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食と農と環境

米国のオーガニック市場に学ぶ~誰もが有機農産物を食べることができる社会へ~

2020年10月23日(金)、コープ自然派生産者クラブは総会記念講演会を開催。
米国小売流通業界のスペシャリスト・五十嵐ゆう子さんを講師に迎え、米国のオーガニック市場の現状と急成長する企業「スライブマーケット(ThriveMarket)」について聴きました。

五十嵐ゆう子さんは小売流通全体のコンサルティング&通訳を兼ねるスペシャリストで、児童教育や美容・健康産業にも精通し、雑誌・コラムなどの執筆活動も行っています。講演会は米国から中継。

米国のオーガニック市場

 1990年代の米国では、「ホールフーズマーケット」をはじめとするオーガニック専門店が次々と誕生。1990年代後半、大手スーパー「ウォルマート」「クローガー」などでもオーガニック商品の取り扱いが一般的になり、米国オーガニック市場が急速に拡大しました。米国は医療費が高額なうえ、医療保険の自己負担額が高く、簡単に病院に行けません。そのため、普段から健康的な食生活を心がけている人が多く、米国民の約80%がオーガニック食品に関心があります。

 米国民の3分の1の人口を占めるミレニアル世代(1982年〜2004年生まれ)は年間2000億ドル以上の消費能力があり、オーガニックや健康食品を容易に購入できる環境で育ちました。また、消費行動が環境や社会に与える影響に高い関心をもち、農薬や遺伝子組み換え食品、成長ホルモン、トランス脂肪酸、環境ホルモン、食品添加物などを避け、オーガニック製品を好んで消費します。

 米国ではオーガニック農産物の栄養価の高さについて研究が進み、BPA(缶や容器の内面塗装などに使用されている環境ホルモン)フリー商品(ビン詰め・紙パック)が増加、植物由来のアーモンドミルクが牛乳の代替品として大流行しています。また、容器に生分解性プラスチック(サトウキビなどの搾りかすが原料)が使用されるなど、健康と環境に配慮した食生活を選択するという考え方「クリーン・イーティング」の売り場が増加しています。

コロナ禍での食品市場

 新型コロナウイルス感染症の影響で米国経済が低迷する中、ロックダウンから6月末までの期間のオーガニック食品の売り上げは125%に上昇し、中でもオンラインでの売り上げが絶好調です。2017年、ホールフーズマーケットがアマゾンに買収され、アマゾンの資金力によるコスト削減と商品価格の引き下げからさらに売り上げが上昇。経済的余裕がある層が中心だったオーガニック市場が他の層にまで拡大し、さらに伸びることが予想されます。

 一方、新型コロナウイルス感染者で重症化している人のほとんどが低所得者層で、死者はアフリカ系アメリカ人が全体の40%以上と、人種間の問題や医療の格差が生死を左右することは明らかです。そして、低所得者層の80%以上の人たちは自分たちが食べている食品が不健康であると理解した上で購入しているとのこと。それらの人たちの生活圏は「フードデザート(食の砂漠)」と呼ばれ、新鮮で健康的な食品が買える店舗が少ない地域だということです。

オーガニックを低価格で

 米国でオーガニック製品や自然食品を低価格で販売する会員制サイト「スライブマーケット」が急成長しています。「誰もが簡単に健康的な生活を送れるようにすること」をミッションとし、ホールフーズマーケットのような商品を「コストコ」価格(定価の25%〜50%)で販売しています。約60ドルの年会費を運転資金とし、生産者やメーカーから商品を直接仕入れることで低価格を実現。中西部・南部のフードデザート地域の人たちが会員の半数を占めます。低所得者の会費は無料、有料会員は会計時に表示される値引き額の中からオプションで寄付金額が選べ、その寄付金は低所得者会員に月額100ドル給付(現在、3万1000家族以上に給付)されます。

 ”Thrive“とは、困難を乗り越えて力強く成長する、人や国や社会が繁栄・成功するという意味です。コロナ禍においてスライブマーケットは新しい生活様式に適した業態として急拡大しています。また、人種格差による社会的問題を解決しようとミレニアル世代を中心に考え方の変化が広がり、「Support BIPOC ― owned Business」という人種格差の解決に向けたビジネスサポートプログラムが進められています。このプログラムはアフリカ系アメリカ人や先住民その他の有色人種オーナーの商品が発見・購入しやすくなるよう、Webページや店舗に売り場を設けビジネスを応援する仕組みです。スライブマーケットでは50種類以上のBIPOC ― ownedのオーガニック・ナチュラル商品を常に揃えています。
 BIPOC ― ownedは、日本でも新型コロナウイルスの影響を受けた企業・店舗、自然災害で被害を受けた地域などのサポートに応用できることを五十嵐さんは提案し、「このような状況だからこそ、人が人を助け、思いやり、やさしさの連鎖をつなげる仕組みを構築することが重要です。小さなことも積み上げれば実現化する、生協の本質ではないでしょうか。コープ自然派から日本のオーガニックが広がることを期待します」と締めくくりました。

Table Vol.430(2020年12月)より
一部修正・加筆

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