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くらしと社会

多様な人権を認め合える社会へ

木村アンリさんは、FM高松「フレッシュダイアリー」(毎週 金曜日)、西日本放送「波乗りラジオ」(第4土曜日)などでパ ーソナリティを務めています。ライター、講演活動、人生相談 でも活躍。コープ自然派しこく組合員。

2019年6月6日(木)、コープ自然派しこく・オリーブセンターでは、トランスジェンダーである木村アンリさんを講師にLGBTについて学習会を開催、多様な性のあり方から多様な人権を認め合える社会への理解を深めました。

LGBTとSOGI

 LGBTとは、性的少数者の総称で、L(レズビアン)、G(ゲイ)、B(バイセクシュアル)、T(トランスジェンダー)の頭文字をとっています。レズビアンとは女性同性愛者、ゲイとは男性同性愛者、バイセクシュアルとは両性愛者、トランスジェンダーは性同一障害などと言われていましたが、性別越境とアンリさんは説明します。他にQ(クエスチョニング・性自認できない・性的指向もわからない)、X(エックスジェンダー・男女の枠に属さない)、DSDs(ディエスディーズ・性分化疾患)などの分類もあり、これらをすべて性的少数者と言います。

 2018年の統計ではLGBTは全人口の8.9%で11人に1人の割合(電通ダイバーシティ・ラボ調べ)、厚生労働省は2〜6%だと推定しています。そして、「基本的に私たちが目ざすのは性自認と性的指向性による差別の禁止です」とアンリさん。最近では性的指向(Sexual Orientation)と性自認(Gender Identity)の両方を略してSOGI(ソギ・ソジ)と呼び、「SOGIハラスメント」などと使うこともあります。

世界に遅れる日本の動き 

 2006年、世界の有識者たちが集まり、性自認と性的指向性による差別を禁止した「ジョグジャカルタの原則」が定められました。2014年にはオリンピック憲章改正で性的指向性による差別の禁止が明確に謳われています。リオ五輪では50人以上のLGBT選手が参加しLGBTへの注目が集まりました。2020年の東京五輪ではジェンダー平等の達成と女性の能力開発を大きく謳っています。

 2000年のオランダを皮切りに2019年5月現在、26ヵ国で同性婚を認めています。G7(フランス、アメリカ、イギリス、ドイツ、イタリア、カナダ、日本)で同性婚を認めていないのは日本だけ。そこで、2019年2月14日、同性婚を認めないのは憲法が保障する「婚姻の自由」や「法の下の平等」に反するとして、全国の同性カップル13組が国を相手に一斉提訴しました。同性婚が法的に認められていないと税制上の優遇措置(相続税・贈与税・配偶者控除など)が受けられず、遺産相続権もありません。福利厚生面でも社宅や公営住宅に入居できず、忌引きなど家族関係の休暇もとれません。ようやく日本でも婚姻関係に相当するものとして、「同性パートナーシップ制度」を導入する自治体が表れてきました。2019年6月現在、21自治体が「同性パートナーシップ制度」を導入しています。

LGBT当事者の現状

 「LGBT当事者は11人に1人の割合なのに少なく感じられるのは、カミングアウトしにくい現状だから」とアンリさん。カミングアウトできない理由として、差別される、偏見に晒される、人間関係が崩れる、自分を否定される、などが挙げられます。10歳の時に性別違和感を抱き、18歳の時に心は女性だと気づいたというアンリさん。現在はラジオパーソナリティやディレクター、ライターとして活躍していますが、15年前の同窓会でカミングアウトしたときには高校時代の親友から「二度とうちの敷居をまたぐな」と言われました。また、かつて属していた地元の消防団の男性たちは遠ざかっていきました。しかし、近所の女性たちからは受け入れられ、とてもうれしかったということです。

 また、男性の好みについてよく聞かれるそうですが、トランスジェンダーの性指向はさまざまで男性から女性になっても女性と結婚し子どもがいる人もいます。女性から男性になっても好きなのは男性という人もいて、トランスジェンダーでレズビアンだったり、ゲイだったり多様だということです。

 また、LGBT当事者は自分の将来像が見えない、無理に異性を好きになろうとする、自己肯定感が低い、周囲の無神経な発言に傷つくなどの悩みをもち、7割がいじめや暴力を受けた体験を持ち、不登校や自殺・自傷未遂に及ぶことも少なくありません。学校では男女別カリキュラムや制服、トイレ、更衣室、宿泊学習などで多くの生徒たちが苦悩している現状が2014年の文科省の調査からもわかります。LGBT当事者が困っているのは、校則や就学中のいじめ、家族の無理解、就職、就業規則、結婚、入院・介護時の面会と説明、男女二元論の呪縛などをアンリさんは挙げます。

 一方、LGBT当事者が職場にいることで多様性について考え、他のマイノリティに配慮する環境をつくるきっかけになります。また、企業の懐の深さや関連企業のLGBTについての意識がわかるという利点もあります。

誰も差別されない社会へ

 アンリさんはLGBT当事者が暮らしやすい地域・職場をつくるために、既婚・未婚にこだわらない、性別にかかわりなく仕事をする、色分け、制服、トイレ、更衣室、就労規則を見直す、名前の呼び方を話し合うなどを提言。そして、相談できる体制づくりが大切で、相談を受けたときは話を聞く、否定しない、決めつけない、課題を一緒に整理する、他者に相談(共有)してもいいかを確認することを心がけるべきだと言います。

 さらに個人でできることとして、LGBTのイベントに参加する、LGBTが登場する映画やドラマなどを観る、男女の区別を問い直す、「普通」や「常識」を疑ってみる、差別的なジョークを放置しないなどを挙げました。職場や学校、地域でできる対策としては、廊下や掲示板などにLGBT関連のポスターを掲示したり図書室や保健室にLGBT関係書籍をさりげなく置く、朝礼でLGBTの話題を取り上げてみるなどか挙げられます。組織としても、研修会開催、職員同士で意見交換、当事者探しをしないなどが大事だそうです。「なかでもメディアが変わること、企業の管理職の意識改革が大切です」とアンリさん。そして、憲法14条1項「すべての国民は、法の下に平等であって、人権、信条、性別、社会的身分、又は門地により、政治的、経済的関係において、差別されない」を読み上げ、「すべての人たちの人権を認め合える社会をつくるのが私たちの目的、ともにそんな社会をつくりましょう」とアンリさんは結びました。

Table Vol.395(2019年7月)

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