2020年1月30日(木)、神戸市教育会館にて、第5回コープ自然派生産者&消費者討論会が開催されました。当日は全国各地からの生産者とコープ自然派の組合員、役職員、コープ有機の役職員が集い、充実した意見交換が行われました。 進行役はコープ自然派事業連合・正橋商品委員長(コープ自然派兵庫理事長)。コープ自然派事業連合・辰巳副理事長の開会挨拶に続いて、木村-黒田純子さん(環境脳神経科学情報センター医学博士)が「農薬の人体影響 ネオニコチノイド、グリホサートの危険性」と題して基調講演を行いました。

有害化学物質が脳を撹乱

膨大な数の学術・研究論文を例に挙げ、農薬の危険性を訴える木村-黒田純子さん。

 発達障害の原因となる環境要因は多種多様ですが、PCBなど残留性有機汚染物質、環境ホルモン、農薬、重金属、大気汚染物質などが脳の発達に害を与えることが学術論文で報告されています。脳の発達期に有害な化学物質が侵入すると、脳の発達が撹乱・阻害され障害が起きると考えられるからです。

 脳にはたくさんの神経細胞がシナプスで結合し、神経回路をつくっています。自閉症は、脳のシナプス・神経回路形成に異常が起き、社会性などを担う神経回路に対応した機能が正しく働かないと考えられています。脳の発達は胎児期から生後(主に乳幼児期)、高次機能を担う大脳皮質の神経回路が形成されます。シナプス・神経回路形成が正常に発達するには、多数の遺伝子がホルモンや神経伝達物質などにより精微に調節されて働くことが必要です。農薬や環境ホルモンなど有害な化学物質は、このホルモンや神経伝達物質の働きを攪乱・阻害することが科学的にわかっています。

ネオニコチノイド系農薬の危険性

 農薬のなかでも殺虫剤は脳神経系を標的にし、殺虫剤の標的となる神経伝達物質は人と昆虫ではまったく同じです。その受容体も似た構造なので、人間にも影響を及ぼすと考えられます。2010年頃から、有機リン系殺虫剤の曝露が脳の発達に悪影響を及ぼすという論文が多数発表されました。有機リン系農薬はその毒性から欧米では使用されなくなっていますが、日本では未だに多用されています。現在、日本で使用されている殺虫剤は、有機リン系が最も多く(1980年頃から減少傾向)、続いてネオニコチノイド系(以下、ネオニコ系)が多く使用量が急増。ともに神経伝達物質アセチルコリンを介した神経伝達系を標的にしています。

 2019年、日本の低出生体重児にネオニコ系代謝物が検出される論文が発表されました。低出生体重児は自閉症など発達障害や糖尿病などのリスク因子で、世界の中でも日本は低出生体重児が多い国です。人の場合、胎盤を通過してネオニコ系農薬が胎児に移行することも明らかになっています。「ネオニコ系農薬の人への影響は明白で低用量長期曝露が問題です」と黒田さんは訴えました。

除草剤グリホサートの危険性

 木村ー黒田純子さんには、グリホサートの発がん性や多様な毒性についてもお話を聴きました。巨大アグロバイオ企業のモンサント社が開発した除草剤ラウンドアップの有効成分・グリホサートは、発がん性や自閉症などの発達障害、生態系への影響、妊娠期間の短縮、パーキンソン病、急性毒性(皮膚炎、肺炎、血管炎)など人への健康障害が近年、学術論文で報告されています。

 2018年~ 2019年、米国ではラウンドアップ曝露によってがんを発症したとする訴訟が起こされ、そのうち3件で患者が勝訴し、モンサント社とその親会社であるバイエル社に多額の賠償金の支払いを命じる判決がくだされました(同様の裁判が1万件以上提訴されています)。海外でグリホサートの禁止または規制が進むなか、日本では残留基準を大幅に緩和(最大で400倍)、使用量が増加しています。

 グリホサートは植物のシキミ酸経路を阻害して除草効果を発揮するため、動物や人には影響がないと宣伝されてきました。しかし、シキミ酸経路をもつ腸内細菌の善玉菌を殺す一方、悪玉菌を増やし、免疫異常や脳に悪影響を及ぼす可能性が指摘されています。またグリホサートは、シキミ酸経路をもつ土壌細菌にも悪影響を及ぼすことも報告されています。

