内田聖子さん
NPO法人アジア太平洋資料センター(PARC)共同代表・内田聖子さん。 PARCは経済のグローバリゼーションがもたらした諸問題を海外の団体と調査・分析し、 日本政府や国際機関に提言したり、批判する活動を行っています。

新型コロナウイルスにより世界はどのような影響を受けているのでしょうか。そして、私たちはどのような方向にすすめば良いのでしょうか。
コープ自然派兵庫(ビジョン平和主催)はNPO法人アジア太平洋資料センター(PARC)共同代表・内田聖子さんを講師にオンライン講演会を開催しました。

今後の動向への検証を

 新型コロナウイルス感染拡大と経済に与える影響が世界的な問題となっています。日本では「緊急事態宣言」発令以降、地域の商店が廃業したり、大企業が倒産するなど経済状況は悪化しています。WTO(世界貿易機関)が予測した数値によると、世界の貿易量は12年前の世界金融危機と同程度かさらに落ち込むということです。

 世界貿易は1990年代に大きく伸長しましたが、2010年以降は停滞し、2013年以降、日本はTPPなど自由貿易協定によりグローバル化をすすめてきました。今年1月1日からは日米貿易協定も発効し、日本の農家は大打撃を受けています。TPPでオーストラリアやカナダ、ニュージーランドなどから安い肉や小麦が大量に輸入され、加えてアメリカの農産物、とくに畜産物が入ってきました。このまますすめば公共サービスや保険・医療の分野などにも影響が及ぶことが懸念され、コロナ禍という状況が加わった今、今後の動向を根本的に検証することが必要です。

コロナが与える影響

 ILO(国際労働機関)が予測した数値では、世界中で約20億人のインフォーマルセクターの労働者のうち、16億人がロックダウンにより直接的影響を受けるとのこと。インフォーマルセクターとは、不安定で賃金も安く過酷な労働条件のもとで働いている人たちのことです。WFP(国連世界食糧計画)が出した予測数値によると、世界で飢餓に苦しむ人々の数は現在の1億3500万人から、2020年末までに2億6500万人に倍増する可能性があるということです。貿易や流通がストップすると必要なところに必要なものが届かなくなったり、生産できなくなり、その影響は厳しい環境に置かれている人たちを直撃します。

 一方、世界はここ40年から50年の間に感染症が世界的に広がる条件をつくり出してきたと言えます。直接的な原因となったのは人の移動です。観光客や移民のほか、労働力として途上国から先進国へ多くの人たちが移動しています。グローバリゼーションとは人やモノの移動を限りなく自由にし、経済規模を大きくすることです。そして、この間、環境を破壊しながら都市化がすすみ、都市に人が集中しています。また、農薬や化学肥料を使う工業型農業が多くなり、グローバルなサプライチェーン(原材料や部品の調達から製造・生産管理・販売・配送までを連続した流れで行う)が世界中に張り巡らされています。サプライチェーンをつくっている主体はほとんどグローバル企業です。たとえば、自動車のトヨタは、労働者の賃金が安いベトナムやタイなどに部品工場があり、それを別の国で組み立て、最後に「日本製」として他国に販売するというシステムをつくっています。食べものでもサプライチェーンによって安い食べものを購入できます。しかし、このようなシステムはコロナ禍では脆弱で、何かひとつ止まればすべてストップしてしまいます。

 近年の経済優先の動きはコロナ禍においてその方向性が問われています。これ以上続けていると経済はもちろん、公共サービスも保たれなくなり、命が守れなくなることをすでに多くの人が気づいています。しかし、方向転換は容易ではなく、グローバル経済に固執する大企業や政治家、官僚と対峙していかなければなりません。

フードシステムの問題点

 FAO(国連食糧農業機関)が出した「コロナによって影響を受ける穀物輸入依存度」を見るとアメリカ、カナダ、ロシア、オーストラリアなど多くの先進国は自国で農産物を生産し輸出していますが、日本は輸入に依存する先進国。途上国の場合はロックダウンにより人やモノの移動が困難になると食糧難を引き起こします。

