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くらしと社会

気候危機のリスクと社会の大転換

2021年6月24日(木)、コープ自然派兵庫(ビジョン未来と環境主催)は江守正多さん(国立環境研究所地球システム領域副領域長)の講演会をオンライン開催。
江守さんに地球温暖化の将来予測とリスク、気候変動に関する問題や対策などについて聴きました。

※イメージ

地球温暖化と人間活動

 近年、世界の平均気温が上昇し地球温暖化が問題になっています。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、2013年、気温の上昇の主な原因は人間活動である可能性が極めて高い(95%以上)と報告しました。

 温暖化によって異常気象が増え、さまざまなことが起きています。①海面上昇②洪水③台風やハリケーン④熱波⑤食料不足⑥水不足⑦海の生態系の損失⑧陸の生態系の損失などです。

 日本でも2018年に西日本豪雨とそれに続く猛暑。関東では2019年に台風15号による千葉県の大停電、東日本各地で浸水をもたらした台風19号というようなことが毎年起きています。

 このような事態に対して損害を和らげたり、回避することが必要になってきました。水災害・水資源には防災・減災の強化、農業では作付けの変更や品種改良、熱中症にはエアコン利用、熱中症警報発令などです。2016年12月、「気候変動適応法」が施行され、日本全体で影響評価と適応計画の策定、自治体では地域適応計画の立案が努力義務となりました。

気候正義という考え方

 少しずつ変化していたことが突然急激に変化する時点をティッピングポイントと言い、それが連鎖すると考えられています。例えば、グリーンランド氷床が解け続けることでその解けた水が海に流れ込み、海の循環が変わってアマゾンの熱帯雨林に雨が降りにくくなります。そして、アマゾンの森林が枯れてCO2が吸収されなくなると、さらに温暖化するという具合です。連鎖がすすむと人間には止められなくなり、その引き金を今の世代の人類が引いてしまうのではないかと懸念されています。

 気候変動の深刻な被害を受けるのは、発展途上国に住む貧しい農民たち。干ばつが増えると食べものや水がなくなり難民が増えたり、あるいは紛争の引き金になることもあります。CO2を出しているのは先進国や新興国の人たちなのに深刻な影響を受けるのは責任のない人たちというのでは不公平です。また、これから生まれてくる人たちを含めて将来世代も責任がないのに深刻な被害を受けることになります。こういう不正義を正そうという考え方は「気候正義」と言われ、気候危機を考えるうえで重要な考え方のひとつになっています。

コロナ禍でCO2減少

 地球温暖化をストップさせなければならないという協定に世界各国が合意しています。1992年に国連で「気候変動枠組み条約」成立。さらに議論を経て、2015年に「パリ協定」が成立しました。「パリ協定」では、「世界的な平均気温を産業革命以前に比べて2℃より低く保つとともに1.5℃の上昇に抑える努力を追求」しています。世界的な平均気温は産業革命前よりすでに1.2℃上昇していて、それをできれば1.5℃の上昇に抑えるというのは差し迫った目標です。場所によって温度の上がり方が異なり、温度上昇が大きいのは北半球の陸上・高緯度・内陸です。日本は海に囲まれ、中緯度なので世界平均より少し高いくらいです。

 昨年、新型コロナウイルス感染拡大により、世界のCO2排出量は4月の減少ピーク時で17%減、昨年を平均すると前年比7%減少しました。つまり経済を止めるとCO2排出量が削減されることはわかりましたが、一方で、あれだけ経済を止めても7%程度しか削減されないこともわかりました。昨年はたまたま経済活動が抑制されて減少しましたが、多くの人たちはそれを望まないのでそうではないやり方が必要です。

社会の大転換が必要

 では、どのようにCO2排出を削減していくのか。そのメニューとして、省エネ、再生可能エネルギー、原子力、火力発電+CCS(CO2回収貯留)、燃料利用の電化・水素化・バイオマス化、森林減少の抑制・植林、農地の炭素吸収、メタン・亜酸化窒素・フロン類等の対策、革新的な技術、革新的な社会構造変化などが挙げられます。

 世界一斉に行われた調査(2015年)では、「あなたにとって気候変動対策はどのようなものか」という質問に対して、世界全体では「多くの場合、生活の質を高める」という人が多かったのに対して、日本では「多くの場合、生活の質を脅かすものである」という人が多いという結果でした。つまり、日本では温暖化対策は「生活の便利さや快適さを犠牲にしなければならない」「がまんしなければならない」と理解している人が多いようです。「いやいや努力して達成できる目標ではなく、社会の大転換が必要です。人々のものの見方や考え方、常識が変わってしまうようなことです」と江守さん。これまでの歴史では産業革命や奴隷制度廃止などもそうですが、身近に起きた大転換として江守さんは「分煙」を挙げます。30年前はどこでもたばこを吸えるのが当たり前でしたが、受動喫煙が健康被害を生むことが立証されました。日本では「健康増進法」が、国際的には「たばこ規制枠組み条約」も成立。さらに、分煙を実施する飲食店の成功という経済的な転換もあります。気候変動についても同様な過程で常識が変わるかもしれません。

持続可能な「出口」へ

「京都議定書」時代のパラダイムは国同士の負担の押し付け合いでしたが、「パリ協定」時代は技術が変化して安い再エネで儲けながらCO2排出削減できるようになったので、パラダイムはビジネス機会の奪い合いに変化しました。人々は少し前までは化石燃料が枯渇するのを心配していましたが、最近はたくさん余っているのに使うのをやめることを目ざし始めました。人類は今世紀中に化石燃料文明を卒業しようとしていると言えます。

 日本のCO2排出削減目標は、2030年46%削減(2013年比)、そして、2050年カーボンニュートラル(脱炭素化)です。日本には再エネポテンシャルは十分ありますが、コスト低下、系統接続、調整力の確保、乱開発の是正などの課題を解決しなければなりません。同時に、「コロナ禍と気候危機に共通する背景として、人間活動による生態系への侵食、際限なく拡大を続ける人間活動、社会的な格差の再生産、不完全な国際協調などがあります。私たちはこれらの広い意味での『出口』、持続可能な『出口』を追求することが問われているのではないでしょうか」と江守さんは話しました。

東京大学総合文化研究科客員教授も務める江守さんは、コンピュータシミュレーションによる地球温暖化の将来予測などについても研究。

Table Vol.446(2021年8月)より
一部修正

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