2018年7月11日(水)、コープ自然派しこく・えひめセンターはドキュメンタリー映画「種子―みんなのもの?それとも企業の所有物?」上映会を開催。講師にコープ自然派事業連合遺伝子組み換え問題担当・松尾理事(コープ自然派おおさか理事長)を迎え、映画の内容や種子法廃止による日本の農業の行方などについて話していただきました。
化学企業による種子独占
ドキュメンタリー映画「種子」は、エクアドル、ブラジル、コスタリカ、メキシコ、ホンジュラス、アルゼンチン、コロンビア、グアテマラの8ヵ国の団体やNGOによって共同制作。映画ではこれらの国々の農民や先住民族、市民などが種子を独占しようとする多国籍企業や政府に抵抗し、種子を次世代に受け渡すために活動する姿が描かれています。
古代植物のテオシントは、人々が生育と収穫、保存を繰り返し、各地域の食文化に適したトウモロコシに育てられたと言われています。ラテンアメリカの人たちはそれらの固定種を「クレオールの種子」と呼び、生命力旺盛で病気や害虫に強いため脈々と受け継がれてきました。
第二次世界大戦後、毒ガスや 爆薬などの化学兵器を製造していたモンサントやバイエルなどの化学企業は農薬や化学肥料をつくる会社に転身、農薬と化学肥料、F1品種の種子をセット販売して新しい農業モデル(緑の革命)をつくり、クレオールの種子の4分の3が失われました。
1961年、「UPOV(ユポフ)条約(植物新品種保護国際同盟)」成立、これは種子開発者の権利を定めた国際条約です。しかし、1980年、米国の最高裁判所で遺伝子組み換え作物に特許が認められ、「UPOV1991年条約」で農家の自家採取が禁止されました。また、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)をはじめとする自由貿易協定を結ぶことで「UPOV1991年条約」批准が義務付けられ、先進国による発展途上国への批准の押し付けが行われています。1998年、日 本も「UPOV1991年条約」に批准し、アジア各国に批准を迫っています。
食と農を支えた種子法
このような状況下、今年3月31日、日本では主要農作物種子法(以下、種子法)が廃止されました。種子法とは、稲・麦・大豆の優良品種の生産を行うための国・都道府県の責任を規定したもので、1952年施行、計画的に種子を生産し、優良品種が安価に農家へ提供され、地域に合った米300品種以上の多様性が守られてきました。しかし、種子法廃止で生産の不安定化、価格の高騰、地域の特性に合った品種開発の断絶などが懸念されます。現在、国・都道府県で開発された水稲価格の約10倍で化学企業が生産量1.4倍とされる品種を販売。この民間品種は地域性がなく、2ヵ月長い生育期間と大量の農薬・化学肥料が必要で、背丈が高いため大型コンバインで収穫しなければならず、牛丼や回転寿司などの外食チェーン店で使用されているということです。
生物多様性を守る動き
この100年間で世界から94%の種子の種類が失われたと言われますが、一方で生物多様性を守る動きが世界中で拡がりつつあります。米国では小麦の自家採取が全体の6割以上を占め、カナダは8割、他国でも主食などの作物が広く自家採取されているとのこと。農家の自家採取を禁止する「UPOV1991年条約」は、先進国が強行に押し進めているにもかかわらず、56ヵ国しか批准していません。一方、1993年、「生物多様性条約」には196ヵ国が批准、2001年「食料及び農業のための植物遺伝資源条約」(農民の種子の権利を守る条約)には143ヵ国が批准し、日本はこの3つの条約すべてに批准するという矛盾した状況です。 「現在、種子を生産する農家は高齢化し、種子法について知らない農家も多数います。生産者との関わりを深め、ともに学習する機会を増やすことが私たちにできることではないでしょうか。公的種子事業を守るよう、声をあげ、国・都道府県に申し入れましょう」と松尾理事。コープ自然派しこく・松友理事が愛媛県庁にメールで申し入れたところ、「種子法廃止後もこれまでと変わらない対応をしていくこととし、県独自の要領を整備して種子生産農家や関係機関・団体が一体となった安定的な種子供給を行う体制を整えたところです」と中村県知事から返信がありました。新潟県、埼玉県、兵庫県では、種子法廃止を受けて独自の条例を制定しているということです。「『要領』は指針・基準を具体的に示すもの。今後もこの体制が維持できているかチェックしていきましょう」と松尾理事は話します。
Table Vol.374(2018年9月)