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食と農と環境

ネオニコチノイド系殺虫剤 子どもたちへの影響

2020年11月29日(日)、コープ自然派事業連合商品委員会は、ネオニコチノイド研究の第一人者・平久美子さんを講師に迎えてオンライン講演会を開催。ネオニコチノイド系殺虫剤は昆虫の神経伝達を阻害することで効果を発揮し、ミツバチの失踪や大量死の原因として疑われる農薬です。

東京女子医科大学非常勤講師・平久美子さん。ネオニコは使用を続けることで尿中検出率が年々増加し、国民全体の汚染が高まります。

生態系・人体への影響

 1990年代前半に登場したネオニコチノイド系殺虫剤(以下ネオニコ)は、日本国内の出荷量が200トン(2000年)から7年間で400トンに倍増。一般名(有効成分名)がアセタミプリド、イミダクロプリド、チアクロプリドなど、国内で10種類が登録・販売されています。成分が生きものの体全体に行き渡る浸透性と、作用が長期間持続する残効性が特徴で、多少分解されても効力は持続。りんごに葉面散布した場合、20%が葉から根や実の芯まで浸透し、洗ってもとれません。また、80%が大気中に拡散し、土壌や表層水、地下水など環境を汚染します。さらに、神経毒性があり、ニコチン性アセチルコリン受容体に作用して神経伝達物質の働きを乱し、神経の健全な発達を阻害。「”殺虫剤界の最終兵器“として、使えば使うほど環境を汚染し、生きものの生存を脅かし、生態系を破滅に追いやります」と平さんは話します。

 島根県宍道湖は、多彩な魚介類が獲れる豊かな汽水湖です。しかし、1993年を境にワカサギとウナギの漁獲量が激減し、ウナギは絶滅の危機に瀕しています。1993年は水田のカメムシ防除を目的とするネオニコ使用開始時期と重なり、同時に動物性プランクトンも減少しました。

 人への影響も深刻で、2004年から松枯れ防除のためのネオニコ大量散布を実施した群馬県では、地上40mまで吹き上げる散布機を使い、盆地周辺の山林にアセタミプリド0.02%水溶液を散布した結果、発熱や心拍数異常を訴える患者が多数発生。翌年も多くの人たちが同様の症状を訴えました。2006年、ネオニコ散布を中止しますが、国産果物や茶飲料を摂取した人たちに同様の症状が起こります。頭痛、腹痛、筋肉痛、心拍数異常、近時記憶障害など、低年齢の子どもでは、ADHD様症状、失禁などの激烈な中枢神経症状を伴う例もあり、ネオニコ中毒患者数は7ヵ月で1111人にのぼりました。患者の尿からはより高い濃度のネオニコを高頻度で検出しています。

胎盤を通過して脳に影響

 細胞および動物実験の結果、哺乳類への影響として「ニコチン受容体を刺激する」「神経発達に悪影響を与える」「腎臓に悪影響を与える」「遺伝子に作用し乳がんの増殖を促す」ことがわかっています。新生児ラットの小脳顆粒細胞にネオニコを投与するとニコチン同様に興奮性反応が見られました。哺乳類にも昆虫同様の強い影響があることが判明、欧州ではネオニコパニックが起こり、使用禁止への契機となりました。

 日本では年間約10万人が乳がんと診断され、その半数以上がエストロゲン依存性乳がんと言われています。チアクロプリドとイミダクロプリドは少ない量でエストロゲン合成酵素をつくるシグナルを増加させ、乳がん細胞を増殖させる可能性があります。

 2009年1月から2010年12月の期間、栃木県獨協医科大学病院の新生児ICUに入院した新生児57名のうち25%の尿からアセタミプリドの分解産物とジノテフランが検出されました。新生児ICUでは出生後48時間は母乳を与えないため、検出物は母体由来と推定。ネオニコは胎盤を通過し、へその緒から胎児の体内に入ることがわかりました。そして、脳血液関門を通過し脳神経に達します。「子どもたちは10年以上前からネオニコに暴露されていたのです。この研究結果を見た時、どれだけショックだったか!」と平さん。これらの事実とリンクするように、この10年間、発達障害と診断される子どもが右肩上がりで増えています。以前から日本の新生児の尿と臍帯血からは多くの神経毒性物質(有機フッ素化合物、PCB、有機塩素など)が検出されていますが、さらにネオニコが新生児の尿から検出されるようになってしまったのです。

ネオニコフリーを増やす

 「子どもたちの未来を守るために、そして日本の一次産業の持続可能性のために、ネオニコフリー農産物の供給の増加とネオニコの大規模広域同時散布の禁止が必要です。今こそ、行動の時ではないでしょうか」と語る平さん。農産物のネオニコの使用を止めると、4〜5年で生態系への影響が減少します。また、ネオニコが入っていない食品を食べ続けると、ネオニコが体内から抜けていきます。尿中の陽性率がネオニコフリー5日目に激変し、半年で体内からほぼ抜けるということです。

Table Vol.435(2021年3月)より
一部修正

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