有機農業を拡げるための課題ごとに、生産者と組合員、行政担当者、物流関係者などが取り組みを報告し、活発な意見交換が行われました。
分科会A「農薬削減・ネオニコ排除の課題と対策①」
初めに生産者が日常での困りごと、課題について報告。
「ネオニコフリーで栽培しても近隣の圃場から農薬が飛来し、地域でネオニコフリーをいかに広げられるかが課題、また、ネオニコフリーへの対価を理解してもらえる買い手を探すことも課題」「高齢者が多いので無農薬への理解が難しい」「有機米を値上げしたら注文数が減少。若い人たちが移住してきても好条件の圃場が足りない。除草剤不使用で収量が半分に減少、草取りの人手不足も悩み」「無農薬の作物を買い支える取り組みや無農薬でうまくいかなかった場合の保障の仕組みづくりがほしい。資材や機械などの共同購入も考えたい。高齢者が多くなり、このままだと国産米を食べられなくなるのではないかという危機感がある」。
物流を担う立場からは、「米は等級をつけているが、独自の精米機を持っているので被害をカバーしやすい。小さな野菜は加工したり、果実は『あまっこ』の名称で販売。虫害を組合員にどこまで許容してもらえるかが課題。また、輸送時の傷みなどは農家が予想しにくいものもある。とにかくできる限り産地に赴き、交流することが大切」とコープ有機・長尾専務。
これらの課題について、アドバイザー・元木さん(JOAA)は、「無農薬かどうかで近隣農家との軋轢は大きな課題だが、農業者同士なのだから理解し合うことが大切。信州のIターン生産者の1人は地域の長老と仲良くし、風のない日に農薬散布してもらうなどの配慮を得ている。技術的に果樹栽培のネオニコフリーはかなり難しく、価格にどう反映させるか、そして、産地の努力を消費者にどう共有してもらえるかが課題。専業農家数は統計的に減少、高齢化など地域によって問題は異なるが、最終的には理解ある買い手を広げることがポイントになる」。
行政の立場からは、「作物の付加価値をどうつけるかが決め手。個人的には神戸にコウノトリが飛来する田んぼをつくることを夢見ている」と神戸市議の高橋さん。
そして、組合員からは「農薬を使わないという努力を組合員がどれだけ共有できるか、理事の役割は大きい。そのためには産地の様子を伝える広報活動や産地交流の機会を多くする努力が大切。ある外国の学者が日本は自給率が低い状態が続いているにも関わらず、危機感が乏しいと指摘していたが、今日の意見交換で農業者が尊敬されていないことを再認識した」と発言がありました。
分科会B「農薬削減・ネオニコ排除の課題と対策②」
初めに生産者がそれぞれの栽培状況について報告。
「旬の野菜を生産。37年間農業に従事し、有機JASができる前から有機栽培に取り組んでいる。農薬削減、ネオニコフリー、MOA自然農法など小さな農家でもできることをやっている。輪作で畑の環境を整え、土壌をしっかりつくり込むことでより良いものができるようになる。土壌分析をやめて良い環境をつくることだけに専念、作物が土の状態を教えてくれる」。
「果樹栽培は失敗できないので、BLOF理論などさまざまなデータをもとに栽培。農業は自然環境に左右される。無農薬で栽培したいが、周りの生産者に病気をうつすリスクを恐れている。また、周りの圃場で強い農薬を散布するのでドリフト問題が深刻。より良いものは海外で高値で売れ、2番手、3番手が国内で流通、海外の高値傾向に国内の値段設定が引っ張られている」。
「天敵農法により昨年は無農薬で安定生産できた。虫同士の組み合わせによって低コスト・高収量につながる可能性がある。生産者・消費者の関係性が希薄になってきている。消費者ニーズに対応するためにも生協が生産者に投資することも必要ではないか」。
このような報告に対して、コープ自然派事業連合・神野専務理事は「産直委員会では産地との交流を深める取り組みを行っている。生協の本質的な役割は生産者の商品を買い支えること。組合員の理解が深まることが生産者への投資につながるのではないか」。
また、組合員は「生産者の生活を守るために組織的に支える仕組みづくりが必要。そうすることで安心してコープ自然派の理念に沿ったものをつくり続けられるのではないか。組合員の意識改革は投資につながる」「カタログに販売価格(商品価格+投資金額)を記載し見える化することで理解が深まるのではないか」「生産者産地見学ツアーも現地をリアルに見ることで理解が深まり、協力し合える」。
そして、行政の立場から「みどりの食料システム戦略では、2050年に有機圃場面積を25%にすることが掲げられているが実現にはどのように販売していくかが課題」と近畿農政局・河野さん。最後に「組合員が生協のオーナー。組合員の声が活動につながるので、声を上げ続けてほしい。それが生産者と消費者をつなげることになる」とコープ有機・佐伯代表取締役がまとめました。
分科会C「有機堆肥・肥料」
