第26回参議院議員通常選挙直前の2022年7月2日(土)、コープ自然派事業連合・憲法連絡会は政治学者・中島岳志さん講演会をオンライン開催しました。
「リスク」と「価値」
選挙で自分の考えにピッタリ当てはまる投票先を選ぶのは難題です。政治はさまざまな課題を扱うため、全体像を把握できる見取り図を中島さんは提案、候補者・政党選びのヒントとして紹介します。
政治家は国内政治(外交と安全保障以外)において「リスク(お金)」と「価値」をめぐる仕事をしています。縦軸に「リスクの社会化」(上)と「リスクの個人化」(下)を、横軸に「リベラル」(左)と「パターナル」(右)をとり、右上から反時計回りにⅠ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳのエリアに分けます。この「リスク」と「価値」を基軸としたマトリクス図を使い、候補者・政党の思想・信条を捉える尺度とします(下図を参照)。
私たちの生活は災害や事故、病気などのさまざまなリスクにさらされています。「リスクの社会化」は、税金の総額は上がりますが、行政サービスやセーフティネットを充実しリスクを社会全体で受け止めるという立場です。リスクに個人で対応するという立場が「リスクの個人化」で、税金が安くなる一方でさまざまなサービスが行われなくなります。
選択的夫婦別姓の是非、LGBTQの権利、歴史認識、憲法改正は「価値」の問題で、リベラル(寛容)対パターナル(権威主義的、父権的)の対立軸になります。「リベラル」は自分と思想・信条・宗教が違う人の存在を認め、互いの違いに寛容になるという考え方で、内面的な価値観に権力が介入しないことを保障します。パターナルは力をもつ人間(権力者)が個人の内的な価値に介入するという概念です。
選挙では自分の考えがどのエリアに属しているか、そして、どの候補者・政党が自分の考えと合致するのか判断し、候補者の人物像を見極めることも大切。マトリクス図に自分の人間観・価値観などをプラスして候補者を選ぶことを中島さんはすすめます。
リスクに弱くパターナル
現在の日本の政治はどのエリアに属しているでしょう。「リスク」について、日本は租税負担率(国民所得に対する租税の比率)や全GDP(国内総生産)に占める国家歳出の割合(社会保障や公共事業の関係費用など政府による経済活動)、公務員数などの指標がOECD(経済協力開発機構)諸国の中で最低レベルです。「価値」については、選択的夫婦別姓の是非・LGBTQの権利などの多様性に関する政策に消極的で、靖国神社参拝など歴史認識においても対応はパターナル。この10年間の自公政権で、日本はⅣの傾向を強くしています。
近年の日本の国政選挙には「2・5・3の法則」があります。選挙の際、国民の2割は野党に投票する、5割が浮動票でその大半が選挙に行かない、残りの3割は与党に投票するというものです。投票率が低くなり、5割の人が選挙に行かなければ、業界団体や宗教団体などの固定票を得て与党が勝ちます。そのため、与党は選挙が近くなると争点をぼかしつつ、メディアにプレッシャーをかけて選挙報道を抑え、国民の関心を失わせ、投票率を下げることで選挙に勝ってきました。
ラディカルデモクラシー
このような状況下、野党は与党のⅣに対抗するエリアⅡ「リスクの社会化」「リベラル」を思想・信条とし、野党共闘を戦略的に行わなければなりません。さまざまなデータ分析によると、エリアⅡが国民に最も支持されていますが、その受け皿となる政党が日本に確立されていないのが問題です。
「政治に参加している感覚がもてない、政治は遠い存在」と感じる主権者が増え、投票率が低下しています。選挙は重要ですが、投票することだけが政治参画でしょうか?政治学者の間で議論されている「ラディカルデモクラシー」(参加型民主主義)という考え方があります。ラディカルデモクラシーには「熟議デモクラシー」と「闘技デモクラシー」があり、熟議デモクラシーは市民が街のあり方について話し合い地方政治に反映していくものです。他者の意見を尊重し合意形成を重ねていくのが立憲民主党の目ざすべきデモクラシーのあり方だと中島さんは言います。一方、闘技デモクラシーはより直接的に、場合によっては情動的に闘いを挑むもので、れいわ新選組はこの方法で政治から見捨てられた人たちをすくい上げ、絶大な支持を得ました。熟議デモクラシーの立憲民主党と闘技デモクラシーのれいわ新選組がタッグを組み、野党共闘の力で5割の浮動票を味方につけることが重要だということです。
Table Vol.471(2022年9月)より
一部修正・加筆