多くのメディアが報道
ゲノム編集マダイとトラフグを開発し、オンラインサイトで販売しているリージョナルフィッシュ社が宮津市(京都府)で行なっている陸上養殖について、OKシードプロジェクト(※)が2月14日にオンライン記者会見を行い、その内容が毎日新聞、京都新聞、福井新聞、沖縄タイムス、長州新聞、テレビ大阪などで報道されました。これほど多くのメディアがゲノム編集食品の安全性に疑問と不安を持つ市民の声を報道したのは初めてだと思います。
記者会見では、まず印鑰智哉さん(OKシードプロジェクト事務局長)からゲノム編集魚を開発しているリージョナルフィッシュ社に、国や京都府が通常の民間企業にはありえないほど多額の補助金や奨励金を投じていること、京都府水産事務所が技術支援を行なっていること、そして相当な税金を使って開発していながら十分な情報開示を行なっていないことなどが指摘されました。宮津市も同社を全面的に支援しており、食品としての安全性が確認されていないゲノム編集トラフグをふるさと納税の返礼品に採用しています。
※OKシードプロジェクト:ゲノム編集されていない作物や食品に「ゲノム編集でない」マークを自主表示する市民プロジェクト。
ゲノム編集魚の危険性
ゲノム編集魚は、米国で陸上養殖されている遺伝子組み換え(以下、GM)サーモンと同様に、遺伝子操作によって不自然に急成長させることで、死亡率が高まるリスクは開発者も認めています。死んだ魚による水質汚染も懸念されますが、リージョナルフィッシュ社は排水についてまったく情報を公開していません。米国では、生きているGMサーモンが死んだ魚に紛れて川に逃げ出してしまう可能性や、化学薬品や大腸菌などに汚染された水が十分な処理もされないまま放出されていたことなどが内部告発で発覚しています。現
在、日本では陸上養殖に漁業法も適用されず何ら規制がありません。宮津の豊かな漁場が汚染されることになれば、取り返しがつかない問題になるのではないでしょうか。排水による環境汚染について、環境影響評価は不可欠です。
さらに同社は日本貿易振興機構(JETRO)から2000万円の助成金を得て、インドネシアでゲノム編集水産物の育種実証事業を計画していますが、インドネシアではゲノム編集技術に関する規制は整備されていません。現地の農業、漁業従事者の市民グループやNGOによると、このような動きはまったく伝えられておらず人々を不安にさせています。
ゲノム編集技術の問題点
続いて河田昌東さん(遺伝子組み換え食品を考える中部の会代表、分子生物学者)から、ゲノム編集技術に関して特に問題とされる3点について説明がありました。まず、オフターゲット(狙った遺伝子ではなく、似た配列も切断してしまう)が引き起こす問題、次に特定の遺伝子を壊すことで生じる他の遺伝子への影響です。
例えばトラフグの食欲抑制遺伝子を破壊すると生殖能力や自発的運動能力も低下し、重篤な疾患の発生が懸念されます。マダイの成長ホルモン抑制遺伝子を破壊すると発ガンリスクが上昇することや、筋肉の急速な発達で背骨が変形し骨格傷害をもたらすことなどは拷問養殖とも言われ、動物福祉法のある国では認められない技術だとドイツの研究団体は指摘しています。最後に、マーカー遺伝子(遺伝子操作が成功したかを確認するために挿入される遺伝子)に抗生物質耐性遺伝子が使われていることも非常に深刻な問題だと河田さんは言います。マーカー遺伝子はGM技術でも使用されており、遺伝子操作した後の生産物には残ってはいけないことになっていますが、チェックは義務化されていません。現に、米国では角のない牛を開発した際にこのマーカー遺伝子が除去されずに残っていたことが判明し、開発は中止されました。
市民グループによる行動
記者会見の当日、地元の市民グループ「宮津 麦のね宙ふねっとワーク」は、「ふるさと納税の返礼品からゲノム編集トラフグの削除を求める」署名1万661筆を提出し市長に申し入れました。同グループの代表は「宮津には地魚がたくさんあるのに、なぜゲノム編集魚を開発するのか。養殖時の薬品使用、排水処理など安全性にも不安があり、自治体が推奨するのは問題だ。市民に対して説明会を開くよう求めているが市から回答はない」と訴えていて、近く市議会にも請願書を提出するとのことです。
河田さんは、「ゲノム編集は特定の遺伝子を効率よくターゲットにできる以外は、技術的には従来のGMとあまり変わらない、安全審査(健康影響と環境影響)と消費者の選択権を守るために表示義務が必要だ」と言います。
Vol.485(2023年4月)より
一部修正