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食と農と環境

食と農が地域で循環する社会へ

2022年5月21日(土)、コープ自然派兵庫(ビジョンくらし主催)は京都大学人文学科研究所准教授・藤原辰史さんの講演会を開催、食と農をテーマとしたお話を聴きました。

講師の藤原辰史さん。「縁食論」(ミシマ社)、「決定版 ナチスのキッチン」(共和国)、「戦争と農業」(インターナショナル新書)、「トラクターの世界史」(中公新書)、「給食の歴史」(岩波新書)など著書多数。

石油依存型農業と貧困

 ウェブ上で話題の「パンデミックを生きる指針」(「B面の岩波新書」掲載)、「ウクライナ侵攻について」(「みんなのミシマガジン」掲載)など、藤原さんは幅広いテーマの研究に取り組むなかで、生物体として社会の中で”生きること“を研究の中心にしています。生活協同組合の”生活“という言葉には生命科学という意味が含まれ、生き方をどうエコロジカルに変化できるか、生活協同組合の役割は重要だということです。

 現在、食と農は地球環境レベルで危機的な状況に陥っています。石油依存型農業はトラクター・化学肥料・農薬など石油を原料とし、土・水の汚染、気候変動などを引き起こす地球破壊型農業になっています。また、高度経済成長期に甚大な被害を出した四大公害病の原因物質は農業と関係が深く、農業を近代化することと引き換えに公害をもたらしました。

 世界の先進工業国は先進農業国でもあり、農業設備や機械、化学肥料、農薬など高額の初期投資を行って稼働率を上げ、米国は世界最大の農業大国になることで世界の覇権を握りました。一方、インドでは多額の借金を抱える農民の農薬自殺が社会問題になるなど、世界中で農民の自殺が増加しています。本来、地域に根ざした農業技術があるにも関わらず、高額な農業技術・資材を買わされ、借金まみれにされた農民は貧困に陥り、食べものをつくっていても農村では飢餓が起きているのです。

多国籍企業による独占

 カーギル社(米国)など世界の穀物メジャーは世界中の穀物の流通を担い、大量購入・販売することで巨大なルートを独占し、ロシア軍のウクライナ侵攻により急激に資産を増やしています。そして、原油価格の高騰による食料価格の上昇が貧困家庭を直撃し、経済格差がますます広がることが予想されます。巨大多国籍企業だけが利益を得られる流通・フードシステムによる富と技術の一極集中が、世界の貧困問題と構造的暴力を引き起こしているのです。これらは、1960年代に始まった「緑の革命」時代の負の遺産と言われます。「緑の革命」は開発途上国を救うための国際プロジェクトで、稲・小麦・トウモロコシなどの品種改良による多収量品種の開発が進められ、開発途上国に導入されました。しかし、多収量品種の穀物は多国籍企業がつくった化学肥料を使わなければ生産しづらいという問題があります。生協がつくる近隣生産者と消費者をつなぐ小規模の流通システムは、世界的なフードシステムへの抵抗になるということです。

福祉崩壊と子どもの貧困

 日本の食料自給率はカロリーベースで37%(2020年)とOECD(経済協力開発機構)諸国の中で最低レベル。国民に食料を安定的に供給することは国の責任ですが、食と日米地位協定においては国家として自立できていません。大阪で母子が餓死するなど貧困による死亡事例が多数あり、日本の福祉が崩壊していることを物語っています。生活保護は現在もハードルが高く、申請を諦める人が多いとのこと。日本は子どもの7人に1人が貧困状態で、学校給食が唯一の栄養源という子どもが増え、「子ども食堂」は全国に5000ヵ所以上と地方自治体が設置する児童館の数を超えています。「食べるという最低限の行為は税金で支えるべきなのに、IR(カジノを中核とする統合型リゾート)や観光振興に税金が使われているのです」と藤原さん。地域によって子どもの貧困が可視化されにくい状況もあり、深刻な問題になっています。

