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くらしと社会

免疫のしくみと心身に健康な食生活

2020年10月11日(日)、コープ自然派兵庫では、「食でウイルスに打ち勝つ!家族の免疫力パワーアップ講座」を開催、講師の山下陽子さん(神戸大学大学院農学研究科准教授)に免疫のしくみと心身に健康な食生活について聴きました。

豊富な資料をもとに多角的な視点から免疫のしくみと健康な食生活について説明する山下陽子さん。

様変わりする食生活

 日本の食文化はここ100年くらいで大きく様変わりしました。第二次世界大戦後あたりまでは食糧をいかに確保するかが課題でしたが、2000年頃からは飽食の時代を迎え、食べ過ぎによる生活習慣病が問題になっています。生活習慣病は1987年までは成人病と呼ばれ大人の病気でしたが、今は若年化が課題となっています。一方、超高齢化社会を迎え、最近は先進国でも栄養不良が問題となり、栄養過多と栄養不良の二極化がすすんでいます。そんななか、コロナ禍でいかに健康な食生活を送り、免疫力を維持するかが改めて重要になってきました。

「健康な食事」とは

 「健康な食事」とは「健康な心身の維持・増進に必要とされる栄養バランスを基本とした食生活が無理なく持続している状態」と定義されています。そして、健康な食事を実現するには、日本の食文化の良さを引き継ぐとともに、おいしさや楽しみも大切で、食材や調理の工夫、嗜好や食の場面など幅広い要素が求められます。さらに、健康な食事を社会に定着させるには、社会的・経済的な条件が整っていなければなりません。「どのような栄養素をどのような食品からどのように調理するのか、それをどのように組み合わせ、どういうシチュエーションやタイミングで食べるかなどあらゆる要素を組み合わせてこそ健康な食事が実現できます」と山下さん。また、「免疫機能を高める食事とは、何を食べたら良いのというものではなく、体全体が健康であってこそ免疫機能は正常に働きます。日頃食べているものをまんべんなく食べることの積み重ねが大切。となると、日本人は、ごはん、まめ、海藻、魚、野菜、きのこ、芋などを調理した和食に重要な要素が含まれています」と話します。

免疫ってなに?

 免疫をつかさどるのは血中にある白血球やリンパ球です。マクロファージと好中球は外敵を認識するとリンパ球に刺激を与え、キラーT細胞が異物をやっつけます。もう1つの経路はマクロファージと樹状細胞が異物を認識し、ヘルパーT細胞とキラーT細胞、制御細胞に指令を出します。そして、一気に動員力があるB細胞に指令を与えて異物をやっつけます。免疫にはこのような自然免疫と獲得免疫があり、ワクチンなどは獲得免疫で異物がやってきたときやっつけられるよう、あらかじめ異物に曝露させて免疫をつけておきます。

 免疫機能の70%は腸管がつかさどっています。腸の細胞は一列にきれいに並び、その表面におびただしい量の腸内細菌がくっついています。食べものは腸内の輸送体を通って入り、異物が腸管近くにあると免疫細胞が働いて除外します。つまり、腸内環境の良し悪しが健康の鍵を握ることになります。

免疫機能と腸内環境

 腸内には3万種類以上、100兆個以上の腸内細菌(有用菌、有害菌、日和見菌)が生息しています。腸内細菌は個体差が大きく、住んでいる地域や国で異なり、日本人の腸内細菌は稲などに多く付着している乳酸菌が多いのが特徴です。善玉菌(有用菌)のうち99%はビフィズス菌で大腸に多く生息、乳酸菌はビフィズス菌の100分の1程度で腸にはほとんど定着しません。悪玉菌(有害菌)はウェルッシュ菌やブドウ球菌、大腸菌などです。

 善玉菌(有用菌)は、デンプン、オリゴ糖、難消化デキストリンなどをエサとし、人間が代謝できない食物繊維などを消化し、共生関係を結んでいます。また、有機酸(乳酸・酢酸・酪酸)やアルコール、ガスをつくります。有機酸がつくられることで腸内は弱酸性になり、弱酸性の状態は病原菌がきらいな環境です。有機酸は免疫機能をつかさどる細胞を活性化させたり増殖を助ける働きをもち、がんを予防し、アレルギーを抑制します。また、一部のビタミンやアミノ酸を合成したり、ミネラルの吸収を促進する働きももっています。ミネラルのうち、鉄分やカルシウムはとくに女性は積極的に摂ることを推奨されますが、吸収効率が悪く、有用菌がつくり出す有機酸がカルシウムや鉄を吸収しやすくする働きをしてくれます。

