組合員の熱い要望で中島デコさん講演会がコープ自然派奈良で実現。マクロビオティック料理家で、サスティナブルなコミュニティを主宰する中島デコさんに「デコさん流自給自足生活」について聴きました。紙面では会場でのお話と質疑応答、さらに講演後のインタビューをまとめて紹介します。
中島デコ| NAKAJIMA Deko マクロビオティック料理家。5人の子を育てた経験に基づく料理指導やライフスタイルの提案が多くの人たちの支持を得ている。ブラウンズフィールドを立ち上げ、今ではみんなのお母さんであり、ご意見番的存在。著書に『中島デコのマクロビオティック玄米・根菜・豆料理』(PARCO出版)、長女との共著『小さな子のマクロビオティックおやつ』(PARCO出版)、『生きてるだけで、いいんじゃない』(近代映画社)などがある。
自然の流れでスタート
───デコさんが主宰される「ブラウンズフィールド」はサスティナブルなコミュニティとして知られていますが、どのような経緯でスタートしたのですか。
デコ よく聞かれるのですが、実は自然の成り行きなんです。私は東京生まれの東京育ち、16歳でマクロビオティックに出会ったものの料理は20歳過ぎから始めました。2回の結婚で子どもが5人生まれて東京で育てることに限界を感じていたとき、知り合いから古民家を紹介されました。訪ねてみると近くに海があり、敷地が広くて陽当たり抜群、しかも里山が美しい。子育てには最高!と思いましたね。そこが千葉県いすみ市だったのです。近くの茂原市には父のお墓があり、墓守りもできると、1999年、当時の夫と子ども5人、犬2匹とともに引っ越しました。
古民家を改装し、休耕田を借り、竹やぶを開墾して農園をつくるところからのスタートでした。母屋には丸いテーブルを置きました。私の中で丸いテーブルの原点はちゃぶ台です。丸いので角がなく、最大15人くらい詰め合って座れ、顔を見合って話が弾みます。
田んぼでは田植え、草取り、刈り取りなどすべて手作業。「種を蒔く生活をしたい」との思いから種は自家採種にこだわっています。当初、「WWOOF(ウーフ)」(農業体験と交流NGO)というシステムを利用して、世界中から多くの人を受け入れ農園を運営していました。現在は、オーガニックファームで働きたい若者約10名が共同生活しています。
つながりから広がる循環の輪
───その後、カフェや宿泊施設など次々と施設や活動が増えていったのですね。
デコ 見学に来られる人が多くなり、移住から9年後の2008年、農機具小屋を改装して「ライステラスカフェ」をオープン。毎朝、羽釜で炊く無農薬玄米ごはんと味噌汁をベースに季節野菜を使ったランチを提供しています。2012年に古民家を改装してオープンしたオーベルジュ的宿泊施設「慈慈の邸(じじのいえ)」は、日本食料理人の次女が料理長を務め、発酵をコンセプトに地元のオーガニック食材を使用した会席料理を提供しています。
また、築250年の茅葺屋根の古民家が不動産会社の手に渡り、新建材の家に建て替えられようとしていたのをクラウドファンディングを利用して約300人から750万円の支援を受けて再生、薪で沸かす五右衛門風呂など日本の暮らしを体験できる宿泊施設「サグラダコミンカ」として運営しています。古いものはちゃんと守らなくてはとの思いからです。
「蔵ギャラリーJiji」は「慈慈の邸」に併設している築100年の蔵を改装したレンタルギャラリーです。写真展や手仕事によるイベントなどアーティストの表現の場として使われています。半年前には「Acoustic Bread and Coffee」という薪だけで焼くパン屋もオープンしました。その他、コテージやツリーハウスもあります。
カフェや宿泊施設をつくるなんていうビジョンは全然なかったのですが、広い土地だったのでたくさんの人が出たり入ったりできる風通しの良い場所になったらいいなとは漠然と思っていました。あとは自然の流れでできてきた感じかな。
デコさん流自給自足生活とは
───ブラウンズフィールドでは、自給生活を目ざしているのですね。
デコ 米を中心につくっています。とても強い品種のイセヒカリを年間約2トン収穫し、1年間のみんなのごはんのほか、米麺に加工したり、カフェや宿泊施設でも使っています。麦は玄(くろ)うどんをつくり、ふすまはパンやお菓子に使います。大豆と麦でしょうゆ、米と大豆で味噌をつくり自給しています。野菜は自然栽培で趣味の範囲くらいしか収穫できていません。梅は梅酢や梅干し、柿は柿酢にして1年間分の酢をまかなっています。
───さらに、開かれたコミュニティとしてさまざまな取り組みが企画されています。
デコ 10年以上続いている「サスティナブルスクール」は月1回・2日ずつで計6回コース、手仕事や農作業などを学びます。今年からオンラインセミナーもスタートしました。「無肥料・無農薬栽培連続セミナー」は6年目になりました。7回コースで遠くからも参加されています。「ワークパーティー」は月1回、土曜日の日帰りで農作業を楽しむという企画です。「ブラウンズフィールド丸ごと体験」は毎月3泊4日または4泊5日で行っています。季節仕事も一緒にやってくれて本当に助かっています。「夏祭り」や「収穫祭」は近所の人たちも集まって盆踊りを楽しみます。何しろ私は盆踊り大好きなので歌い踊りまくります。子どもたちを対象にした「イングリッシュネイチャーキャンプ」や「ヨガリトリート」「ポットラックパーティー」も楽しんでいます。長女は「ポットラックパーティー」で結婚式を挙げ、たくさんの人たちに祝ってもらいましたよ。