 農業漁業林業の就業人口の壊滅的な減少による農村の荒廃が進み、これらは政府が進めるコンパクトシティ(生活圏を小さくした街)によるものです。日本は農業をないがしろにする一方で、農薬技術に高額投資をする一貫性のなさが見られます。ネオニコチノイド系農薬や除草剤グリホサートなど農薬基準が緩く、商社がフィリピンのバナナ農園でも使用するなど世界の環境も汚染しているのです。農薬問題は医学にも密接につながり、抗生物質の過剰投与は腸内細菌バランスを崩し、アレルギー疾患が激増した原因とも言われています。抗生物質は歴史的に多くの命を救ってきましたが、現在は人間だけでなく家畜にも多用され、大手製薬企業が製造・販売し、医学・畜産に過剰に使用されているのです。しかし、生産者は大量生産を続けるために抗生物質を使用するしかなく、私たちは生産者と寄り添いながら消費する道を模索していかなければなりません。

誰もが有機を食べる社会

 藤原さんの博士論文はナチス・ドイツの有機農業がテーマでした。化学肥料・農薬が火薬・毒ガスに転用されたことから有機農業の推進は反戦へのメッセージであり、他国を侵略することなく自給自足で食料を賄うという意味があります。しかし、自国民の健康だけを考えたナチスの高官の幾人かは、有機農業や健康食品を推奨しました。ある一定のグループだけが健康になることを目的とする有機農業は、優生学的思想につながります。そのような思想に陥らないよう、有機農業運動を進めていかなければなりません。

 企業は人件費を抑えてコスト削減に努めます。そのため、食料品価格が下がると労働賃金を下げやすく、企業にとって好都合です。そこで、化学肥料・農薬を大量投入し土壌に負担がかかる農業を進め、大量生産して価格を下げ、さらに労働賃金が安くなるという負のスパイラルに陥っているのです。これらの問題解決には、コストを税金で補いつつ有機農業を進め、誰もが有機農産物を食べられるシステムをつくることが必要。食と農が地域で循環することで労働賃金の低下を防ぎ、食と農を通じて循環する社会を経済システムとして考えなければなりません。

食と農から世界を変える

 歴史的に男性中心主義的世界のなかで、女性が無給で家事労働を行ってきました。そして、女性に支払われなかった給料分を備蓄にして経済発展してきました。「アダム・スミスの夕食を作ったのは誰か?-これからの経済と女性の話」(カトリーン・マルサル/著 河出書房新社)は、「国富論」の著者・アダム・スミスが提唱した”人間は経済的合理性によって行動する“という概念を問い直しています。アダム・スミスが研究に打ち込めたのは身の回りの世話をした女性たちの生身のケアがあったからで、女性たちは利益のためだけに食事をつくってきたわけではありません。経済学は料理をすること、食べることを軽視し、大切な生産時間と考えてきませんでした。しかし、食べるという行為は栄養補給だけでなく、料理の味わいやコミュニケーションで人生に彩りや艶を与えてくれるかけがえのないものです。経済だけでは見えないことがたくさんあります。

 世界中に”現代奴隷“と呼ばれる人たちが約4000万人存在します。その多くが子どもを含む農園奴隷や性奴隷にされた人たちです。欧州などの貧困地帯から連れてこられることが多く、日本でも東南アジアなどから来た女性たちが風俗産業で強制的に働かされています。「性的人身奴隷 現代奴隷制というビジネスの内側」(シドハース・カーラ/著 明石書店)は現代の性的人身取引産業の実態を描いています。これらの問題も食と農と性を通じた男性中心主義的世界が深く関係しているということです。

 藤原さんは食と農を通じて世の中を変える取り組み事例を紹介。おばんざい食堂&お弁当屋「ばんざい東あわじ」(大阪市東淀川区)は、地域住民から寄付された食材をおばんざいにして1g1円で販売しています。誰もが格安で食事ができ、休み中の子どもたちはお手伝いをすると無料になり、15時からは宿題カフェとして開放するなど、食べものを通じた地域循環型社会を築いています。「仕立て屋のサーカス」は音楽家と服飾家、照明作家たちによる新感覚のステージパフォーマンスで、藤原さんも講師として出演。会場には音楽、光と影、布、そして食べものがあり、芸術と食べることが深く関わっていることを表現しています。

 食と農を通じて暮らしの面白さを伝える活動が広がり、食と農を根源から変えることがさまざまな問題を解決することにつながると藤原さんは伝えています。

Table Vol.468(2022年7月)より
一部修正・加筆

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