今月の「ちょっと教えて」のテーマは、GM(遺伝子組み換え)やゲノム編集に関する問題点についてです。コープ自然派事業連合顧問の松尾由美さんに寄稿していただき、これらの技術が抱える課題や影響について解説していただきました。
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生命に特許をかける
遺伝子組み換え(GM)技術が開発されて約50年、世界でGM食品が流通し始めてもはや30年近くになります。きっかけは1980年、米国の最高裁判所が初めて生命への特許を認めたことです。最初は微生物、そして植物、動物へと対象が広がっていきました。特許は元々、工業製品にかけるものでしたが、人類はついに一線を越えて生命をお金儲けの道具にしてしまったのです。以降、種子や農薬の多国籍企業はGM種子を開発して特許を取得し、除草剤や化学肥料とセット販売することでビジネスを拡大していきました。その結果、現在、世界の種子の7割をわずか数社が独占してしまっています。
一方、2015年に除草剤の主成分グリホサートが発がん物質に指定され、頻繁に散布していた人々の間でガンが多発するなどの健康被害が明らかになり、米国では10万件を越す高額訴訟が相次ぎました。土壌や水系、母乳からのグリホサート検出、妊婦から胎児への毒素の移行なども明らかになっています。EUをはじめとした国や地域でのGM作物の栽培や流通の規制や禁止、食品への表示義務などの動きと開発企業とのせめぎ合いの中で、GM食品は頭打ちになっています(すでに蔓延していますが)。
遺伝子操作はゲノム編集・フードテックへ
その後、登場してきたゲノム編集食品(特定の遺伝子を破壊する技術、手法はGMとほぼ同じ)や代替肉、昆虫食、培養肉に代表されるフードテックなど、遺伝子操作食品の研究開発が今、世界で急拡大しています。農薬や肥料、麹や菌類などのほか、赤ちゃんの粉ミルクにいたるまで、安全性が検証されないまま野放しになっているのが現状です。
この流れを日本は残念ながら国を上げて推進しており、多額の税金が投入されています。推進側は「食糧不足や気候変動の解決策であり、安全性に問題はない」としていますが、実際はいずれも環境負荷がさらに増えて、フードテックには大量の食品添加物が不可欠なことなど、その実態は解決策にはほど遠く、営利目的に他なりません。
「食べない、買わない」市民のチカラ
食や生命が脅かされるこのような状況に対して、私たち市民は無力なのでしょうか?いえいえ、日本ではあまり報道されていませんが、世界各地で市民や農民がさまざまな反対活動やオーガニック推進などで激しく対抗しています。消費者としては「食べない、買わない」ことがいちばん企業への圧力になります。つい最近も徳島県で食用コオロギを生産加工するグリラス社が業績悪化で自己破産しました。ネットの口コミで批判の声が高まり業績が悪化したと報道されていますが、そうでしょうか?国が安全性検査も表示義務も課していない未知のフードテックに対して、消費者が抵抗感を持つのは当たり前です。
多額の投資や補助金を集めて開発盛んな遺伝子操作食品ですが、世界では市民になかなか受け入れられず、推進企業と市民の攻防が続いています。黙っていては何が口に入ってしまうかわからない時代です。ぜひこのような動きに目を光らせて、アンテナを張っていきましょう。
Table Vol.510(2025年2月)