 コロナ感染拡大により、農産物・食品の輸出を禁止する国も多くなりました。ロシアやカザフスタンは小麦、ベトナムは米、カンボジアは米や魚というように。このような動きはWTOルール違反ではなく、食糧を守る権利はどの国にも認められています。

 先進国の農業は移民労働者に依存し、世界の農作業の25%は移民労働者によって担われています。コロナ感染拡大により移民が入ってこれなくなり、農作業に支障が起きています。そこで、特例としてイタリアやドイツでは農作業を行う移民だけは国内に入っても良いという措置をとりました。フランスでは農業大臣が農作業を手伝ってほしいと国民に呼びかけ、ロックダウンで仕事を失っている数十万の人たちが集まりました。日本の場合は外国人技能実習生によって労働力を確保し毎年約3万人が来日していますが、コロナ禍により来日できなくなり、とくに北海道では苦慮しています。農業高校生や大学生を無理に派遣したという実例もあり、日本の農業がどのような人たちに支えられているかを考えることが必要です。

食のネットワークの崩壊

 食のグローバリゼーションの象徴とも言えるアメリカでは、今年4月以降、食肉処理工場で数千人規模の労働者が新型コロナウイルスに感染し、工場が次々と封鎖されました。その結果、全米の豚肉加工量が25%減と試算されています。工場は感染がわかっても労働者を休ませず、感染をさらに広げました。それどころか、4月28日、トランプ大統領は国防生産法を適用し、すべての食肉工場で操業を続けることを命じました。

 アメリカの牛肉の24%、豚肉の16%は日本に輸出され、労働者が命をかけて処理している肉はスーパーに並んでいます。アメリカでは食肉工場の感染が発端となって生産から消費までのネットワークが次々と崩壊し、大量の牛乳が廃棄されたり、何百万頭の家畜が処分されました。一方、途上国では食料を得ることが困難で略奪や暴力が頻発。アジアやアフリカでは先進国で使われる石けんの原料となるアブラヤシやゴムのプランテーションで、政府の規制を無視して操業が続けられたり、労働者に劣悪な環境を強いていたことが報告されています。

各国で創造的な取り組み

 このような厳しい状況を乗り切ろうと世界各国で創造的な取り組みが行われています。欧州では地域支援型農業スキームやファーマーズ・マーケットを通じて消費者と直接つながり、宅配、病院への配送、オンライン化などを開始。インド・カルナカタ州では、農家はツイッターを使って農産物の動画を投稿したり、バイヤーと連絡をとっています。また、インドネシア・西ジャワ州の漁民組合は農民グループと協力して魚と野菜を物々交換。さらに、ブラジル農民運動による「食料の連帯的な分配運動」は、全国24州で、病院やホームレス、その他の弱者コミュニティに600トンの食品を配布、タイで広がった「助け合いの食糧庫」は食べものを取り出すのも入れるのも自由です。ベトナムで設置された「お米のATM」はスマホのアプリを駆使し、人と接することなく1日分の米を無料で入手できるシステムで自治体が考案し、地元のIT企業がシステムを開発しました。日本ではマスクが届かない、給付金が届かないと混乱していた時期だっただけに、このような直接的でローカルな取り組みが有効だとわかりました。

これまでと違う世界へ

 コロナショックによってこれまでつくられてきたグローバルなシステムがいかに弱いかがわかりました。今、人々の価値観は短期的な利益・快適さ・便利さから、健康・安全、持続可能性、社会的扶助へと変化しています。欧州ではグリーン・リカバリーが本格化し、食、医療、エネルギーなど不可欠なものが重視されています。韓国の学校給食はコロナ禍でさらに前進しています。今こそ国や自治体など公共の役割について再考するときです。

Table Vol.423(2020年9月)より一部修正・加筆