ICEBA(アイセバ/生物の多様性を育む農業国際会議)は、生物多様性を基盤とした地域循環型農業技術の確立と、国内外への普及を目指す国際会議です。2025年7月12日・13日には、7回目となるICEBA7が徳島県小松島市で開催されました。
7月13日、分科会②では、田んぼから排出されるメタンが地球温暖化に悪影響を与えているとされるなか、温暖化防止と生物多様性は両立できないのか、実践事例をもとにヒントを探りました。

田んぼで発生する温室効果ガス
農林水産省が策定した「みどりの食料システム戦略」には、目標のひとつとして温室効果ガスの排出削減が掲げられ、その手段として「中干し期間の延長」が推奨されています。田んぼから排出されるメタンは二酸化炭素の数十倍の温室効果を持ち、水田 1haあたりの温室効果はガソリン車1台分より大きいといわれています。メタンは空気のない土壌中で発生するので、稲の生育途中に一定期間田んぼの水を抜く「中干し」の期間を延長することで土壌を酸素に触れさせ、メタンの発生を抑制しようというのが中干し期間延長の意図です。
中干し期間延長のデメリット
しかし、中干し期間の延長は、田んぼの生きものを激減させる可能性が高いと多くの研究者から懸念の声が上がっています。例えば、徳島県では、中干しの期間がちょうどカエルの産卵時期と重なります。「カエルが繁殖できないことが、カエルをエサとするシラサギなどの減少にもつながっているのではないか」とJA東とくしまの西田さんは考えています。

中干しのメタン抑制効果
ところで、中干し期間の延長は本当にメタンの発生抑制に効果があるのでしょうか。座長の大塚さんによると、山形県の積雪地帯の水田ではメタン発生を抑制できた事例がありますが、別の研究では、年間トータルではほとんど減少しなかったというデータもあり、まだ一般化できる状況ではないとのこと。また、メタン抑制に使える技術は他にもあり、中干し期間の延長だけが唯一の答えではありません。
カギは稲わらの分解促進
メタンは土壌中の有機物が嫌気的に分解される過程で発生します。つまり、メタンの発生を抑制するには、稲わらなどの有機物を酸素のある状態で速やかに分解させておくことがカギとなります。館野さんが紹介する技術は「秋耕」と「複数回代かき」です。「秋耕」とは、稲刈り後に浅く耕すことで稲わらの分解を促進する技術です。このとき、有機栽培の圃場のほうが微生物が多いので稲わらの分解が早くなります。「複数回代かき」では、水深 5cm以上の深さに水を溜めた状態で空気を含ませるように代かきをすることで、土壌中に酸素を取り込んでメタン発生抑制につなげます。

中干しをしない稲作
西田さんは秋処理による土壌改良をしっかり行うことで、全く中干しをしない米づくりを実現しています。今年、田んぼからのメタン発生量を測定したところ、ほとんど発生していないことが分かりました。また、中干しをしない米づくりの技術は田んぼの生きものを増やすだけでなく、米自体を高品質・高食味・多収穫にできると西田さんは実感しています。
下からのイノベーション
カゴメ株式会社の中島さんからは、乳酸菌飲料ラブレに用いられるラブレ菌(ヘテロ型乳酸菌)を使った土壌改良について事例紹介がありました。良い菌は腸を整えるように土壌の悪玉菌を抑えたり、土壌の団粒化につながります。中島さんが水田の調査用に開発したメタン発生量を測定できる簡易型ガス検知器が、多くの参加者の関心を集めました。
大塚さんは「メタン抑制の技術は、おいしい米をたくさん穫れるようにする技術と重なります。この分科会で報告されたようなローカルな知恵を科学の目で解明していくことが大切です。農家の知恵と経験を駆使して、下からのイノベーションを起こしませんか」と呼びかけました。されました。湿地の素晴らしさを学び、多くの関係者が積極的に情報を共有し連携することで生物多様性の保護につながっています。

Table Vol.518(2025年10月)

