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くらしと社会

映画「MINAMATA」をシェアしよう

2021年10月20日(水)、コープ自然派おおさか(理事会主催)は、永野三智さん(一般財団法人水俣病センター相思社職員)を招き、映画「MINAMATA」について語り合う会を行いました。

※イメージ

「水俣」を知るきっかけ

 写真家・ユージン・スミス(1918~1978)とアイリーン・美緒子・スミスの写真集「MINAMATA」(1975年出版)をもとに、アンドリュー・レヴィタス監督、デヴィッド・ケスラー脚本、ジョニー・デップ主演の映画「MINAMATA」が全国で公開されました(2021年9月23日より)。

 コープ自然派は前身の共同購入会時代から、水俣の甘夏やジャムなどの産直を通して水俣病患者を支援。4年前にはNPO自然派食育・きちんときほん主催、2年前には連合商品委員会主催で水俣研修ツアーを企画しました。

 映画「MINAMATA」をシェアする会は、コープ自然派おおさか・西村専務理事の進行で行われました。まず参加者全員が映画の感想を話します。「とても感動した」「ずっしり心に響いた」という感想の一方で、「史実と違う箇所が多い」「『入浴する智子と母』の写真使用は智子さんの両親に事後承諾だったのではないか」「『水俣』の本質が描かれていない」という意見も出されました。セルビアとモンテネグロで撮影されたことで風景に違和感があるという感想もありました。

 しかし、参加者の多くは「ジョニー・デップ主演ということで話題性があり、『水俣』が今なお続いていることを多くの人たちが知るきっかけになる」という感想でした。また、福島原発事故被災者への補償金をめぐる分断政策や放射能汚染水の海洋放出は「水俣」の繰り返しだと指摘する参加者もいました。

 ※「入浴する智子と母」の写真とは、胎児性水俣病患者の上村智子さんと母親の入浴シーンをユージン・スミスが撮影したもので、世界的に大きな反響を呼びましたが、1996年6月にアイリーン・美緒子・スミスさんは智子さんの両親である上村夫妻と新たな展示や出版を行わないことを文書で約束しているということです。

水俣病をめぐる状況

 続いて、永野三智さんが水俣病をめぐる状況について話します。水俣市は熊本県の最南部に位置し、内海の不知火海(しらぬいかい)に面しています。不知火海はたくさんの島々に囲まれ波穏やかで豊かな漁場です。ところが水俣に化学工場であるチッソが設立され、不知火海に工業廃水を流すようになりました。プラスチックの原料をつくる際の廃水に含まれていた有機水銀が魚介類の食物連鎖によって濃縮され、水俣病を引き起こします。公式に明らかになったのは1956年5月1日、水俣保健所がチッソの附属病院から「原因不明の奇病発生」との報告を受けました。実際は1932年頃から犬や猫や鳥たちが狂死し、不知火海の魚を食べた人たちも有機水銀によって中枢神経を侵されて「原因のわからない症状」に苦しんでいたのですが、対岸から水俣に移り住んだ『よそ者』への偏見が水俣病の発見を遅らせました。当時の水俣市の人口は5万人、うちチッソ労働者5000人。親戚や関連会社などを合わせると数多くの人たちがチッソとかかわり、市長や市議会議員も半数はチッソ出身者でした。

 チッソが不知火海を汚染して魚が減ってしまったことに漁師たちは怒り、チッソに抗議しますが、低額の補償金で済まされてしまいます。漁師たちがチッソの工場に突入して53人の漁師(多くは漁協幹部)が逮捕されたこともありました。国交省から廃水浄化装置を付けるよう命じられ廃水を浄化したと、映画ではチッソの社長が廃水を飲むシーンがありますが、社長が飲んだのは水道水で、実際の装置に水銀を除去する機能はなく、その後9年にわたって水銀は海を汚染し続けます。「映画ではこの部分をもっと踏み込んでほしかった」と永野さんは話します。

 1967年、日本の公害史上初めて、新潟水俣病の裁判が提訴されました。翌年、原告団が水俣を訪れ、それを受けて1969年水俣でも提訴、その後新たに認定された人たちは直接交渉を求めて東京のチッソ本社(現JNC)前で座り込みを続けます。1973年に第一次裁判は勝訴。しかし、その後も8万人に近い人たちが症状を訴え、認定をめぐるさまざまな問題は今も続いています。

 映画では提訴や座り込みをした人たちが登場しますが、経済的事情やチッソとの関係、家庭環境もあって闘えなかった多くの人たちがいます。チッソ本社前に座り込んだ人たちには東京の学生たちが支援。その後、水俣に移住して医療や福祉関係の仕事に就いた人たちもいて、相思社では現在、彼らが話す当時のエピソードを聴きとっています。水俣病歴史考証館には22万点の水俣病関連資料があり、うち9万7000点はデータベース化され、オンラインで世界のどこからでも閲覧可能です。

永野三智さんは相思社で患者の相談窓口を務めた記録をもとに「みな、やっとの思いで坂をのぼる~水俣病患者相談のいま~」(2018年)を出版。

さらに深く知るために

 映画制作にあたって、監督とジョニー・デップの代理人はアイリーン・美緒子・スミスさんの通訳で患者たちに話を聴きました。患者たちは65年間あるいは70年間の怒りや苦しみ、恨みをぶつけました。「そのため映画では善・悪がくっきり分かれていますが、水俣病問題はそんなに単純ではなく重く深い問題です」と永野さん。永野さんは映画に違和感はあるものの観た人の抱く感想には肯定も否定もしたくないと思っています。そして、この映画についてさらに理解を深めるには石井妙子著「魂を撮ろう」(文芸春秋)を読んでほしい、また、原一男監督が20年かけて完成させた映画「水俣曼荼羅」(2021年11月27日公開)を観てほしいと話しました。参加者からは、「永野さんの患者への想いがよく伝わった」「教科書で学んだ程度だったので、『水俣』についてもっと知りたい、本も読みたい」「映画の感想をシェアできる機会が得られたことに感謝します」などの感想が書き込まれました。

司会・進行を務めたコープ自然派おおさか・西村専務理事。

 コープ自然派事業連合(連合商品委員会主催)では、アイリーン・美緒子・スミスさんの講演会を12月8日(水)10~12時、神戸市勤労会館とオンラインのハイブリッドで開催します。

Table Vol.452(2021年11月)より
一部修正・加筆

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