初めに生産者から有機肥料・堆肥の課題や栽培での苦労について報告。
「地域資源を有効活用したいが、地域の堆肥センターをつくるためにどう取り組んでいけば良いか。また、施設コストはどのくらいか」と若手生産者から問題提起がありました。
これに対して、「家畜の糞、廃菌床、おからやホテル・レストランの残渣は栄養豊富な有機資源だが、回収システムをつくるには行政の協力を得ることが必要。堆肥は時間をかけて丁寧につくらなければ虫や病気が発生する」「堆肥づくりは個人レベルでもできるが、技術が必要。生産研究会で勉強会をやっていく」「七星食品の豚糞堆肥でチッ素分を補給している。良い堆肥が作物の質を左右する」などの意見が出ました。
アドバイザーの田中さん(熊本有機の会)は「やはり新鮮な糞がいいし、飼い方も堆肥の質を左右する。生協だと安全な畜産の糞がある。良い堆肥かどうかを見分けるには、ジップロックに水と一緒に入れておくと匂いでわかる」と発言。
どんな堆肥を使っているかという情報交換では、「BLOF理論を学んで実践しているところ。目的に合った堆肥が有機栽培の難易度を下げることを実感」「島本微生物農法で菌体を混ぜた自家製堆肥(土こうじ)をつくっている。堆肥と肥料を1反あたり600kg~1t入れるので撒くのが大変」「阿南市では草刈りした草を450t燃やしている。貴重なセルロース資源なのでできれば全量受け入れたい」「和三盆の搾りかすを使っている」「茶がらを使っているが、森の香りの堆肥で、雨が多い時にも強い土づくりができる」。
「刈り取った草は緑肥に使える。草が生えていたら、炭水化物が生えてる、炭水化物を捨ててるって思ってください」と田中さん。さらに、「肥料(作物の栄養)と堆肥(土をつくる、微生物のエサ)を分けて考える必要があり、堆肥は炭素/窒素比が重要、ワラやもみ殻など炭素率が低いものが土をつくる。鶏糞はリンが多く馬糞は濃度が高い、また、食物残渣は塩分が高いので要注意」とアドバイスしました。
行政の立場から近畿農政局・澤田さんは、「有機農業推進の補助事業を計画を立てて進めていきたい。肥料会社と生産者のマッチングなど、ぜひ気軽に提案や相談を」と。
最後に田中さんは「有機農業はマクロとミクロの視点で推進、輸入しないで地域で何をするかだと思います。これからもともに考えていきましょう」と結びました。
分科会D「オーガニック給食を拡げよう」
鳥谷さん(高生連・四万十市議)がアドバイザーとして四万十市のオーガニック給食の取り組みを紹介。
「四万十市は人口3万2000人、2000年に学校給食がスタートし、当時の市長はJAの猛反対のなかオーガニック給食を進める。現在、1日約2000食のうち出荷量ベースで無農薬米60%、有機野菜20~30%を導入。食材は無(減)農薬米・野菜および地元産を優先し、市内の生産者団体が窓口となり、無農薬白米は30kg税込15000円で買い取っている。30~60代の7~8名が無農薬米を栽培し、自分自身も2町歩で栽培し給食に納入。農林課は『四万十こだわり農産物認証制度』という独自基準をつくり、現地に赴いて認証している。給食費は月額で小学校5000円、中学校5500円。給食センターで調理して市内の全市立小中学校へ配送。給食はすべて米飯。新米粉ブランド『あきつっ粉』が誕生し、市内に製粉所建設を検討中。コープ自然派によってオーガニック給食の価値を再認識し、『四万十ふるさと給食』と名付けてHPにも掲載、移住政策の一環としても給食の取り組みをアピールしている」。
続いて、流通業の立場からビオ・マーケットの大矢さんが発言。「約12年前から有機食材を学校給食に納入し、大阪府の吹田学校給食会と茨木学校給食会にじゃがいも・たまねぎ・にんじん、今年から小松菜も納入。どちらも自校方式で小松菜は毎朝8時までに全校に納入。野菜は品質とサイズの条件が厳しく、じゃがいも・たまねぎ・にんじんも年間を通して供給できていないのが現状。2年前から大阪市の保育園(園児300名)にも米、野菜、豆腐を納入。前月10日までに有機野菜の作況を伝え、それに合わせた献立にもとづいて受注。さらにオーガニックパン導入に向けてコープブレッドファームと具体策を検討中」。
MOA商事は「約20年前から沖縄や愛知の学校給食に原料を供給。栄養士と打ち合わせながら1年かけて実現したが、費用や時間の面から地元の納入業者を選定するのが適当。サイズ不揃いは受け取り不可が多い」。
そして、コープ自然派事業連合・岸理事長は「フランスではオーガニック給食に切り替える法律を2017年に制定。生産コストに見合った価格で取り引きされ、学校給食が地域の農家を支えている。市民運動をどう発展させていくかが課題」。組合員は各生協のオーガニック給食への取り組みを紹介、選挙立候補者へのオーガニック給食についてのアンケート調査実施も報告しました。
Vol.483(2023年3月)より
一部修正・加筆