 悪玉菌(有害菌)は腸内で主にタンパク質をエサにして腐敗を起こし、さまざまな有害物質をつくります。体中に有害物質がめぐると生活習慣病や老化を引き起こし、腸内をアルカリ性にして免疫機能を低下させます。また、有害物質が腸壁を傷つけがんを引き起こします。悪玉菌がつくり出すアミンは亜硝酸塩と結合して発がん性の強いニトロソアミンを発生させ、インドールやスカトールは嫌な臭いを発します。

 「近年は大腸がんの割合が高くなり、腸内環境の悪化が懸念されています。食生活の影響が大きく、脂肪やタンパク質(動物性)の摂取増加、デンプンや食物繊維(ごはんや野菜)、発酵食品の摂取不足、食の外部化(添加物の摂取増加)などは有用菌を弱らせる要因となります。有用菌が元気に暮らせる環境を腸内でつくり、有用菌数を増やすことが健康維持のために重要です」と山下さんは腸内環境の大切さについて話します。

健康を維持する食べ方

 人間は産後、母親から良い菌をもらい、この菌が自分の体質には最も合っていると言われています。日本人が長く食べてきた和食は健康と豊かな感性を育み、健康を支えてきました。ごはんは脂肪をほとんど含まず良質なエネルギー供給源になります。日本人は腸が長く、脂肪や動物性タンパク質の代謝能力が低いので、ごはんを中心とした食事に適した体質です。有用菌が住みやすい環境をつくるには「ごはん・まめ・わかめ・やさい・さかな・しいたけ・いも」(ま・ご・は・や・さ・し・い)をしっかり食べること。先人たちはこれらを一度に食べられる食べ方として「味噌汁」を現代に伝えてくれました。ごはんと味噌汁の組み合わせは栄養バランスも良く、腸内環境を整えてくれます。

 発酵食品をつくるときに大きな働きをする麹菌は日本独自のもので「国菌」に指定されています。麹菌はでんぷんをグルコースに、タンパク質をアミノ酸に分解、アミノ酸は各機能の保護や大腸炎を抑制します。また、酒粕は良質のたんぱく質、食物繊維、ビタミン、葉酸、菌体成分(麹菌、乳酸菌、清酒酵母)などを含み、がん抑制効果、生活習慣病予防効果、腸内環境改善、認知症予防効果、学習能力向上、リラックス効果などがあるとされています。「発酵食品やだしを使うと味の風味が掛け算で深くなり、このような日本型食文を継承し応用してきた感性は素晴らしいです」と山下さん。もっとも望ましいとされる1975年頃の食生活は血液マーカー良好、学習記憶能力向上、老化の遅延、健康寿命の延伸、ストレス軽減、運動能力の向上などが認められています。しかし、最新のデータでは炭水化物の量が減少して脂肪に置き換えられている傾向です。腸内環境は幼い頃に決定づけられ、日々の積み重ねが大切、健康な食事で心身を健康にすることが大切です。

体内時計と栄養素

 私たちの体には体内時計が組み込まれています。人間の体内時計はちょうど24時間ではなく、少し後ろにずれているので1日1回リセットしています。脳に体内時計の中枢があり、朝、目に入る光の刺激でリセットします。臓器のリセットには朝食が重要。また、栄養素によって摂取に適したタイミングがあり、炭水化物、タンパク質は時計遺伝子の位相のずれを調節します。インスリンは肝臓の時計遺伝子を変化させ、中枢時計との同調に関わります。脂質は体内時計を乱します。魚油(DHA・EPA)などの脂肪酸は体内時計のリセットに有効で、塩分は体内時計を早起きさせます。カフェインは体内時計を延長させます。

 「食事時間を規則正しくすること、光のリズム、活動のリズム、食事のリズムがずれないよう、1日の食事は最初から最後が長くならないのが良いと言われています、そして、日本型食生活が免疫力アップに重要で、食材だけでなく、調理法や形式、調味料などいろいろなものをまんべんなく摂る食生活が心身の健康に重要だと言えます」と山下さんは結びました。

Table Vol.430(2020年12月)より
一部修正・加筆

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