Table(タブル)はコープ自然派の情報メディアです。

食と農と環境

遺伝子組み換えとゲノム編集食品

2021年10月25日(月)、コープ自然派・遺伝子組み換え食品ストップネット連絡会は、ジャーナリスト・天笠啓祐さん講演会&映画「ゲノム編集と種の話」上映会をオンライン開催しました。

遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン代表、日本消費者 連盟代表・天笠啓祐さん。

増加する農薬と健康被害

 動画共有サイトVimeoによる上映会「ゲノム編集と種の話」では、種を採り育てることで作物がその土地に適合し変化すること、自然農法家や固定種野菜専門の種苗店、分子生物学者・河田昌東さんたちによる活動を通して人の手による遺伝子操作の危険性について問うています。

 講演会では、遺伝子組み換え(以下、GM)食品とゲノム編集食品の基本から安全性、最新情報などについて聴きました。

 GM作物の商業栽培が始まった1996年から栽培国・開発作物は増えず、GM技術は行き詰まっています。「除草剤耐性」「殺虫性」「除草剤耐性と殺虫性を組み合わせた」性質をもつ品種が栽培された結果、除草剤をかけても枯れない「スーパー雑草」や殺虫剤をかけても死なない「スーパー害虫」が現れ、農薬の使用量が増大しています。除草剤耐性作物と一緒に使われる除草剤グリホサートはWHO(世界保健機関)で発がん物質「2A」にランクされ、米国では10万件を超える訴訟や不買運動が起こされています。しかし、世界中でグリホサートの規制が強まる中、日本政府は残留基準値を緩和しています。

規制対象外のゲノム編集

 2019年、国内でゲノム編集食品が規制対象外として環境影響評価と食品安全審査が行われることなく、届け出任意のため食品表示されないまま流通が可能になりました。

 従来の品種改良とGM、ゲノム編集の違いを寒さに強いトマトの開発を例にあげると、従来の品種改良は寒さに強いトマトと美味しいトマトを何度も交配させて寒さに強く美味しいトマトをつくります。GM技術は美味しいトマトに異生物種のヒラメの遺伝子(寒さに強い性質をもつ)を導入して開発。ゲノム編集は美味しいトマトがもつ寒さに弱い遺伝子を壊してつくるものです。

 ゲノム編集技術で開発された高GABAトマト「シシリアンルージュ・ハイギャバ」の苗が5月に無償配布されました。高GABAトマトは筑波大学・江面教授が開発し、同教授が立ち上げたベンチャー企業・サナテックシードが種苗を、親会社のパイオニアエコサイエンスがトマトと苗とトマトピューレを販売。ゲノム編集で改造した「可食部の多いマダイ」(京都大学・近畿大学の共同開発、ベンチャー企業リージョナルフィッシュ)の流通・販売は2021年9月に承認されました。大学のベンチャー企業によるゲノム編集食品やワクチンなどの開発が活発になり、「大学が学問の場でなく商売の場に変化しているのが世界の流れです」と天笠さん。また、種子・農薬・肥料に関連する産業のアグリビジネス市場は、バイエル(ドイツ)、シンジェンタ(スイス)、コルテバ(アメリカ)、BASF(ドイツ)の4社体制で、世界市場の70~80%が占められています。

壊してよい遺伝子はない

 ゲノム編集技術は1996年に登場し、CRISPR/Cas9の開発で多種類の遺伝子を組み合わせ、大量に導入することが可能になりました。CRISPR/Cas9とは目的とする遺伝子の位置に誘導する技術「CRISPR(クリスパー)」とDNAを切断する制限酵素「Cas9(キャスナイン)」の組み合わせで、目的とした遺伝子をピンポイントで壊す「ノックアウト」という技術です。さらに、切断してから修復するまでに遺伝子を導入する「ノックイン」という新技術の開発がすすめられています。

 例えば、ネズミの皮膚をつくる遺伝子をゲノム編集で壊し、そこに人間の皮膚をつくる遺伝子を導入するなど、ピンポイントで遺伝子の組み換えが可能になるということです。しかし、目的の遺伝子を壊しても(オンターゲット)切断近辺で大規模な変化が生じることや目的外の遺伝子を壊す(オフターゲット)可能性も指摘されています。また、エピジェネティック(遺伝子のオンオフのスイッチ)な異常が起き、操作した細胞としない細胞が入り乱れて細胞分裂を起こすモザイク現象を起こすなど、ゲノム編集は複雑な生命ネットワークをかき乱す技術なのです。

 現在、ゲノム編集技術で商業栽培されている作物は、日本の「高GABAトマト」と米国で「高オレイン酸大豆」。ただし、高オレイン酸大豆で作られた食用油は市場に受け入れられず、販売中止となりました。開発中のゲノム編集作物には「除草剤耐性大豆」「除草剤耐性小麦」「収量増小麦」など、多国籍企業による主食穀物をターゲットにした除草剤耐性作物の開発が行われています。日本では「シンク農改変稲(収量増)」などの試験栽培や、ゲノム編集動物として世界初の「肉厚マダイ・トラフグ」の届け出が受理され、クラウドファンドの支援者へ返礼品として食卓にのぼりはじめています。

 ゲノム編集作物は種苗にも表示がないため、農家はもちろん家庭菜園でも選択することができません。今までもGM種苗の表示はありませんでしたが、食品表示があったため種苗会社はGMとの区別を慎重に扱っていました。しかし、ゲノム編集は食品表示がないため、GM食品のような歯止めがありません。

 現在、種苗への表示を求める署名が拡がり、農家・消費者など市民による独自の食品表示「OKシードマーク」をつける「OKシードプロジェクト」の活動もスタートしました。産直システムで出どころの確かなものを購入し、政府に規制を求めるとともに自治体に独自の条例をつくるよう働きかけ、学校給食にGM・ゲノム編集食品を使わないよう求めることも大切です。

Table Vol.455(2022年1月)より
一部修正・加筆

アクセスランキング

DAILY
WEEKLY
MONTHLY
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  1. 1
  2. 2
  3. 3

アーカイブ

関連記事

PAGE TOP