田中一村の絵を初めて生で見たのは15~6年前。神戸の百貨店のミュージアムで、南国の植物の絵を見たとたんになぜか涙がポロポロと止まらなくなり、後ろ髪ひかれながら会場を後にするまで、ずっとハンカチが手放せない不思議な感動?体験をしたのです。それ以来、いつか奄美大島の田中一村美術館で、彼が晩年を過ごした島の空気を感じながら絵を観賞したいと思っていました。

 夢叶い、ついに訪れた2月初旬の奄美大島は濃いピンクの桃花のような緋寒桜が見頃で、飛行場からレンタカーで走る国道沿いにも美しく咲き誇っています。そして、ススキのような銀色に輝く背の高い穂があちこちでサワサワと風に揺れています。美術館とマングローブ林、古い灯台(灯台マニアのダンナの目当て)の位置以外ほぼ何も下調べせずに出かけた私たちは「桃の花の横でススキ?シュールな光景やね~」なんてトンチンカンなことを言いながら市街地に向かう途中、対向車線側に黒糖工場の看板発見!工場といっても、小さな平屋の屋根から煙がもくもく上がるプリミティブな雰囲気で、黒糖好きの私の要チェックセンサーはバリバリに作動。帰りに寄ろうと心に決めたこの時はまだ知らなかったのですが、2月はサトウキビが旬の盛り、甘味が最高になる時期で、ススキの原っぱと思ったのは一面のサトウキビ畑でした。

 一村さんの絵のように逞しい熱帯の植物、夢みたいに碧い海、東シナ海に沈む夕陽、島の自然のおおらかな美しさにすっかり魅了された最終日の朝、黒糖屋さんへ。薪とサトウキビがドーンと積まれた脇の駐車スペースの前は販売所の入り口で、中に入ると甘い香りが漂います。簡素な袋に入った黒糖を物色していたら「工場見てもいいよー」と言ってくださり、望外の喜びにスキップしそうになりながら店の奥から横の工場へ。薄暗い工場では、薪焚きの平釡でグツグツ煮られるサトウキビの絞り汁。飴状にトロリと煮詰まれば撹拌機に注ぎ、おじさんがグルグル混ぜて空気に触れさせている。「食べていいよー」と塩梅良く空気を含んだ出来立ての黒糖をトントンと切ってくださり、まだ温かいそれを手でヒョイとつまむと…フニフニ柔らかい。口に含むとホロリと溶け、滋味豊かな甘さと青い香りが広がる。こんな黒糖初めて~!!旬の、出来立ての、最高の黒糖に出会ってしまいました♥すべて手作業でつくっておられるのを見たら、独り占め買いだめするのはアカンやろと、少ししか買ってこなかったことを後悔している私です。

料理研究家 うの まきこ
日本の伝統食を考える会会員。食品メーカーでアイスクリームなどの新製品開発等に従事したのち、料理研究家古川年巳氏に師事。わかりやすいレシピと、野菜をたっぷり使ったヘルシーで簡単な料理に定評がある。アトピーっ子のための簡単な除去食メニューも得意。コープ自然派奈良前理事長。

Table Vol.411(2020年3月)

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