2020年9月24日(木)、コープ自然派おおさか(「ビジョンいろいろ」主催)は、「明日の自由を守る若手弁護士の会(あすわか)」・小谷成美さんと谷次郎さんを講師に、オンライン学習会「いまさら聞けない?!大人のための社会科〜公民編〜」を開催、「憲法」について学びました。
「憲法」を守るのは誰?
まず、「憲法」とは何かについて考えます。小谷弁護士は参加者に「憲法を守らなければならない人は誰?」と質問。「①天皇②大臣③国会議員④公務員⑤国民⑥みんな」の中から選択します。「⑥みんな」という回答が人気でしたが、正解は①〜④。憲法99条に「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負う」と規定されています。
私たちは政治を誰かに委託することが必要です。しかし、政治を任された人たちが権力を濫用し、個人の自由が侵害される怖れがあります。そこで、権力の濫用を抑え個人の自由を守るためにつくられたのが「憲法」で、これを「立憲主義」と言います。
立憲主義の考え方
続いて、「憲法」と「法律」の関係について考えました。「憲法」は国民がつくって国が守らなければならないもの、「法律」は国がつくって国民が守らなければならないものです。日本の法体系では「憲法」が最高位で、「憲法」に違反しない範囲で「法律」を制定し、「法律」の範囲内で「条令」、その下に「規則」・「規程」、その下に「要綱」・「要領」というようにピラミッド型に体系化されています。憲法98条には「憲法違反の法律は従わなくても良い」と規定されています。
また、立憲主義の考え方のもと、権力の濫用を防止し、国民の政治的自由を保障するために国家権力を立法(国会)・司法(裁判所)・行政(内閣)に分け(三権分立)、それぞれ独立した役割を担っています。
基本的人権の尊重とは
日本国憲法の三大原則とは、「国民主権」「基本的人権の尊重」「平和主義」。この学習会では「基本的人権の尊重」について考えました。
憲法13条では「個人の尊重(尊厳)、幸福追求権及び公共の福祉」について定めています。これは、「みんなちがってみんないい。じぶんのかんがえるしあわせをおいかけていこうということ、憲法の大事な根っこ、憲法が一番大事にしていること」(あすわか憲法ビンゴより)です。14条「法の下に平等」、26条「教育を受ける権利」、15条「政治に参加する権利」、27条「勤労の権利と義務」、28条「労働者の団結権」とそれぞれ規定。また、24条では「家庭生活における個人の尊厳と両性の本質的平等」について規定されています。
そして、憲法21条では「集会の自由・結社の自由・表現の自由・検閲の禁止、通信の秘密」が定められ、「もし憲法21条がなかったらこんな学習会も事前に許可が必要だという法律がつくられるかもしれませんね」と小谷弁護士。20条「信教の自由」、22条「居住移転の自由、職業選択の自由、外国への移住、国籍離脱の自由」、29条「財産権」、25条「生存権と国の社会的使命」は、誰もが人間らしく生きる権利が保障され、国はそれをささえなければならないと定めています。
31条から40条では「身体の自由」について詳細に規定され、戦前の治安維持法のもとで約20年間で数十万人が逮捕され、1800人余りが獄死したことへの反省が込められているということです。
インターネットと人権
応用編では、「インターネットと人権」について、インターネット掲示板をめぐる問題について考えました。ファミリーレストランの店員の対応の悪さや食材使いまわしなどへの批判が匿名で掲示板に書き込まれ、それに店長が反論、さらに批判の書き込みが続くという状態になったとき、どのように対処するかという問題を谷弁護士が出題します。
グループワークでは、「書き込む側の表現の自由は守らなければならないが、ファミレス側にとっては名誉棄損やプライバシー侵害に当たるのではないか、確実に不利益になるので事実かどうかも大切」「お店を利用したいと思っている人にとって、書き込み情報は事実かどうかわからないので知る権利が奪われるのではないか」「書き込みを消すには匿名なので難しい問題もあるのではないか」…などの意見が各グループから出されました。
これを踏まえて谷弁護士は、「ファミレス側には名誉棄損されてはならない権利があり、書き込み側には表現の自由があり、いわば人権と人権のぶつかり合いです。表現に対して政府が規制すると検閲権の問題にもつながり、すぐに削除という単純な問題ではありません。人権と人権が対立するときに調整するのが公共の福祉という概念で、言論を闘わせることが基本。裁判所に持ち込むと国家権力が介入することになるのでできる限り避けたいと考えます」と谷弁護士。しかし、掲示板が「炎上」状態になり、罵詈雑言が飛び交うような場合には掲示板の管理者が削除する責任を負うこともあり、「プロバイター責任制限法」というインターネット上で権利侵害が発生した際に、発信者側にプロバイダーの責任を制限し、また、被害を受けたとする側が発信者情報の開示を請求する権利について定めた法律がつくられています。
Twitterなどの書き込みはAIを用いて利用規約違反などの判断を行っていて国家権力の介入はないもののAIによる一方的な判断で使用できなくなる場合もあるという問題提起が谷弁護士から行われました。
コロナ禍と法律・憲法
今年4月、新型コロナ感染拡大に際して「緊急事態宣言」が出されました。これは「新型インフルエンザ等対策特措法」に基づく法律的措置で、「不要不急の外出を避ける」「学校や百貨店などの休業」などが要請されました。では、今後、災害や感染症拡大などに備えて強制力をもった「緊急事態条項」を「憲法」に加えるべきかどうかについて考えました。
今年5月3日、安倍首相(当時)は「緊急事態に国家や国民がどのような役割を果たし、国難を乗り超えていくべきか。そのことを憲法にどのように位置付けるかは、極めて重く大切な課題だ」と発言。自民党改憲草案には「大地震その他の異常かつ大規模な災害のときに、内閣に法律と同一の効力をもつ政令を制定する権限を与える」と書かれています。これについて災害の現場を経験した弁護士たちは「災害が起こったときに必要なのは、積み上げられてきた経験と叡智、それに基づく準備で、総理大臣が緊急権を発動するといって拳を振り上げても何の役にも立たないし、混乱を起こすだけ」だと語っています。
また、「緊急事態条項」が濫用され、権力者が思うままに人権や自由を脅かす恐れがあります。「憲法とは国民の自由を保障するために公権力を制限するものです。憲法の中に内閣に丸投げできる緊急事態条項をつくる必要はなく、また、リスクが大きすぎるのではないでしょうか」と小谷弁護士は話しました。
Table Vol.429(2020年11月)より
一部修正・加筆