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くらしと社会

今こそ求められる協同組合の理念

2019年9月4日(水)、神戸賀川記念館にて2019年度・新任理事研修を開催(コープ自然派事業連合主催)。第1部は「賀川豊彦の生涯と生活協同組合の誕生」、第2部は「コープ自然派のあゆみと組合員活動」と題して講演が行われました。

大川智恵子さんはさまざまなエピソードを交えながらコープ自然派のあゆみと協同組合の存在意義について話します。

「生協の父」・賀川豊彦

「助け合いの社会」実現を目ざした賀川豊彦の生涯について話す志方京三さん。

 神戸賀川記念館は社会活動家・賀川豊彦の活動を紹介するミュージアム。平和と友愛を説き、「協同組合」の礎を築いた賀川豊彦について、語り部2期生の志方京三さんが講演しました。賀川豊彦は1888年、神戸市兵庫区に生まれ、幼少期に両親と死別して姉とともに徳島の本家に引き取られます。しかし、15歳の時に賀川家は破産し叔父の家へ。旧制徳島中学に通っていたとき洗礼を受け、明治学院高等部神学予科を経て新設の神戸神学校で学びます。1909年21歳の時、神戸市のスラム街に住み込み救貧事業に着手しました。1918年、労働者開放のために工場管理、団体交渉権、団結権などを掲げて闘い、1921年の川崎・三菱造船所の大争議では先頭に立ちます。農民に対しても小作料の適正化、小作契約の正常化を謳って農民を組織化し、1922年に日本農民組合を結成しました。

 1920年、最初の消費組合として共益社を設立、翌年、神戸および灘購買組合を設立し、その後、学生生協、医療生協、共済生協、労働金庫などが全国に広がりました。1951年には日本生活協同組合連合会を組織し会長に就任、「一人は万人のために、万人は一人のために」の精神こそは平和への近道だと確信し、協同組合の発展に尽くしました。彼は協同組合を「助け合いの組織」と位置づけ、その中心思想を7つの言葉で表現しています。①利益共楽(利益の分かち合い)②人格経済(人間尊重の経済社会)③資本協同(資本を出し合う)④非搾取(共存共栄の社会づくり)⑤権力分散(すべての人の権力の保障)⑥超政党(特定政党に偏らない)⑦教育中心(豊かな生活のための教育)。志方さんは「この思想は今も大切にされなければならないと思います」と話しました。

共同購入会から生協へ

 第2部は、コープ自然派事業連合元理事長、現在はNPO自然派食育・きちんときほん代表として活動する大川智恵子さんのお話。高度成長期(1956年〜1972年)、全国でさまざまな公害が発生しました。1956年に熊本で水俣病、その前年には森永ヒ素粉ミルク中毒事件、1968年には国内最大級の食品公害とも言われたカネミ油症事件、その他、富山イタイイタイ病や四日市ぜんそくなどが次々発生。このような状況下、安全な食品を求める運動が全国的にわき起こり、日本有機農業研究会や兵庫有機農業研究会などが発足しました。

 その頃、北海道の牛乳を本州へ出荷したい生産者と、安全な牛乳を求める都市生活者が出会い、1976年にコープ自然派の前身であるよつ葉牛乳関西共同購入会や徳島暮らしを良くする会が発足。よつ葉牛乳はまたたくまに全国に広がりました。1976年には、よつ葉乳業が「LL牛乳」(140℃以上の超高温殺菌牛乳)を製造すること対して、関西と徳島の共同購入会が反対運動に立ち上がり、やがて全国に広がりました。

 1990年代になり、主婦主体の会や個人商店的な組織運営は徐々に時代のニーズに対応できなくなっていきます。そして、四国は「生協ふれあいコープ暮らしをよくする会」「コープ四国共同事業連合」、関西は「たがやす会・(株)生活ネット」などを経て、1998年に四国・関西が合併、2002年、「コープ自然派事業連合」が誕生しました。

食べものから社会変革へ

 共同購入会時代から継承されたのは、食べものを変えることは社会を変えることという考え方。「コープ自然派の役割は食べものを通じた世直し運動です」と大川さんは話します。水俣病は患者さんたちが声を上げたことで支援の輪が広がり、無農薬の甘夏などを産直、反原発運動の始まりは能登・西海漁協の鮮魚の産直が始まりでした。1986年のチェルノブイリ原発事故後は幌延核処理施設計画反対や六ヶ所核燃サイクル基地、伊方原発出力調整実験などへの反対行動にも取り組みました。そして、これらの反原発運動は福島原発事故後、いち早く食品の放射能測定を開始し、組合員に公表する活動につながっています。

 カナダの協同組合運動家、アレクサンダー・フレイザー・レイドローはICA(国際協同組合同盟)第27回総会(1980年)で「協同組合の理念や思想より、事業・経営を優先するあまり、協同組合の真の性格と目的が漠然化している」と警鐘を鳴らしました。これが1995年のICA宣言(協同組合の定義・価値・原則)誕生につながります。また、2015年、国連総会はSDGs(持続可能な開発目標)を採択、「誰一人取り残さない社会をつくること」との理念に共通するものとして、2019〜2028年を「国連家族農業の10年」と定めました。「協同組合は自立と連帯を基礎にした互助経済社会(地域貢献)が基本です。貧困格差が広がる今こそ協同組合の存在意義が問われているのではないでしょうか」と大川さんは結びました。

Table Vol.401(2019年10月)

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