───これからブラウンズフィールドはどんなことを目ざしているのでしょうか。
デコ シングルマザーや独居高齢者、自然出産したい人、引きこもりの人、外国人などいろいろな人たちが助け合える場づくりができたらいいなと思っています。助産院や老人ホームもつくって、ここで子どもを産み、農業やいろんな仕事をしてゆったり過ごす。そして、歳をとっても楽しいことをして、若い人たちに助けられながら最後まで暮らせるコミュニティのモデルケースをつくり、そんな風景が各地に広がっていくことを夢見ています。
子育てについてもひとこと
───子育て体験を経て「登校拒否」についてどんなふうに考えていますか。
デコ 「登校拒否」の子の方が素晴らしい感性を持っています。「登校拒否」バンザイ!ですね。今の学校は四角い箱の中に子どもたちをぎゅうぎゅう詰めにして勉強させるというイメージ。学校に行かなくなればそれを逆手にとって楽しめばいいのです。人と違うことを大切にする。でも、学校に行かないならうちの手伝いはしてもらわなければね。とにかく人と違うことを恐れないでほしい。同調圧力で自分の意見を持たない人が多いけど、大人が自分の意見を持たなければ子どもだって無理ですよね。ふつうでないことを恐れないでって言いたいです。
───デコさんが子育てで大切にしてきたことはどんなことでしょうか。
デコ 上から目線にならないこと。小さいときから人生をともに歩む仲間として労り合える関係性を大切にすること。これは反省を込めて言いたいです。自分の意見を押し付けないで子どもの意見をよく聞くことはとても大切ですね。
───給食についてはどのように考えていますか。
デコ いすみ市は学校給食のお米をすべてオーガニックにしたことで知られています。市長が積極的に推進したのですが、全国から注目されたのだから市長が交代しても後戻りはできません。野菜はまだ一部オーガニックという段階ですが、早く野菜も調味料もオーガニックになってほしいですね。給食がおいしくなると廃棄量がぐんと少なくなり、自宅でもよく食べるようになるなど家庭での食生活にも良い影響を与えているようです。
これからは各地の暮らしを良くするために自治体選挙で仲間を候補者として擁立したり、自身も立候補するようがんばってほしいですね。
持続可能な社会を目ざして
───デコさんがとりわけ楽しいと感じられるのはどんなときですか。
デコ いろんなことを無駄なく使えた瞬間です。たとえば、収穫した梅をすべて加工したときは充実感いっぱいです。また、着るものなどを自分でつくること、収穫したものをみんなでいただくときもハンパなく楽しい。そして、それを多くの人たちに発信し共有できるとさらに楽しくなります。
───デコさんが大切にしているのはどんなことですか。
デコ 一緒にごはんを食べることです。一緒においしいものを食べると仲良くなれるし、ごはんにも失礼にならない。ごはんと味噌汁だけでいいのです。良い食材・調味料を使った味噌汁はほんとにおいしいですよ。そう感じる仲間を増やすことが大切、まさに金脈より人脈です。
私にとって幸せに暮らす方法としてマクロビオティックがあります。幸せは一人ひとり違います。みんなが自分にとって幸せと感じられる方法を見つけたいですね。
───大量生産・大量消費のなかで自分さえよければという風潮です。持続可能な世の中にするにはどうしたらいいでしょうか。
デコ ブラウンズフィールドではなるべく環境に負荷をかけない暮らしを目ざしていますが、エネルギーの自給はまだまだです。お米はおくどさんで薪を使って炊きますが、調理にはプロパンガスも使っています。井戸から引いている水は台所、洗濯、お風呂、トイレで使います。4ヵ所に設置した雨水タンクは収穫してきた野菜の土を洗い流します。太陽の光で水を温めてお湯にしてくれる太陽光温水器を母屋の屋根に設置。コンポストトイレの排泄物はそのまま自然に流します。こんなふうに少しずつ変化させていますが、まだまだ不十分で特に電気については少しでも減らしたいと思っています。
大きな世界に目を向ければどうしてよいかわからず苦しくなりますが、一方で、ブラウンズフィールドに来る若い人たちは、ヴィーガンだったり、種子に関心を持っていたり、動物の環境に心を傷めるなどいろんなことに気づいています。私はそういう若い人たちに希望を感じます。
「悪いものを出さず、悪いものを取り入れない」ことを一人ひとりが心がけ、あきらめず進んでいくことが大切なのではないでしょうか。私がマクロビオティックを続けている理由は、「シンプル」「おいしい」「工夫が楽しい」「腑に落ちる」「お金がかからない」から。旬の新鮮な食材はエネルギーに満ち、本物の調味料を使えばシンプルな調理方法で驚くほどおいしくなり、限られた材料を工夫してさまざまな料理をつくることはとても楽しく幸せです。持続可能な暮らしを考えればマクロビオティックは効果的な手段のひとつだと言えるのではないでしょうか。(取材・文 高橋もと子)
Table Vol.494(2023年10月)