 2019年の論文では、低用量のグリホサートを妊娠中の母ラットに腹腔投与したところ、曝露したラットや仔ラットで影響がほとんどないのに、次々世代、さらにその次の世代で腫瘍や生殖機能不全、肥満など多様な障がいが確認されています。

 また、農薬原体(グリホサートなど農薬の有効成分)とその農薬製剤(ラウンドアップなど農薬原体を製品化したもの)の毒性を比較した研究では、農薬製剤が農薬原体より毒性が桁違いに高い場合があることがわかりました。条件によって、ラウンドアップはグリホサートよりも約100倍毒性が高く、ネオニコチノイド系農薬でも同様の結果でした。農薬製剤には、界面活性剤、溶剤、安定剤、防腐剤、染料、乳剤など多種類の添加剤が加えられ、毒性が桁違いに高くなるケースがありますが、添加剤の表示義務はなく企業秘密です。農薬の安全基準は農薬原体の毒性試験を基に決められていますが、私たちが実際に曝露するのは農薬製剤なので、100倍も毒性が高いと安全が確保されないケースもあり重大な問題です。

 さらに、プラスチック原料や農薬など環境ホルモン作用のある物質が、子どもの脳の発達に悪影響を及ぼすことが世界中で科学的に立証。EUではプラスチック類だけでなく農薬の規制が早くから始められていますが、日本は大幅に遅れています。 

 「無農薬・有機農業をすぐに実施できなくても、危険性が高い農薬はすぐに使用中止もしくはできるだけ量を減らすべきです。生協は生産者と消費者の間を取り持つ要、コープ自然派の取り組みに勇気をいただきました」と黒田さんは話しました。

ザンビアでの取り組み

BLOF理論で飢餓をなくすという小祝政明さんの試みは世界的に注目されています。

 続いて、小祝政明さん(日本有機農業普及協会代表理事、NPOとくしま有機農業サポートセンター校長)はアフリカ・ザンビアでの取り組みを報告、これからの有機農業はどうあるべきかについて話しました。2019年9月25日、国連総会にてSDGs(持続的な開発目標)をテーマとした国連職員向けのカンファレンス(技術学術検討会議)が開催されました。その中で、小祝政明さんはBLOF理論による栽培技術でザンビアでの収穫量アップ、干ばつに強い農産物づくりの事例報告を行いました。

 小祝さんがザンビアの農業に取り組むことになったきっかけは、アフリカの子どもたちを抱いた時、炎天下なのに身体が冷たく、栄養不足による貧血で免疫力が低下していることがわかったから。小祝さんは子どもたちを救いたいと思い、ザンビアではなぜ作物がうまく育たないのか調査しました。すると、ザンビアの土壌はミネラル分であるリン酸が効きにくいことがわかりました。そこで、リン酸肥料を発酵鶏糞で包み、発酵微生物がつくる酸でリン酸を溶かして作物が吸収できるようにしました。その結果、トウモロコシの葉は緑色を長く保ち、通常の畑のトウモロコシより長く光合成が維持されて炭水化物をつくり続けることができました。

 「食べることは、生きること、命をつなぐための農産物をつくる技術・技能は人間にとって不可欠です。しかし、多くの地域で農産物を栽培するための土壌をどのように持続的にマネージメントしていくかという知識が不足しています。生態系のメカニズムを正しく理解し、土壌を無理なく豊かにしていく土づくりの技術を学び実践することで飢餓で苦しむ人をなくすことができるのではないでしょうか」と小祝さんは話します。

水を溜める森を増やす

 BLOF理論による栽培技術は高収量・高品質・高栄養で、虫や病気に強い作物を安定的につくることができます。そのためには必要な時に必要な量の水が必要です。アフリカではかつて密林だった地域が砂漠化し、水を溜められる森が不足しています。BLOF理論にもとづいた土づくりでは収穫量を減らさず栽培面積を減らすことができ、その分で森をつくることができます。「水源の森は農業者だけのものではなく、その地域に暮らすすべての生きもののために有益です。自分が食べるものを自分たちでつくることができる知識と技術を伝えるのが私たち日本人の役割ではないでしょうか」と小祝さんは話しました。

100名以上の参加者で埋め尽くされた会場。質問にも丁寧に答えていただきました。

Table Vol.412(2020年3月)