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連載

子育てのまわりで~変容と記憶~

 「ののはなのおうち」がスタートして丸2年の春を迎える。週に1度の親子クラスで時を共有し、幼い子の目を見張るばかりの成長を見守りながら、移り変わる四季の森と共にゆっくり歩んでいる。そして、スタートした頃に生まれた子も仲間入りしている。

 兄弟姉妹は同じ親から生まれたとはいえ、当たり前だが自分も含めてそれぞれだ。わが子が小学校に上がって少し慣れた頃、居るはずの私が子どもの帰宅より遅れた時に1人目の娘は「ママ~」と泣きながら家の周囲を探し回り、見かねた隣家のおばあちゃんに相手をしてもらっていた。真ん中の息子は「こうえんいく」と書いた紙を玄関前のランドセルの上に置き、姿はなかった。末の娘は機嫌よく玄関で縄とびをしていた。てっきり僅差で遅れたか!と思ったが、おやつを食べながら聞くとすでに30分以上縄とびをしていたのがわかった。すっかり通り過ぎたあと、それぞれ対応の違いを思い出してはかなり笑えたものだ。そして、彼らは年々刻々生来の生まれた順番も持ち合わせながら、出会う人や環境、学びの方向性によって変容している。そう、どんな悩ましい状況にあったとしても、子も親も常に変容していくもの。90歳と93歳の2人の母も、然り。「お母さん、困難な出来事にあった時には、それはもう解決の入り口にいるんよね!」今留学中の娘の力強いラインに、あ~脱皮しているなぁと少し鼻の奥がツンとする。子どもたちが小さい頃に脱皮する生きものをずいぶん飼育したが、人間もそうだ。ふと飼育箱の中に残されていた皮を思い出す。

 20余年前、こども園に通う道筋の山側に数頭の乳牛がいる牛小屋があった(今考えると奇跡の環境)。子どもたちと草をちぎって食べさせ、さわれたものだ。ある朝ベビーカーを押し、息子の手をひいて登園していると、まだ100m以上先にある牛小屋からにおいが漂ってきた。すると「あっ、牛さんがやって来る!」と息子は叫んで立ち止まった。「あ~牛さんじゃなくて、においが風にのってやって来たね~」と言うと、「においって風にのれるん?においってすごいなぁ!」と本当にほれぼれするくらい嬉しそうに、牛フンのにおいをいっぱい吸い込みながら歩いた姿をありありと思い出す。

 においはたくさんの記憶を呼び起こしてくれる。食べもののにおいは言うまでもなく、田舎育ちの私は自然の中での「においと触感」、この2つがリンクし生きる記憶と直結している。幼い頃にあった鶏小屋には2~3羽ニワトリがいて、アサリなどの貝殻を細かく割ったり野菜を刻んだり餌づくりはままごと遊びの延長で、産みたてたまごを見つけたわくわく感は忘れられない。フンのにおいも平気だったが、後年養鶏場から漂う強い鶏フンのにおいは耐え難かった。それと同様に、合成洗剤や柔軟剤の甘ったるい香りや、オフィスなどで間欠式に噴射されるフローラルな香りや電車で隣り合わせた香水も耐え難い。しかし、件の牛小屋はその後牛フンのにおいが臭いと訴える人や、牛によくないものを与える人が増えたようで垣根ができ、やがて牛さんはいなくなった。

 子どもたちの記憶に結びつくにおいが、どうか生きていく糧の一つとして守られるようにと願う。(ohisama)

ohisama プロフィール

 

「NPO法人みのおシュタイナーこども園友愛会」が今年5月より「NPO法人ののはなのおうち」と改め、代表理事を務める。コープ自然派おおさか組合員。

Table Vol.412(2020年3月)

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