2021年7月1日(木)、コープ自然派奈良「CIVIC」チームはフェアファイナンスガイドジャパン・田中滋さんを講師に学習会を開催。信用創造の仕組みや銀行の社会的責任投融資について考えました。
預金はどこに行くのか?
銀行は私たちの預金から準備預金(預金額の0.8~1.2%)を残して残りを投融資しています。準備預金は預金者への払い戻しに備えて手元に残すお金で、仮に100万円を預けると1万円を残して残りの99万円が企業・個人に貸し出されます。
融資を受けた企業・個人がその99万円を支払いに使い、受け取った企業・個人はその99万円を銀行に預金、預かった銀行は準備預金1万円を残して98万円を投融資します。このサイクルが繰り返されることで、銀行は100万円を元手に7600万円~1億2000万円ほどの融資を行い、銀行システムを通して世界中を巡り76倍~124倍の投融資に。銀行が預金と融資を繰り返すことでお金が増えることを「信用創造」といいます。
銀行の収入源は株式投資や企業への貸し出しによる運用益が大半を占めます。個人に対するローンや窓口手数料収入などは一部分に過ぎず、私たちの預金を投融資することで利益を稼ぐビジネスモデルをつくっているのです。
投融資先企業の問題
大手銀行の主な投融資先企業の1つ、「モンサント社」は除草剤グリホサートで財を成し、遺伝子組み換え作物の開発・販売を行う多国籍バイオ企業です。2012年~2016年(バイエル社が買収)の期間を三菱UFJ銀行・みずほ銀行・三井住友銀行が238億円~496億円の融資と4億円~123億円相当の投資で支えていました。また、三井住友銀行はネオニコチノイド系農薬等の浸透性農薬開発の第一人者である「住友化学」に1427億円の融資と181億円相当の投資を実行しています。「インドフード社」はインドネシア最大のパーム油企業で、日本三大メガバンクは産油国に次ぐ多額の融資をしてきました。インドフード社はパーム油の原料アブラヤシ生産者に対して厳しいノルマを課しているため、児童労働を隠して家族が無償労働するなど人権侵害や、大規模なアブラヤシ農園の開発による環境破壊が問題です。これらの問題を受け、インドフード社はパーム油認証制度「RSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)」から認証取り消しの警告を受けています。他にも、ミャンマー国軍に資金提供する事業、非人道的兵器を製造する事業、住民を強制的に立ち退かせる石炭火力発電所事業、先住民族の聖地で鉱山開発をすすめる事業など倫理的に問題ある事業への投融資によって銀行は利益を得ています。
銀行の社会的責任を問う
「フェアファイナンスガイドジャパン」は社会問題解決のために大手金融機関の社会性(投融資方針など)を格付けするサイトです。2009年、オランダで環境・人権・開発に関するNGOや消費者団体が共同で立ち上げ、欧州とアジアを中心に15か国で展開中。サイトでは、気候変動・自然環境・人権・労働・兵器産業・健康・透明性・発電事業・食・林業・漁業・鉱業・石油ガス産業・税・汚職・ジェンダーの16テーマで投融資先はもちろん銀行自身の取り組みについて各10点満点で算出しています。2021年の総合点は、農林中央金庫3.4点・三菱UFJ銀行3.3点・みずほ銀行3.3点・三井住友トラスト3.2点・三井住友銀行2.8点・りそな銀行1.9点・ゆうちょ銀行1.0点でした。点数化することで金融機関同士が競い合いスコアの底上げにつながっています。
フェアファイナンスガイドジャパンの呼びかけで、「赤道原則」(環境・社会リスクを評価管理する自主的ガイドライン)にりそな銀行・三井住友トラスト・農林中央金庫が署名。2018年、クラスター爆弾の製造等に関係する企業への投融資禁止をすべての銀行グループが表明。核兵器の開発・製造・所持に関与する投融資禁止はりそな銀行のみ。ゆうちょ銀行を除くすべての銀行グループはパーム油において第三者認証の取得状況を投融資判断に活用すると宣言しています。
問題ある企業からの購入を避けるためにフェアトレードラベルや認証ラベルの商品を選ぶ、地元経済の循環や労働者を支えるための運用・投融資をしている地方銀行・信用金庫・労働金庫を選ぶ方法があります。しかし、適切な購買、運用・投融資が行われても、その先の信用創造によりほとんどのお金がメガバンクに流れます。また、地方銀行はメガバンクを参考に方針を立てる傾向にあり、業界全体が変わらなければ社会は変わりません。「預金者でなくてもサイトを通じてメガバンクへメッセージを送り資金の流れを変えることができます。声を上げ、銀行の姿勢を問い続けることが大切です」と田中さんは話しました。
Table Vol.448(2021年9月)より
一部修正・加筆