2月10日(金)〜11日(土)、コープ自然派各生協の常任理事による研修会を開催。生活クラブ生活協同組合・神奈川(以下、生活クラブ神奈川)から誕生したワーカーズ・コレクティブの現場を見学し、働く人の協同組合について学びました。
協同労働という働き方
昨年10月1日、「労働者協同組合(ワーカーズ)法」が施行され、出資・経営・労働を自ら担う「協同労働」という新しい働き方ができるようになりました。「労働者協同組合法」制定に向け、「ワーカーズ・コレクティブ ネットワークジャパン(WNJ)」と「日本労働者協同組合(ワーカーズコープ)連合会」の2つの組織が長年取り組んできた成果です。
労働者協同組合では、組合員の議決権は出資額にかかわらず平等、組合員の責任は出資額を限度とし、出資配当はなく、剰余金配当は組合員が組合の事業に従事した程度に応じて行われます。組合員が出資し、組合員の意見を反映した事業を行い、組合員自らが事業に従事することを基本原理とする組織です。発起人は3人以上、設立要件が満たしやすく、業種に制限はありません(労働者派遣事業を除く)。組合員との間で労働契約を締結するため、労働条件が整えば社会保険に加入できます。
地域に貢献する働き方
「ワーカーズ・コレクティブ」は19世紀フランスで発生した思想・運動で、欧米全体へと広がり発達しました。アメリカ研修に行った生活クラブの職員が、ワーカーズ・コレクティブの働き方を見つけ持ち帰ったことをきっかけに、生活クラブで発展します。1982年、生活クラブ神奈川の委託事業「ワーカーズ・コレクティブにんじん(人人)」が誕生、生活クラブの生協運動を基盤に事業展開していきました。
生協は組合員主権の自主運営・自主管理による参加型組織であり、組合員活動は商品を共同購入することで社会を変える消費者運動です。社会にあるさまざまな疑問(環境、食の安全、平和、福祉、文化)を解決するため、主体的な組合員参加のあり方を”労働として発展“させ、組合員が納得するサービスやモノをつくり出す手法として「ワーカーズ・コレクティブ」が誕生しました。
ワーカーズ・コレクティブは働く人の協同組合であり、「1人1票の平等な権利と責任」を原則とし、自分たちの知恵・労力・時間といった個人資源を出し合い、自主運営・自主管理を行います。そして、地域に暮らす人が生活者の視点で必要な「モノ」や「サービス」を生み出し、それらを利用する当事者として価格を設定します。
また、メンバーで「共育(互いに教え合う)」の関係を持ち、対等な関係の中で話し合いによる合意形成を図ります。各組織で設立趣意書をつくり、理念を明文化・確認することで設立時のみんなの思いを大切にしています。
労働者協同組合法の制定化
労働者協同組合に法人格を与える法律がなかったため、ワーカーズ・コレクティブの多くは人格なき社団やNPO法人、企業組合として活動していました。1995年、協同組合原則(国際協同組合同盟ICAが1937年にまとめたもの)を基盤に「ワーカーズ・コレクティブの価値と原則」を定め、ワーカーズ・コレクティブの全国組織「ワーカーズ・コレクティブネットワークジャパン(WNJ)」を設立。全国のワーカーズ・コレクティブが連携し運動を展開することで労働者協同組合法の制定化を目ざします。「神奈川ワーカーズ・コレクティブ連合会」は労働者協同組合法の制定に長年関わってきました。
ワーカーズ・コレクティブは生活クラブの委託業務として始まり、地域の課題をすくい上げながら、さまざまな事業を興してきました。現在、全国に322団体、組合員数8000人、年間事業高129億円に成長。その中でも「神奈川ワーカーズ・コレクティブ連合会」は123団体(2021年)が所属し活発に活動しています。
自主運営自主管理方針
