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くらしと社会

生き合う力を育む教育を求めて

2021年5月17日、大阪市淀川区木川南小学校・久保敬校長(当時)は、市の教育行政への「提言」を松井市長宛てに送りました。大阪市教育委員会はこの提言に向き合うことなく、久保さんを文書訓告としました。コープ自然派おおさか・ピースレラチームは提言に共感し、3月4日(土)、久保敬さんを招き学習会を開催しました。

久保敬さんは、「文書訓告」に対して大阪弁護士会に人権救済の申し立てを行い、現在闘争中ですが、海外の人から共感と激励メッセージをもらったことに勇気づけられたということです。

自分への憤りを込めて

 新型コロナウイルス感染拡大を受け3回目の緊急事態宣言が発出される際、松井・大阪市長は大阪市内の全小中学校でオンライン授業を行うことを記者会見で発表しました。突然の発表をマスコミ報道で初めて知った学校現場は大混乱。当時、校長だった久保さんは学校現場の苦しみを「提言」というかたちで訴えました。

 久保さんは大阪市立小学校に37年間勤めて昨年3月定年退職、現在は、近畿大学非常勤講師とNPO法人SVP(スクール・ボイス・プロジェクト)理事を務めています。

 当日、久保さんは「大阪市教育行政への提言 豊かな学校文化を取り戻し、学び合う学校にするために」を朗読。この提言は教育への政治的介入を許し、教育の独立性が失われてきたことをやり過ごしてきた自分へ憤りだったと久保さんは話します。すべての子どもたちがともに学び・育ち、誰一人切り捨てないことを大切にしてきた教育や学校の文化が競争主義によってどんどんすり減っていくことに疑問を感じつつ、思考停止していたと久保さん。それは自分が教えた子どもたちを戦場に送った教師たちと同じではないかと振り返ります。

強者がつくる大阪の流れ

 この10年、政治が大阪の教育にもたらしたものはビジネスモデルの導入でした。数値化されないものはどんどん意味のないものにされていきました。「子どもたちとともにつくってきた学校生活は数値に現れないものがたくさんあり、それが意味のないものにされていくのは悲しいことだと思っていました」と久保さん。巧妙な言い換えや問題のすり替えもいろいろありました。例えば、「政治的介入」は「民意」、「教育の自由」は「選択の自由」というように。点数によって序列化することは「切磋琢磨」とも言われました。学区制が廃止され「選択の自由」が強調されましたが、3年間定員割れの高校は廃校になりました。「まさに想像力の欠如です。選べないくらい格差が広がっているのです。さらに、コロナ禍で経済格差が広がり、選びたくても選べない人がたくさん出てきています。勝ち抜いた者だけが頑張った人間となることが今の大阪の流れになっています」と久保さんは話します。

管理と分断による支配へ

 2006年、「教育基本法」が改悪されました。子ども一人ひとりの成長に直接かかわることこそが教師の仕事であり学校の責任であるという考え方から、数値目標を達成することが教師の仕事であり学校の責任だと変わりました。これに対して、教職員組合は反発しましたが、いつのまにか浸透していきました。そして、「教育振興基本計画」に掲げられた数値目標を達成することが学校の仕事になり、学校は教育行政の「末端機関」のような構造になっていきました。

 加えて、大阪市では2012年に「大阪市職員基本条例」「大阪市活性化条例」「大阪市教育行政基本条例」を制定。「それまでの行政はまがりなりにも大阪の子どもたちをこんなふうに育てたいという夢が語られていましたが、これらの条例ではまったく見えなくなりました。教職員組合に対する徹底的な弾圧も行われ、管理と分断による支配が進行しました」と久保さん。その結果、学校は教師が自己選択、・自己決定できない組織になり、トップダウンで大量の業務が課せられ、学校現場の裁量権が奪われていきました。

