2022年2月25日(金)、コープ自然派おおさか(商品委員会主催)は「ビオトープ米を食べてオーガニック農業を拡げよう!」をオンライン開催。JA東とくしま・西田聖さんとコープ有機・佐伯代表に「ビオトープ米」の取り組みについて聴きました。
拡がるネオニコフリー米
2020年、生物多様性を保全しコウノトリが暮らせる環境づくりを目ざして、ビオトープ米プロジェクトがスタートしました。「ビオトープ米」とは有機栽培を志す生産者を応援し、ネオニコチノイド系農薬(以下、ネオニコ)を減らしていくためのお米です。ネオニコは浸透性、残効性に優れ、神経毒性が強いことから生態系や人への影響が懸念されます。
政府は「みどりの食料システム戦略」(2050年を目標に有機農業の農地面積を全体の約25%・100haに拡大)を策定し、ネオニコ削減(2040年目標)を明記。「オーガニック・エコフェスタ2022」(2月19日・20日開催)でJA東とくしま組合長・荒井義之さんがネオニコフリー宣言しました。
西田さんが慣行栽培からネオニコフリー米づくりに移行して約10年、ネオニコフリーの取り組みはピーク時は生産者150名、農地面積200haまで拡大しました。西田さんたちがつくるBLOF理論技術による省農薬・無農薬栽培「自然派Styleツルをよぶお米」は品質と食味値を保証し組合員の支持を得ています。しかし、高齢化や離農、農地の集約などで、生産者100名、面積100haまで減少、米生産者の95%が慣行栽培を行うなか、西田さんは地域全体をネオニコフリーに導くことが課題だと考えています。
食糧危機と米文化の衰退
2022年2月24日、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まり、原油や天然ガス、小麦などが高騰しています。「戦争と農薬・化学肥料は歴史的にも密接に関係し、食糧はもちろん農業資材にも影響することは必至です。日本は農薬や化学肥料、穀物、家畜の飼料などを海外からの輸入に依存しています。自動車を売るために農業を犠牲にしても良しとする経済産業省と農業を守ろうとする農林水産省との対立が日本の農業政策をいびつな形にしているのです」と佐伯代表は話します。
米の再生産価格は30kg当たり6500円〜7500円ですが、2021年産米価は4700円(慣行栽培1等米)と下落がすすみました。しかし、米価が下がっても店舗での販売価格は下がっていません。古米が売れ残るため新米価格が下げられず、ライフスタイルの変化から米の消費が減り価格を下げても売れないからです。「ウクライナは小麦の大生産国、今後、小麦の価格が上昇し手に入らなくなります。日本には米があるのに日本人が米を食べないのは問題。このままでは米文化が衰退し、悲惨な状況に陥るのではないかと危惧しています」と西田さん。2022年産の米価を上げることが西田さんの課題であり、それには付加価値を高め、買ってもらえる米をつくらなければなりません。
環境、景観、生物を守る
農林水産省は水田の温室効果があるメタンガスの水田での発生を抑えるために、夏に田んぼの水を抜いて乾かす中干しを推奨しています。BLOF理論技術では、収穫後に稲わらを発酵する秋処理を行うことでメタンガスの発生を抑制し、二酸化炭素を固定化。さらに土の団粒化を生み出し土壌改良が劇的にすすみます。未分解状態だとメタンガスが発生するため、田植え前に完全に分解させることが重要です。
昔の稲作作業は草取りが中心で、1000㎡の田んぼの除草に95時間ほど費やしていました。高度経済成長時、地方の労働力が減少し、農薬・化学肥料が持ち込まれて慣行栽培が始まります。除草剤の使用で草取り作業は30分ほどに短縮し、農家の救いとなりました。一方、農協は化学肥料と農薬を販売することで利益を得てきましたが、米価が下がり、慣行栽培の生産者は生産コストを抑えるために化学肥料や土壌改良剤などに経費をかけられなくなりました。そして、米の品質が悪化する悪循環に陥っています。JA東とくしまでは栽培指導を行うことで、マグネシウムや有機石灰、鶏糞を中心とした有機資材の販売量を増やしています。しかし、中国からの輸入マグネシウムの高騰や生産者の高齢化などで有機資材の堆肥を散布できない状況もあり、有機の取り組みに対する消費者の理解がますます必要になります。
「ツルをよぶお米」で使用しているミミズ覆土は徳島県小松島市の菌床椎茸(生産日本一)の廃菌床をミミズが食べた糞です。団粒構造(窒素・炭素・カルシウム等のミネラル分やアミノ酸含量、酵素などが豊富)の土づくりに不可欠で、多種多様な菌をもつ土は病害虫の発生を抑えて高品質多収穫を実現。2022年度産「ビオトープ米」はミミズ覆土を使用し、ネオニコフリーに変える予定です。
コープ有機は2021年度産「ビオトープ米」を2万袋(1袋30kg)購入し、「ビオトープ米」普及のために3合袋を組合員に無料配布しました。2022年秋には、「ビオトープ米」と「ツルをよぶお米」を合わせて4万袋仕入れる予定。4万袋はJA東とくしま管内の25%の米をコープ自然派が取り扱うことになり、地域で存在感を高めることにつながります。
「コウノトリが羽ばたく田舎の風景は米を栽培することで維持されます。買い支えによる持続可能な環境形成、食物連鎖が見える景観形成がわれわれの願いです」と西田さんは締めくくりました。
Table Vol.464(2022年5月)より
一部修正