生活クラブ神奈川は組合員数8万4863人・供給高236億円(2022年3月末)の生活クラブ事業連合生活協同組合連合会に加盟する購買生協です。生活クラブ神奈川では、「自分で考え自分で行動する」という理念のもと、「組合員」「ワーカーズ・コレクティブ」「職員」でつくる生協として、生協の労働の一部を組合員が行う業務のワーカーズをつくっています。生活クラブ神奈川が業務委託するワーカーズ・コレクティブのメンバー数は約1000人、運営委員や役員などの組合員リーダーが約100人と多数の組合員が生協運営に関わっています(職員数は225人)。生活クラブ神奈川と神奈川ワーカーズ・コレクティブ連合会、NPO法人ワーカーズ・コレクティブ協会は、ワーカーズ・コレクティブを中心とする地域社会をつくることを宣言し、地域に増やしていくことを方針としています。
組合員と共に運営する店
生活クラブの店舗「デポー」は東京、神奈川、千葉、埼玉で展開され、生産者との交流会やイベント企画などを組合員が行う参加型スーパーマーケットです。
1980年、生活クラブ神奈川の第3次5ヵ年計画「地域協同組合社会づくり」の中で、店舗の発注やフロア管理など専門的業務を担い、組合員をサポートする仲間としてワーカーズ・コレクティブが誕生しました。1982年、横浜市青葉区の第1号店「すすき野デポー」スタートとともに、運営組織「ワーカーズ・コレクティブにんじん(人人)」が日本初のワーカーズ・コレクティブとして誕生。その後、店舗の業務全般を担う「ワーカーズ・コレクティブ デポット」に組織統合され、現在は22店舗で店舗業務から組合員活動のサポート、仲間づくり(加入、脱退)、共済業務などを行っています。メンバー数370名(2022年1月)、うち101名が社会保険に加入、店舗「デポー」を利用する組合員数は2万8960人(2023年1月)です。
「ワーカーズ・コレクティブでは自分の考えやこだわりを表現しながら働けます。店舗運営に必要な労働時間と最低賃金を確保しながら経営を続けるのは大変ですが、今後は女性が自立できる賃金を課題に、今年6月の労働者協同組合の法人格取得を目ざしています」と「ワーカーズ・コレクティブ デポット」理事長・久保房子さんは話しました。
みんなが笑顔になるパン
生活クラブ神奈川の店舗を中心にパン・焼き菓子を製造・販売する「ワーカーズ・コレクティブ香粉(ここ)」は、2018年4月に事業を開始しました。生活クラブ神奈川の13店舗、保育園向けにアレルギー対応(乳卵不使用)パン、機能回復ジム向けにグルテン・カゼインフリー焼き菓子の製造販売を行っています。
店舗「市が尾デポー」にパン工房を併設し、機材の購入資金は生活クラブ神奈川から借り入れ(現在、返済中)、それ以外の設備はメンバーから一時預り金という形で資金を出し合いました。2019年度から事業高1000万円を超え、2021年度は130万円の黒字を計上、時給は2018年度の503円から2021年度は903円にアップしています。機器類の故障などトラブルに備え、出資金は1人20万円と高額ですが、代表・会計・開発担当を中心に業務計画を立てメンバー全員が担当につくことで経営責任をもつ仕組みづくりを行っています。
ワーカーズ・コレクティブづくりのポイントは”軸となる人の発掘“だと「ワーカーズ・コレクティブ香粉」代表・安永寿子さんは言います。「香粉」立ち上げの際、安永さんは組合員活動を通して人材を探し、理解を得るため3ヵ月で30回以上の説明会も開きました。今後は、生活クラブ関連以外への販路拡大を進め、地域に必要とされるパン工房、風通しのいい組織づくりを目ざすということです。
食を通して社会に貢献
「企業組合ワーカーズ・コレクティブ ミズ・キャロット」は仕出し・配達弁当などを製造・販売する店舗を神奈川県下に4軒構えています。1983年に運営組織「ワーカーズ・コレクティブにんじん」の仕出し部門として営業を始め、店舗数の増加から1995年に企業組合として独立しました。