一緒に楽しむ環境をつくる

 「しかし、子どもの本質は変わらない。変わったのは子どもを取り巻く環境。これを少しでも良いように変えるのは大人の責任だし、やらなければならない」と久保さん。これは学校だけでできることではなく、大量生産・大量消費の資本主義経済、「今だけ・金だけ、自分だけ」という新自由主義的な価値観を変えなければなりません。

 「自分自身、点数という物差しは早くから捨てられた気がしますが、走るのが速いだとか、絵が上手だとか、どこかで評価できることにこだわっている自分がいたと思います」と久保さん。そして、何かができるかできないかではなく、ここにいることが大きな価値だということを子どもたちにメッセージとして伝えることが大切だと話します。

 子どもを信じて、子どもたちが変わろうとする力も伸びようとする力も一緒に楽しむ、何かを教えるのではなく、一緒に楽しむという環境をどうつくっていくかが学校の仕事ではないかと久保さんは考えています。

個別支援計画による分断

 「習熟度別学習」とは個の能力に応じた効果的な学習として、今では当たり前の学習方法とされています。しかし、導入されたときは教師も子どもたちも抵抗しました。「のびのびコースとかいうけど、本当は勉強が苦手なやつだけ入れようとしているんやろ」と久保さんは子どもに言われたことがありました。本当はいろんな子がいることでダイナミックな展開になることもあり、学ぶ過程自体がとても大切なのに…。

 「不登校支援」に対してもさまざまなメニューが用意されるようになりましたが、一方で、今の学校自体が子どもたちにとって居心地の悪いところになっていることを問い直すことが必要です。「特別支援教育」もインクルーシブ教育と言いつつ支援が必要な子とそうでない子に二分していると久保さんは話します。

デジタル教育について

 コロナ禍で急速化するGIGAスクール構想については、竹中平蔵・パソナ前会長の言葉を引用。「究極的には通常の知識を教える教師は各教科で全国に1人いればいい。それをオンラインで観ることで、教育の平等が実現する」。

 ICT機器の導入において、「このアプリを週に何時間使えという感じで入ってきて、どこかの会社で提供されたアプリに税金が使われるという構造です。それも問題だし、拙速な教育のデジタル化は、なぜ、どうして?と問う力=考える力を奪ってしまいます」と。また、「個別最適化」は能力主義がさらに強化され、AIが能力を評価するなど常に評価にさらされる危険性もあります。

おとなも子どもも楽しく

 「学校にはもっと隙間の時間と空間が必要です。やってもやらなくてもいい、役に立たなくてもいい、できなくても大丈夫、ゆっくり待つことができる、仲間がいるから安心して楽しめるというように。また、おとなが楽しくなければ、子どもが楽しいわけがない。おとなが自由でなければ、子どもも自由にはなれない」と久保さんは話します。

 「なぞなぞ」が大好きな久保さんは参加者に出題。「座るだけでウキウキワクワク、幸せな気持ちになるイスはどんなイス?」。久保さんが用意した答えは「パラダイス」ですが、子どもたちに出題した時、「幸せって人それぞれだと思う」と。そして、「オムライスを食べてるとき幸せやねん」「カレーライス大好き」「ぼくはシューアイス」というようにたくさんの答えが出たということです。

 ずっと変わらない1年生の朝顔栽培、淀川での干潟体験、パラダイスの描き替え、6年生たちとの土曜スペシャル授業などでのエピソードを満面の笑顔で話す久保さん。「子どもも教職員もみんなの笑顔があふれる学校に」「多様で、寛容で、安心・自信・自由が保障される学校に」。そして、「クリティカル(批判的)に考える」「当たり前を疑う」「何か変、おかしい、いやだ!と感じたら素直に声に出す。それは当然の権利なのだから」と、久保さんは自戒をこめて話し、「生き抜く」ではなく、「生き合う」社会にしようと結びました。

この学習会を企画した、ピースレラチーム・門さんは参加者に問いかけます。

Vol.485(2023年4月)より
一部修正

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