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くらしと社会

【前編】平田オリザさんに学ぶ!ホントのコミュニケーションとは?

劇作家・演出家として世界的に活躍する平田オリザさん。東京の「こまばアゴラ劇場」を拠点に活動してきましたが、自ら主宰する劇団「青年団」とともに2019年に兵庫県豊岡市に移住。現在、芸術文化観光専門大学の初代学長を務めています。

さまざまな局面でコミュニケーションの在り方が問われます。コミュニケーションとは?また、どんなコミュニケーションが求められるのでしょうか。
2022年2月11日(金・祝)、コープ自然派おおさか(ビジョンいろいろ主催)は劇作家・演出家の平田オリザさんから「ホントのコミュニケーション」について学びました。本記事は前編・後編に分けて掲載します。

列車の中で話しかける

 平田オリザさんは演劇活動以外に、国内各地および世界各国でワークショップや演劇講座を行っています。2009年には大阪大学コミュニケーションデザイン・センター設立に携わりました。

 平田さんがこれまで多く使ってきたワークショップの教材の1つに「列車の中で他人に声をかける」というスキット(寸劇)があります。列車の中、4人がけのボックス席でAとBという知り合い2人が座っていました。そこにCがやってきて「ここよろしいですか」と座ります。そのときAが「旅行ですか」と声をかけ世間話が始まるというスキットです。 

 最初、高校生を対象に実施したところうまく発話できません。どうして難しいのか聞くと「初めて会った人と話したことがない」との答えが返ってきました。その後、社会人を対象に行いましたが、他人に話しかけることが苦手な人が多いことがわかりました。そこで、平田さんはワークショップ参加者には必ず「列車や飛行機で他人と乗り合わせた時、自分から声をかけますか?かけませんか?場合によりますか?」という質問を投げかけています。

 当日の参加者の回答は「話しかける」数名、「話しかけない」と「場合による」がそれぞれ半数程度で、日本国内では「話しかける」は1割程度だということです。続けて「場合による」と答えた人にどんな場合に話しかけるかを聞くと、「話しやすい人」が大半で、「話しかける人」でも相手が怖そうだと話しかけないし、「話しかけない人」でも赤ちゃん連れだと言葉をかけることがあります。つまり、話しかけるかどうかは「相手による」が主要な要因になります。オーストラリアやアメリカでは「話しかける」が5割を超えたそうです。

国や民族により異なる

 アメリカのホテルのエレベーターでは他人と乗り合わせると、必ず声をかけられます。日本人同士だと無言のままです。では、エレベーターで見知らぬ人と挨拶するアメリカ人はコミュニケーション能力が高く、日本人は低くてダメな民族なのでしょうか。「アメリカのような多民族国家では相手に敵意をもってないことを早い段階で声や形に表さないとストレスがたまる社会です。一方、日本人はシマ国・村社会で比較的のんびり暮らしてきました。優劣ではなくそれぞれの国や民族にはそれぞれのコミュニケーションがあるのです」。

 しかし、日本もそうは言っていられない社会になってきました。否応なく若者たちは国際社会に出なければなりません。「そんな時、自分たちは少数派であるという自覚をもちつつ、多数派のコミュニケーションをマナーとして学べばいい」と平田さんは学生たちに伝えています。日本社会は同じような価値観の人が集まってコミュニケーションを育てる文化を育み、ヨーロッパは異なる価値観や宗教を持った人たちが背中合わせに暮らし、自分は何を愛し、何を憎み、どんな能力で社会貢献できるかなどを言葉にしなければならない社会です。「これからの子どもたちに必要なのは自国の文化をきちんと理解し、それを他国の文脈で説明する能力を持つこと」だと平田さんは話します。

「対話」を楽しむ体験を

 日本語では「会話」と「対話」の区別が極めて曖昧です。「会話」は価値観や生活習慣なども近しい人同士のおしゃべり、「対話」はあまり親しくない人同士の価値観や情報の交換、あるいは親しい人同士でも価値観のすり合わせを行うことだと平田さんは定義します。「対話」は2つの論理がすり合わされて新しい概念を生み出します。そういう「対話」の体験を子どもたちに味わわせてあげたいと平田さんは考えています。

 私たちが今話している言葉の多くは先人によってつくられた言葉ですが、英語やフランス語が150年から200年かけて行った言語の近代化を30年程でほぼ完成しました。その性急な過程で積み残してきたのが「対話」の言葉ではなかったか、と。「対話」の言葉がつくられてこなかったために欠落している言葉として、日本語には対等な関係でほめる言葉が極端に少なく、「ナイス・ショット」「ナイス・ピッチ」など外来語に頼らざるを得ません。「しかし、現代の日本語にも汎用性の高いほめ言葉があります。『かわいい』という言葉は対等な関係におけるほめ言葉の欠落を一手に引き受けていると言ってもいいでしょう」。

 また、女性の上司が男性の部下に使う定まった言葉が今もありません。女性の社会進出は進んできましたが、言葉はまだ追いつかず、「これコピーとっとけよ」と男性の上司が部下に言ったらハラスメントにならなくても女性の上司が男性の部下に言ったら、相当きつい女性だと思われます。一番良いのは全員が「これコピーとってください」と丁寧な言葉を話すようにすることです。(後編に続く)

Table Vol.461(2022年4月)より
一部修正

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