用種・和牛の種類は黒毛和種、日本短角種(北海道・東北)、褐毛和種(高知、熊本、北海道)、無角和種(山口)などで、黒毛和種43%、ホルスタイン42%、交雑種13%です。人工受精により産まれた子牛は母親と一緒に暮らし母乳を飲みます(6ヵ月程度)。その後、母親と離れて他の牛と一緒に生活、9~30ヵ月の肥育期間を終えて出荷されます。

 日本の牛肉市場では、霜降りが多いほど高く評価されます。そこで、霜降りをより多くするために肥育の段階でビタミンAの少ない穀物や藁を給餌する農家が多く、ビタミンAが不足した牛は足が腫れたり、目が見えなくなったり、起立不能になることもあります。また、放牧牛は草を食べることで脂肪の色が黄色くなるので評価が低くなります。「肉量や霜降りなどの肉質からしか評価されない現状から脱却し、アニマルウェルフェアに配慮した飼育方法を価値化するような新しい評価法を提案したいと考えています」と瀬尾さんは話します。

 肉牛の評価法は概ね完成していますが、認証制度をこれからつくっていく段階です。肉牛の評価では「動物ベース」「施設ベース」「管理ベース」のすべての項目で80%以上を満たしていることが認証の条件です。評価基準は乳牛と同じものもありますが、「施設ベース」では、1頭当たりの飼育スべース、暑熱対策、牛舎内照度、牛のつなぎ方、消毒槽の有無、分娩房の有無などが評価されます。

消費者の意識向上へ

 東京五輪に際して、オリンピック選手9名が選手に提供される日本の畜産物のアニマルウェルフェア基準が低レベルだと抗議声明を発表しました。アニマルウェルフェア基準としてグローバルギャップ(GGAP)という国際基準がありますが、日本では独自に「JGAP」という基準を設定、東京五輪への畜産物提供にはJGAP取得が必要です。しかし、JGAP基準では極めて不十分で、今後問題となる可能性もあります。

 日本の畜産・酪農はさまざまな問題を抱えています。海外から多量に穀物飼料を輸入することで牛の病気が多くなっています。また、離農の増加、働き手の減少で1農家当たりの飼育頭数が増加。糞尿や化学肥料による環境汚染や施設への多額の補助金(税金)投入も深刻な問題です。

 「今、多くの人たちが生産現場と離れた都会で暮らしています。消費者は安いものを季節に関わりなく求め、CMなどにも惑わされます。食品の背景に想いを馳せ、本当に良いものを少量、大切に食べることが必要なのではないでしょうか。また、こんな商品がほしいというような要望をスーパーなどに伝えていただくこともお願いしたいです」と瀬尾さんは結びました。

当日はコープ自然派のアニマルウェルフェア基準を策定するキックオフにしたいと畜産・乳業メーカーと事業連合商品部職員も参加。

Table Vol.408(2020年1月)