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食と農と環境

第7回コープ自然派生産者&消費者討論会②基調講演「みどりの食料システム戦略の展望と問題点」

第7回生産者&消費者討論会の基調講演は、「みどりの食料システム戦略の展望と問題点」をテーマに、鈴木宣弘さん(東京大学大学院農学生命科学研究科教授)にお話を聴きました。

膨大な資料をもとに世界の状況や日本の食と農業の問題点などを話す鈴木宣弘さん。コープ自然派の生産者・消費者に対して大いに期待が寄せられました。

早期に飢餓に陥る可能性

 2015年5月、農水省「みどりの食料システム戦略」が発表されました。2050年までの目標として、農林水産業のゼロエミッション化、ネオニコチノイド系を含む化学農薬使用量の削減、有機農業面積の拡大、地産地消型エネルギーシステム構築に向けての規制見直しなどが掲げられています。

 鈴木さんはまず「みどりの食料システム戦略」の背景について話します。1年ほど前、NHKスペシャルで「日本は2050年に飢餓に陥り、食料争奪パニックが起きる」と報じられました。しかし、「日本の地域崩壊と飢餓の危機はもっと前に顕在化する可能性がある」と鈴木さん。例えば野菜は国産率80%ですが、種子の90%は外国産。卵は国産率96%ですが、えさのトウモロコシ国産率はほぼゼロ、えさ全体でも13%で実質的な国産率は12%程度です。米価はどんどん下落し、今年は手取り1俵あたり9000円~7000円で農家は危機に瀕しています。

 コロナショックで牛乳が余り、生乳を廃棄しなければならない事態に陥りました。畜産においては政府が増産を誘導してきた矢先に「牛乳を絞るな」とは2階にかけた梯子をはずすようなもの。また、コロナ困窮で20万トン以上の米の在庫が積み増されました。「今、必要なのは政府が農家から米や牛乳を買って食べられなくなった人たちに届ける人道支援だ」と鈴木さん。アメリカはコロナショックで農家の所得が減ったからと3.3兆円の直接給付予算を組み、3300億円かけて農家から食料を買い上げ困窮世帯に届けました。

食料自給率低下の要因

 日本は食料自給率がなぜ37%まで低下し止まらないのか。「食生活の変化によるものとも言われますが、本当はアメリカの要請で貿易自由化をすすめて輸入に頼り、日本の農業を弱体化させる政策を採ったから」と鈴木さん。江戸時代の日本は鎖国政策で資源の出入りがなく、再生可能な植物資源を最大限生かして循環型社会を築き上げました。「三里四方」「五里四方」などの言葉も使われ、一定の範囲内で栽培された野菜を食べていれば健康が保てることを意味しています。このような物質循環のしくみは幕末に入ってきた海外の人たちを驚愕させ、こんな素晴らしい国を侵略していいのかと言いながら不平等条約を突き付けました。

 第二次大戦敗戦直後の占領政策の2本柱は、アメリカ車を買わせることと日本の農業をアメリカの農業と競争不能にして余剰農産物を買わせることでした。アメリカで余っている大豆、トウモロコシ、小麦を日本で処理するために関税は撤廃されました。そして、「米を食うとバカになる」という情報操作された本が大ベストセラーになり、「子どもたちはアメリカのパンを食べてアメリカ人と対等に話ができるように頭のいい子にしてやらなければならない」とメディアでも宣伝されました。学校給食では朝鮮戦争で余ったコッペパンと脱脂粉乳が提供され、伝統食を急激に変化させた例のない民族が日本だと言われました。

日本は世界の動きと逆行

 アメリカ政府のバックにいる巨大グローバル種子・農薬企業への便宜供与が最近続いています。2010年以降、南米の多くの国で伝統的に行われてきた種子の保存や交換を不可能にし、企業から種子を買うよう強いる通称「モンサント法」に対して原住民や農民が猛反発。インドではモンサントの遺伝子組み換え綿の種子の特許を認めないという判決が出ました。

