「コウノトリもすめるまちづくり」を合言葉に循環型農業への取り組みをすすめてきた兵庫県豊岡市。劇作家・平田オリザさんと豊岡市長・中貝宗治さんの出会いによって、いま、豊岡市はアートが息づくまちとして世界的に注目を集めています。NPO自然派食育・きちんときほんは設立10周年を記念して、平田オリザさんと中貝市長の対談を企画、「小さな世界都市」・豊岡市がつくり出す物語について2人は熱く語りました。オンラインでは3回に分けてその模様をお伝えします。今回は3回目です。
「疎」の価値を高める
平田 8家族の劇団員が豊岡に移住しました。子育て世代が多く、早く移住してきてよかったと言っています。現在まで但馬は新型ウイルスコロナ感染者がいなくて受けるプレッシャーが違います。コロナ禍で東京一極集中の限界が露呈しました。しかし、これで変わるかというとなかなか変わらない。東日本大震災後にも指摘しましたが、2~3年で忘れられ、ここ5~6年は集中が加速しています。だから、この2~3年がチャンスではないでしょうか。コロナ対策に100兆円とか200兆円使ったということですが、10年に1回くらいは新ウイルスが出るだろうし、日本は災害が多い国です。10年に1回、100兆円使うのなら、東京の人口を300万人、阪神間の人口を50万人減らせば人口集中は大幅に緩和されます。1人10万円を10年に1回配るのなら、移住する人に300万円、4人家族なら1200万円、企業移転に数億円、大学移転に数十億円使う、それでも100兆円にならない。人口分散することに国策として予算をつぎ込んでも最終的にペイする時代になってきたのだと思います。
中貝 コロナ禍で「密」が価値を失い、「疎」の価値が回復してきました。ただ、平田さんが言われたようにおそらく数年でみんな忘れてしまいます。逆に言えば、それを忘れない町が生き残るのではないでしょうか。「疎」の価値を維持し、高めることの可能性がコロナ禍で見えた気がします。稼ぐ場として、アートにかける場として、自然と触れ合う場としての価値をどれだけ高められるか、その可能性を見せてくれた気がします。また、それぞれの考えや意見を持ち寄って結論をつくり上げていくという対話の大切さも痛感しました。豊岡市役所でも議論が活性化し、フラットに議論しています。これもまちづくりの基本ではないかと。対話の基本は共感、演劇は他者を理解するという態度を育むということを平田さんから教えていただき、演劇をまちづくりや教育の基本に据えたことは正解だったと改めて思います。
平田 日本人は会話は得意ですが、対話は苦手、同質の人たちとのおしゃべりは楽しめますが異なった価値観を持つ人への理解が難しいようです。コロナ禍で感じたのは、日本人はハウスはあってもホームはないのではないか、ホームのない人が一定数いたのではないかということです。ホームとは友人や家族、職場など人間関係すべてを含む帰るべき場所。日本では行政もマスコミも無邪気に「STAY HOME」「おうちに帰ろう」と盛んに言いましたが、本当の意味を理解して使っていたのかどうか。強制的に家に居させられた人の中でホームを持たなかった人たちがネット上で凶暴化してしまったのではないでしょうか。新学期だったので、子どもの孤立も加速し、そのケアをしないで「STAY HOME」と間違った使い方をしていました。
まちづくりの基本は対話
平田 もう1つ、コロナ禍は弱者のいない災害です。東日本大震災では東北の人たちが大変だと募金に奔走しボランティアにかけつけましたが、今回は感染した人が悪いということになります。
中貝 3月にいきなり首相が休校宣言を出しましたが、豊岡では閉校中の子どもたちに何が起きたかつぶさに調べて学校を開けました。そのとき、なぜ開けるのか理由を挙げました。SNSにも投稿するとシェアが200件くらいつき、理由を明確にしたことが評価されたことに希望を持ちました。
平田 本来、市民一人ひとりと対話するべきですね。対話の基本は「I think」 あるいは「my philosophy」です。
中貝 コロナ禍で対話の大切さを知りました。それを獲得するのに演劇とのつながりは良かったと思います。みんなで意見を持ち寄り、協力して結論をつくり上げていくのが民主主義、豊岡のまちづくりも民主主義が基本です。
※ この対談は神戸市内の会場で行う予定でしたが、新型コロナウイルス感染予防のため豊岡市役所にて行いました。
Table Vol.422(2020年8月)