現在、メンバー数41名(2022年9月末)、「香粉」同様、食に関する事業は厨房設備費が高額なため出資金は1人25万円。設立当初は生活クラブ神奈川から資金提供が受けられましたが、10年周期で設備の交換などが必要になるため、新しくメンバーを迎える際は出資金の重要性について丁寧に説明しているということです。
仕出し弁当事業が事業高の半分を占め、配食サービスは需要が伸びています。しかし、新型コロナウイルスの影響から仕出し弁当事業の売上げが落ち、使い捨て容器の急増で消耗品費が増加、さらに原材料の値上げが続いています。以前はメンバーの分配金(労働対価)を抑えて赤字決算を避けてきましたが、時代の変化とともに見直しが必要となり、先を見通した価格設定が大切だということです。
「3年前から横浜市の就労準備支援事業の取り組みを始め、一人ひとりが大切にされる仕事が誰もが働きやすい場所なのだと、実感しました」と「ワーカーズ・コレクティブ ミズ・キャロット」専務理事・田中妙子さんは話します。
一人ひとりに最適な福祉を
2002年、「NPO法人ワーカーズ・コレクティブ メロディー」は「生活リハビリクラブ」(生活クラブ神奈川の委託事業として1987年に川崎市麻生区で誕生)を運営していたワーカーズ・コレクティブから引き継ぐ形で設立しました。在宅介護を支える基盤として「通所介護」「訪問介護」「居宅介護支援」、そして「小規模多機能型居宅介護支援」「障害者総合支援」を展開。また、広報誌の発行や「川崎市産前・産後家庭支援ヘルパー派遣事業」(川崎市の委託事業)、「多世代の居場所ココ」(2019年4月開設)を独自事業として運営しています。独自事業の利益は少ないですが、委託事業「生活リハビリクラブ」(事業規模約1億円)で補い、運動と事業の両輪を実現しています。
「組合員活動をするなかで、商品から社会の構造や問題点が見えること、一人ひとりが市民として自覚し自治することの大切さを学び、多くの人たちに共感を広げたいと、メロディーを立ち上げました。民間企業では効率と経営が優先され、小規模事業所の倒産が相次ぎ淘汰が加速しています。誰ひとり取り残されることがないよう、市民事業で行う福祉活動を衰退させてはいけません。みなさんがリーダーシップを発揮し、新たなワーカーズ・コレクティブで地域のセーフティネットをつくってください」と「ワーカーズ・コレクティブ メロディー」前理事長・木村満里子さんは話しました。
子育て支援と働く文化
2002年、生活クラブ神奈川の委託事業として「保育室すきっぷ」が開園し、「NPO法人ワーカーズ・コレクティブ キャンディ」がその運営を担ってきました。2015年、川崎市認可保育所「すきっぷ保育園」に改変し、2018年には企業主導型保育事業「すきっぷソラ保育園」と「すきっぷソラ保育園ANNEX」を開園。企業主導型保育事業とは企業が従業員と地域の人たち向けに行う保育で、両保育園ではワーカーズ・コレクティブのメンバーがいつでも働けるよう2人分の席を空けています。また、学童クラブ「どれみキッズ」の運営、居場所・広場事業、まちづくり事業も実施。川崎市では学童保育の補助金を交付していないため、民間の学童保育に比べて低価格(月会費3万5000円を上限)の学童クラブ「どれみキッズ」は約50名が登録する黒字事業になっています。メンバー45名、アルバイト23名、2021年度の事業実績は2億8119万円です。
「資格・経験の有無、運営の考え方、介護・子育て、健康状態は一人ひとり違い、それらを認め合い受け入れる、働く文化を自分たちでつくることができるのがワーカーズ・コレクティブです。『キャンディ』ではメンバーが複数の園を移動し、さまざまなポジションに就くことでキャリアアップできる仕組みをつくっています」と「ワーカーズ・コレクティブ キャンディ」理事長・上田祐子さんは話しました。
Table Vol.488(2023年5月)より
一部修正