2019年7月10日(水)、コープ自然派しこく・えひめセンターは高橋和尚こと高橋卓志さんの講演会を開催、尊厳死や新しい葬儀の形について、語っていただきました。
欧米で広がる尊厳死の考え
欧米では安楽死や自殺ほう助が認められている国があり、スイスには海外からの希望者を受け容れる自殺ほう助団体があります(自殺ほう助は死んでいく行為を自ら行うこと、安楽死は死の行為を医師が行うこと)。多系統萎縮症を患う日本人女性・小島みなさんがスイスの自殺ほう助団体施設で亡くなる様子を追ったドキュメンタリー番組(NHKスペシャル「彼女は安楽死を選んだ」のダイジェスト版)が上映されました。スイスの自殺ほう助団体「ディグニタス」(ギリシャ語で「尊厳」という意味)には、1998年〜2013年の間にドイツから3000人、イギリス、フランスから各2000人を超える希望者が訪れ、日本からも自ら死を希望してスイスに渡る人が急増しています。
「今後、安楽死が命に関わる重要な課題になる」と考えた高橋さんは、2013年、スイスの自殺ほう助団体「エグジット」(痛み、苦しみからの「出口」を意味する)を視察訪問しました。エグジットは自殺ほう助について「耐え難い痛みを緩和するための選択肢の1つであり、緩和ケアの延長線上にある。きびしい症状になったとき、最後の手段として、安らかに死んでいける方法」としています。そして、「快復の見込みがなく複数の病気を抱え、質の高いQ O L(生活の質)を願うことができず、どうしても生き続ける意味が見いだせない場合。このようなケースにおいて告知を受けた患者自身がその状態で生きることを望まず、それに耐えることも、尊厳を持ち続けることも不可能であると判断したなら、最終ステージまで待つことは冷酷なことだろう。最善の解決方法が見出せない長く続く苦痛を終わらせるアシスト(尊厳死)は、何もしないより人間的であると思う」とエグジットCEO・ハンスさんは語っています。「欧米でこのような考え方がスタンダードになりつつありますが、日本は延命の技術ばかり進んでいるのが現状です」と高橋さんは話します。
オーダーメイドのお葬式
2017年に亡くなった詩人・大岡信さんを追悼して谷川俊太郎さんが綴った詩に「本当はヒトの言葉で君を送りたくない 砂浜に寄せては返す波音で 風そよぐ木々の葉音で 君を送りたい」という1節があります。この詩にあるように、悲しさや苦しみ、痛みを少しでも緩和できるよう心を込めた葬儀を行いたいと高橋さんは考えてきました。高橋さんが住職をしていた臨済宗「神宮寺」では、通常、寺で行わない遺体の預かりと安置から、遺族参加型納棺なども行い、何をやっているかわかるよう「戒名授与」「般若心経」「引導」など葬儀の進行にそった解説を祭壇のスクリーンに映し出すなど、常識にとらわれない寺のあり方を示しています。
4月に亡くなったある男性の葬儀は、満開の桜のなか、「桜」がテーマのさまざまなアーティストの歌をふんだんに使い、お経ではなく故人と遺族・友人・知人との対話で進める「対話葬」という形をとりました。生前、司書だった男性の葬儀では、本人の遺志により山荘に本棚で祭壇をつくり、故人が子どものために自ら選んだ本を並べました。葬儀の前日、高橋さんは時間をかけて遺族から聞き取り、遺族の言葉と写真を組み合わせた映像を1晩かけてつくります。葬儀で流すこの映像は、18年前から始めて700本以上が上映されました。高橋さんとの信頼関係がつくられた遺族は気持ちを吐き出すことで、癒やし効果が生まれるということです。また、神宮寺では、自分の葬儀について考える機会をつくる「お葬式の見本市」を開催、多数が参加し、入棺体験など斬新な企画が話題になりました。葬儀にかかる費用は45項目にわたり、葬儀社ではその単価を明らかにすることなく、セット販売しています。しかし、神宮寺では1つひとつの単価を一覧表で提示し、必要なものを選ぶことができる葬儀の形を提案。「人には100通りの生き方があり、死に方にも100通りあるのだから、葬儀も1人ひとり違うのが当たり前です」と高橋さん。遺族に寄り添い、故人の人生と死を尊重する新しい葬儀の形を目ざして、高橋さんの挑戦は続きます。
Table Vol.401(2019年10月)