2024年2月20日、コープ自然派奈良(理事会商品)は角谷文治郎商店の角谷文子さんを招いて学習会を開催。みんなに愛される三河みりんの秘密を聞きました。
醸造王国・愛知
角谷文治郎商店は愛知県碧南市にあります。愛知県では、豊富な水、温暖な気候、酒造業の発展により、多くの醸造業が栄えてきました。豆みそ、白醤油、たまり醤油、日本酒、みりん、さらにケチャップ、ソース。愛知ほど幅広い醸造食品がつくられている地域はありません。そんな土地でみりんづくりも栄えてきました。
みりんの変遷
みりんが日本に誕生したのは、戦国時代のころ。中国からの伝来とも琉球・奄美からの伝来ともいわれていますが、ほんのり甘い「高級酒」として飲用されていました。まもなく調味料としても使われはじめ、技術の高まりにより現在のような濃厚なみりんがつくられるようになったのは大正末期から昭和初期にかけてでした。
みりんの原材料は、もち米、米麹、米焼酎。とにかく米をたくさん使います。戦前に確立した「米一升、みりん一升」の仕込み方法も、戦中・戦後の米不足の世相では許されず、1943年から8年間は贅沢品として製造が禁止されました。同じく米をたくさん使うにも関わらず酒は兵士の士気を高めるとして製造が奨励されたそうです。「やるせない気持ちになります」と文子さん。そして、ともかく、戦後製造が再開されたあとも、贅沢品としてみりんには売値の7割を超える高い酒税がかけられました。そんな高い酒税から逃れるために登場したのが、「みりん風調味料」でした。
みりん風調味料には、雑穀などを原料に添加物を加えたアルコール分を含まない「新みりん」や、アルコール分はあっても食塩を含むため飲用ではないなどがあります。これらは酒税法の適用外になるので酒税がかからないこと、また酒販免許のない店でも販売できることから急成長。現在でも「みりん」をはるかに上回る生産量になっています。
米一升、みりん一升
もち米と米麹を使って仕込む「みりん」も、醸造アルコールや糖類を添加するかしないかで2種類に分かれます。添加するものは醸造期間が短く、量も原料米の2.5〜5倍のみりんをつくることができます。三河みりんは何も添加せず、もち米、米麹、米焼酎のみでつくることにこだわっています。この製法では醸造期間は1年以上かかり、量も原料米と同じ量のみりんしかできません。これを「米一升、みりん一升」という言葉で表現しています。
いかにもち米本来の甘さ・旨さをそのまま引き出すか。そのために三河みりんでは、もち米の精米も、米麹づくりも、米焼酎づくりも、すべて自社で行っています。契約農家からもち米を玄米で仕入れて精米。洗米・浸漬して蒸し、米麹と米焼酎と合わせて仕込みます。3か月ほど熟成させている間に、もち米のでんぷんが甘さに、たんぱく質が旨みに変わります。それを搾った液体がみりん、固形分がみりん粕(こぼれ梅)です。このみりんをタンクでさらに1年以上熟成させ、ようやく完成します。「みりんは花の咲く時期に仕込む」といわれるそうで、春の梅や桜が咲く時期、秋の菊が咲く時期を中心に年2回仕込んでいます。
みりんは、もち米のリキュール
近年みりんは「もち米のリキュール」としてフランス料理やスイーツ、カクテルの素材として注目されています。今回のイベントで試食したメニューも、フレンチトースト、コンポート、チャイと、砂糖は一切使わず甘みはすべてみりんだけを使用。深みのある甘み・旨みに参加者からは絶賛の声が上がりました。
みりんの調理効果は「おいしさのラッピング」。硬くならない、冷めてもおいしいなどおいしさを長持ちさせるので、お弁当などにもチカラを発揮します。三河みりんでは、国産米を使ったみりんを造ることで、お米のおいしさを伝えるとともに、田んぼを中心とした風土を守っています。
Table Vol.501(2024年5月)