「2022年度北海道・国産有機小麦アンバサダー」ツアーでは、栽培技術と食品市場について3名の講師から話を聴き、生産者・メーカー・消費者によるトークセッションで議論を深めました。今回は、立教大学・大山利男さんによる学習会「有機食品市場の構造分析 有機農業と有機食品市場の均衡ある発展を考える」を紹介します。
みどり戦略と有機農業
2019年12月、EU(欧州委員会)は新しい成長戦略である「欧州グリーンディール」を公表。2050年までに温室効果ガス排出量のない近代的で資源効率が高く、競争力のある経済を備えた社会を目標に掲げました。さらに2020年5月、「Farm to Fork戦略」(F2F戦略)と「生物多様性戦略」を公表し、F2F戦略では2030年までに化学農薬の使用およびリスクを50%削減、1人当たり食品廃棄物を50%削減、肥料の使用を20%以上削減、家畜および繁殖に使用される抗菌剤の販売を50%削減、有機農地の占有率を25%以上に拡大するという目標を打ち出しました。同様に、日本の「みどりの食料システム戦略」でも、有機農業の取り組み面積を2050年までに100万ha、農地の25%にするという目標を掲げました。目標の実現に向けて、企業トップや経済団体、農業団体、消費者団体、行政などの関係者が一堂に会し、「持続可能な食料生産・消費のための官民円卓会議」を設置。産業界でもテーマの柱の1つに有機農業を据え、気候変動問題について議論しています。
欧州有機食品市場の状況
欧州諸国における有機食品の購入方法はスーパーマーケットなどの一般小売店からが多く、次いで有機専門小売店、マルシェなどの直接販売の順で取り扱い金額が高くなっています。有機農業の発展には生産者と消費者の直接的なつながりが大切だと世界的に認められていますが、有機農業・消費の多いオーストリア、デンマーク、スイスでは、とくに一般小売店での取り扱いが高額です。ただ、これらの国の小売店とは「生協」のことで、有機食品市場の拡大に生協が大きな役割を担ってきました。また近年、ドイツではディスカウントチェーン店「LiDL」がドイツ最大の有機農業生産者団体「Bioland」と業務提携を結んだことが注目を集めるなど、大規模店の参入が顕著です。欧州では手軽に有機食品を購入できる環境が広がっています。
2019年の欧州全体の有機農地シェアは8.5%、寒冷地のオーストリア、スウェーデン、エストニアでは酪農のための草地・放牧地が有機に比較的転換しやすいこともあり、20%以上を占めています。イタリア、フランス等の地中海諸国では有機野菜の割合が高くなります。
欧州の有機農地面積と有機食品市場の成長率を比較したところ、ともに成長しているものの、市場の成長ペースが農地面積の成長率よりも速く、その差が年々拡大しています(2000年〜2017年)。有機食品の国内供給が足りず輸入が増大していることが推測できます。
国内有機食品市場の現在
世界の有機食品市場は欧米諸国だけで90%を占めます。2018年、有機食品の1人当たり年間消費額は世界平均で1638円、最も高額なデンマークは3万9936円、続いてスウェーデン2万9568円、アメリカ1万5936円で、日本は1408円でした。
日本国内の有機JAS農産物の品目別数量を比較すると、全体の70〜80%を野菜が占めています。有機JAS認証の加工食品に使用される野菜は認証を取得する割合が高く、一方、消費者に直接販売できる生鮮野菜・米などは未認証のものが多いと考えられます。
2009年の日本の有機農地のシェアは0.4%(1万6300ha)、2018年は0.5%(2万3700ha)に増え、有機食品市場規模は2009年の1300億円から2017年の1850億円と8年間で約40%拡大しました。また、品目別の国内の有機食品市場規模は、加工食品合計が農産品合計に比べて市場規模、成長率ともに高くなっています。
フランス発のオーガニック・スーパーマーケット「ビオセボン」麻布十番店の店頭で学生によるアンケート調査を実施したところ、家庭で消費する食料のオーガニック食品の割合が「10%未満」という回答が多数でしたが、50%以上利用している人が全体の半数を占めていることもわかりました。限られた消費者とはいえ、一定数のヘビーユーザーの存在が確認できます。また、生鮮野菜、生鮮果物、調味料の順に有機食品利用の多いことがわかりました。
有機農産物の流通経路は種類や購入形態、消費スタイルが多様化しているため、集客媒体を複数用意し、経営スタイルに合った流通方法を確保しなければなりません。欧米諸国では公的機関や業界団体が有機食品市場のデータを収集し分析しています。日本でも有機食品市場の動向を把握して戦略的に有機農業の成長をすすめていくことが重要になっていると言えます。「有機農業の拡大を戦略的に行うには、米や麦、大豆など品目に応じ全体的に有機割合を高めることが必要です。有機農業は食べる人がいないと成り立ちません。生産者と消費者がともに発展することが大切です」と大山さんは話しました。
Vol.473(2022年10月)より
一部修正・加筆