アニマルウェルフェアとは、誕生から屠殺までの期間を家畜がストレスなく健康的な生活ができるよう飼育するという考え方です。北海道産地ツアー2日目、アニマルウェルフェア第一人者の帯広畜産大学准教授・瀬尾哲也さんの講演会が行われました。
日本の乳牛と牧場の実態
日本では「どうせ食べるのにアニマルウェルフェアを考える必要があるのか」と疑問に思う人が多く、アニマルウェルフェアへの理解がまだ進んでいません。アニマルウェルフェアは食べることを否定するのではなく、家畜にもうれしい、悲しい、苦しいという感情があり、人間と同じように感覚を持つ生きものだから、生まれてから屠殺されるまで、ストレスをかけない飼育をしようという考え方です。「家畜も人間も必ず死にます。しかし、人間は日々よく生きようと努力します。家畜も同じではないでしょうか」と瀬尾さんは話します。
牛の一生は、生後2ヵ月の哺乳期間、14~16ヵ月の育成期間を経て、人工授精を行い約10ヵ月で出産、約1年間の搾乳期間を終え、再び妊娠、出産、搾乳を平均3~4回繰り返します。本来、牛の寿命は20年ですが、乳量が落ちる病気になるなどして5~6年で廃牛。また、日本の家畜のほとんどが畜舎内で一生を終えます。広告や商品パッケージなどには放牧牛の写真やイラストが多用されていますが、北海道でも放牧されている家畜はほんのわずか。現在、酪農家が飼育する乳牛頭数は平均79頭(北海道121頭、都府県53頭)と、1965年の平均3.4頭から大幅に増加。日本人の食生活の変化によるチーズ、牛乳の需要の高まりから、機械化を進め、乳量を増やし、酪農家、乳牛ともに無理をしている状態です。
アニマルウェルフェア先進国のEUでは、鶏の飼育方法としてバタリーケージ飼い(ワイヤーでできたケージを連ねて幾段にも重ねた狭い檻)が禁止になりました。EUで販売される卵には個別にオーガニック、放し飼い、平飼い、ケージ(建物内での放し飼い)など飼育方法と国、農家番号の表示義務があり、選択肢が多数あります。米国やカナダでもアニマルウェルフェアのラベル商品は売り上げが増加し、ファストフード店(マクドナルト、スターバックスコーヒーなど)でも将来的に採卵鶏のケージ飼い廃止を宣言しているということです。
快適な飼育方法を具体化
「よつ葉放牧生産者指定ノンホモ牛乳」は十勝忠類の5農家の生乳のみが原料のプレミアムな牛乳です。日本草地畜産種子協会による放牧認証を受け、帯広畜産大学作成の認証基準(50項目検査)を年2回クリアしなければなりません。ここでは牛たちは冬季も外で運動できます。認証基準は、「動物ベース」「施設ベース」「管理ベース」の項目に分かれ、36項目の80%以上と放牧の項目のクリアが条件。「動物ベース」では牛のボディコンディション(痩せ具合)、体の清潔さ、後ろ足の関節部分(飛節)・蹄の状態、葛藤・異常行動の有無、尾が折れてないかなどが審査項目になり、「施設ベース」では給水能力、施設内の快適さ、分娩時には分娩房(産室)に移動させる、体の痒みをとるための牛体ブラシの設置など、「管理ベース」は従事者の人数、牛床(寝床)のやわらかさ、適切な除角(角を切る)方法、水槽の清潔さ、断尾(しっぽを切ること)の禁止などがあります。
牛舎の種類には、つなぎ飼い(牛舎内で首をつながれている)、放し飼い(牛舎内で放し飼い)、放牧(1年中、季節放牧)があります。一日中つながれている牛は、食事・排泄・就寝すべて同じ場所で行い、方向転換すらできません。搾乳は人が乳牛のもとへ行きミルカーという機械を取り付け、排泄物はベルトコンベアで運ばれます。放し飼いは、北海道で増加している方式で、牛舎面積に対して多数の飼育が可能で、牛は自由に動けますが、排泄物が落ちているコンクリートの上を歩くため爪の病気になりやすい点がデメリット。放牧はアニマルウェルフェアの取り組みとして望ましい飼育方式です。しかし、放牧しているなら何でもよいとは言えず、放牧中もいつでも水が飲めることや夏季には日陰の用意など環境の整備が必要になります。
牛の逃避・逃走反応も調べています。調査者が牛にどの程度近づけるか、すぐ逃げるかで酪農家の普段の接し方が推測できます。牛は優しく搾乳されると、乳量がほんの少しだけど増加することがわかり、オキシトシンというホルモンが多く分泌されているだろうとのこと。そして、アニマルウェルフェアに配慮して生産された製品は品質が高いとも言えます。
Table Vol.386(2019年2月)