 世界で儲けることが苦しくなった巨大グローバル企業は日本を標的とし、日本ではグローバル企業への便宜供与として、①種子法廃止②開発した種子を企業へ譲渡③種子の自家採取を禁止④遺伝子組み換えでない表示の実質禁止(2023年4月1日より)⑤全農の株式会社化⑥残留農薬基準の大幅緩和⑦ゲノム編集の完全な野放し⑧農産物検査規制の改定などが行われています。

 2019年5月、アメリカ産牛肉についてBSE規制が撤廃されました。アメリカはBSE清浄国ということになっていますが、実態は検査率が非常に低いため感染牛が出てこないだけです。1970年代、ポストハーベスト禁止農薬が散布されたアメリカ産レモンを海洋投棄しましたが、怒ったアメリカに自動車の輸入を止めると脅され、「禁止農薬でも収穫後にかけると食品添加物に変わる」と散布を認めました。そして、2020年にはアメリカ産じゃがいもの殺菌剤散布も食品添加物に指定することで可能になりました。「アメリカからの要求を拒否するという選択肢は日本にはないようです。今年はどれに応えるかというように順番に要求に応じる外交です」と鈴木さんは話します。

 ラクトパミン(牛や豚の餌に混ぜる成長促進剤)も台湾で大反対運動が起き、EUも中国もロシアも国内使用および輸入が禁じられています。しかし、日本は国内使用は禁止しているものの輸入は素通り、アメリカで消費者が拒否したホルモン乳製品の輸入もザル状態です。

 農水省による輸入小麦の残留農薬調査(2017年)では、アメリカ産の97%、カナダ産の100%からグリホサートが検出されています。農民連分析センターの検査では、日本で市販されているほとんどの食パン(すべて輸入小麦使用)からグリホサートが検出されました。

 今、世界はEUの消費者が主導して減化学肥料、減農薬、有機農業、自然栽培へと急激な勢いで向かっています。中国はすぐに反応して、今やEU向け有機農産物の輸出1位、有機農産物生産は3位です。しかし、日本は輸入品だけでなく国内での農薬基準も緩くなり、完全に世界から取り残されています。

有機農業こそ最大の光

 このように立ち遅れた日本が起死回生として掲げたのが「みどりの食料システム戦略」で、2050年までに稲作を主体とした有機栽培面積を25%(100万ha)に拡大、化学農薬5割減、化学肥料3割削減という数値を示しています。「しかし、有機農業の中身が違うものになってしまわないかという懸念もあります」と鈴木さん。化学農薬でないからと遺伝子操作の一環であるRNA農薬が有機栽培に認められることになれば有機栽培の本質が失われます。ゲノム編集も無批判的に推進の方向で、ゲノム編集を有機栽培に認めるのではないかと懸念されます。さらに、イノベーション、AI、スマート技術などの用語が並び、高齢化・人手不足だからAIで解決するという方向性は企業的経営だけが残り、コミュニティは崩壊します。「有機農業にはすでに素晴らしい有機農法があり、これを強化できるような支援が必要です。有機農業は儲からないとも言われますが、人にも生きものにも環境にもやさしく生態系の力を最大限活用する農業はもっとも生産性が高くなることはすでに証明されています」と鈴木さんは話します。

 学校給食については無償化して有機米を1俵あたり2万円程度で引き取るようなしくみをつくるために自治体の支援が必要です。自治体だけでは足りない場合は「みどりの食料システム戦略」の予算を活用したいところですが、在来種や学校給食への補填は「みどりの食料システム戦略」には入っていないとのこと。そこで、鈴木さんは「ローカルフード保全法」を議員立法で成立させようと活動。地域で育てられた種苗で育てた農産物を学校給食や地域の食に活用していく食のシステムづくりです。小中学校の学校給食を全国で無償化しても5000億円程度、これを有機にすればもう少し高くなりますが、防衛予算も農業予算も文部科学予算も組み合わせれば食料安全保障の確立は可能です。「これからは有機農業が最大の光だという潮流が世界的にすすんでいます。このことを先進者としてすすめてきた生産者のみなさんと支えてきた消費者のみなさんがネットワークをさらに強化し、いのちと暮らしを守る核になっていただきたいと思います」と鈴木さんは結びました。

Table Vol.460(2022年3月)より
一部修正・加筆

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