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食と農と環境

生産者消費者討論会 各地からの取り組み報告

1月30日に行われた生産者消費者討論会では、ふしちゃんファーム、くまもと有機の会、日本有機加工食品コンソーシアムの三者から報告がありました。あわせて、討論会のまとめとして話された、のらくら農場からの問題提起も紹介します。

幼いわが子が、畑でそのまま食べられる野菜を

ふしちゃんファーム 伏田直弘さん

 ふしちゃんファームを運営する株式会社ふしちゃん。代表の伏田直弘さんは、今年で就農9年目。大学で農業経営を学び、居酒屋チェーンでの農業経営実務経験などを経て、茨城県つくば市で就農しました。ハウス61棟、露地約1ヘクタールで小松菜、水菜、ほうれん草、ロメインレタス、いちごを中心に有機栽培をしています。特にいちごは、慣行栽培では60回以上農薬を散布するともいわれ、化学農薬を使わずに作るのはとても難しい作物です。つくば市にある農研機構と提携して技術を向上させ、有機JASとASIA GAPの認証を取得。自分の大事な子どもが、畑に走っていってそのまま食べても大丈夫なモノづくりを行っています。

 ふしちゃんファームでは、「日本のモノづくり技術を持って世界に打って出る」という経営理念をもっています。土壌水分センサーで地中水分量と地表温度を1時間ごとに計測し、スマホで潅水制御をしたり、栽培記録をアプリでデータ管理するなど、ICTを利用することで作業の効率化を図っています。また、就労継続支援B型の事業も行っていて、袋詰め作業に組合せ計量機を導入することで、数字を見るのが苦手な利用者さんでも間違いなく作業できるようになり、時給700〜800円を実現しています。

 オーガニックに付加価値をつけ、世界に打って出たいと考えている伏田さん。有機JAS認証に加え、プラスアルファの差別化をどう実現していけるか知恵を絞る日々です。

農家と消費者の健康を願って半世紀

くまもと有機の会 田中誠さん

 くまもと有機の会は、1985年「自然と共に生きる丁寧な暮らし」を合言葉に設立されました。生産者、消費者、流通の三者が定期的に話し合うことで、さまざまな問題に対処してきました。60ヘクタール以上の圃場で100品目以上を露地栽培。生産者は標高0メートルから800メートルまで点在しているため、産地リレーすることで有機農産物の年間安定供給を実現しています。流通会社として、全国各地への卸や、熊本県内での直売所運営、野菜セットの週2回配送などを行い、旬の有機野菜をバランスよく作り、バランスよく食べてもらうことを心がけています。

 中山間地の限られた土地でいかに反収を上げるか、生産技術の向上を突き詰めてやってきました。たとえばニンジンは有機栽培が難しいといわれていましたが、平均の2〜3倍を実現。その技術を広く伝えていくために、有機の学校「ORGANIC SMILE」の設立・運営にも参画しています。一部の農家だけではなく、いろんな生産者、いろんな品目、いろんな畑でも付加価値の高い野菜ができるようになってきています。

 2018年からは、地域の子ども食堂に有機米と旬の野菜を提供しています。また、水田を守るためには米の利用拡大が必要と考え、味噌や醤油、発芽玄米、玄米もちなどの加工品も作っています。農業人口は減少の一途。地球環境も危機的状況。「有機農家の役割のひとつは『身土不二』、自然とともに生きる生き方を体現することではないでしょうか」と語りました。

有機食品の市場拡大を

日本有機加工食品コンソーシアム 南埜幸信さん

 オーガニック食品がブームになっていますが、輸入原料が多いのが実状。なんとか国産原料のオーガニック食品を拡大したいと、2023年4月に設立されたのが「一般社団法人日本有機加工食品コンソーシアム」です。

 発端は、コープ自然派が国産オーガニックのパンを作りたいと夢見たこと。国産有機小麦を探して日本中を行脚しましたが……ない!あってもとても高額で手が出ない!そんな状況の中、ようやく出会えた北海道の生産者に協力してもらえることになり、輪作作物も含め全量買い取りを確約することで計画栽培がスタートしました。そして、コープ自然派の子会社であるコープブレッドファームで国産有機小麦を使ったパンの製造を開始。加工食品開発のモデルをつくりました。

 国産有機原料をさらに広げていきたいと取り組みを進める中で、何をするにも一定の規模が必要だということが分かってきました。例えば製粉の最低ロットは30トン。生産を広げるためには、加工メーカーなど多くの企業の力を結集する必要がありました。そこで、生産から消費までサプライチェーン全体の垣根を超えた協力体制を構築すべく、「一般社団法人日本有機加工食品コンソーシアム」が生まれたのです。

 設立から9か月でコンソーシアムの会員は110社を超えました。生産者にとっては売り先を確保することで安心して生産できる体制を、加工事業者にとっては情報を開示することで安定調達と安定供給できる体制を、小売事業者にとっては売れる商品開発をすることで安定の品揃えを、三方良しの関係を実現することがコンソーシアムの役割です。

 そのための第一歩として、転換期間中・国産有機のポジティブキャンペーンを始めました。有機JASに転換した田畑は3年目まで転換期間中有機となります。その転換期間を応援する共通マークを商品に表示することで、有機への転換を推進していきたいと考えています。また、生産者と加工メーカーをマッチングするオーダーエントリーの仕組みを進めています。

 市場拡大の課題は、価格と品揃え。毎日の食卓を有機食品で満たすための「のびしろ」はここにあります。コンソーシアムでは、国産有機食品を買える価格、豊富な品揃えで用意し、表示の面でも選びやすい商品開発を行っていきたいと考えています。

農業倒産の危機に向けて

のらくら農場 萩原紀行さん

 2008年リーマンショック、2011年東日本大震災、2019年東日本台風、そして2020年新型コロナウイルスと、農業界は何度も危機に襲われてきました。それぞれとても大変でしたが、今から振り返ると「高波」のような危機でした。しかしここから先に待ち構えている2つの危機は、「津波」のような危機になりそうです。高波と津波の大きな違いは、波に奥行きがあるということ。長く続きそうな2つの危機とは、資材高騰と人手不足です。

 社会保険労務士の話によると、10年後最低賃金1500円、最低月給36万円レベルになることは確実だそうです。それを乗り越えられる農業経営体はいったいどれくらいあるでしょうか。飲食店の倒産が前年比_割増、青果卸会社の4割が赤字、新規就農者数最低という現状に加え、米国の最低賃金大幅上昇により日本の農業を支えている外国人農業実習生の流出が予想されます。2024年以降の業種別「倒産発生予測ランキング」第1位が農業という予測にも、驚きはないのではないでしょうか。

 「マネー・ショート」という2015年の映画があります。サブプライムローンがバブル崩壊に向かって突き進む様を描いた映画ですが、社会が暴走してしまう雰囲気がいまの青果業界そっくりだと感じます。生産から流通、販売、資材会社までみんなが協力体制を敷かなければ、問題だらけの現実に立ち向かっていけません。まずはここに集った人たちから、力を合わせてやっていきましょう。

司会を務めたコープ自然派おおさか常任理事 清水直子さん

Table Vol.499(2024年3月)

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